○子どもの「できる」が見える場所、KIDSLAND
会場に着いたその足でキッズランドに直行し、ギリギリ終了前に滑り込んだ。10年前はここも客向けのキャンプサイトだったような…? と思ったが、やはり2010年に今の場所へと移動していたようだ。
朝霧Jamの規模はフジロックの10分の1だというが、キッズランドはもう少し比率が高いような気がした。ほどよいサイズ感が魅力の朝霧Jamを筆者は愛しているのだが、朝霧Jamのキッズランドもまたいい具合のジャストサイズ! フジロックにようにダイナミックな森も素敵だが、子を見失わない程度の広さなのは親にとっては助かるポイントだし、朝霧Jam特有のゆる〜い雰囲気の中で親も子も肩肘を張らずにのんびりと楽しめるのは気分がいい。
そしてこの日もドラゴンは大きく成長を遂げている姿を見せてくれた。
これまでのプレーパークでは一度も登れたことがなかった竹タワーだが、この日は自ら裸足になって一段目を軽々と自力で登りきった! しかし、タワー二段目にはどうにも届かず、母に助けを求めてきたがそこは手を貸さなかった。なぜなら今年のフジロックのキッズランドで、小学生のタイチ君が「自分で登れないところは登っちゃだめだよ」とドラゴンに、そして筆者に教えてくれたからだ。この明白で前向きなフレーズは、よく言ってしまいがちな「危ないから登っちゃダメ」よりも100万倍から1000万倍の効果がある。
そのときのタイチ君の言葉をそのままコピーして、さらに「今はできないけど、大きくなったらできるようになるよ」というエールを加えてドラゴンに伝えた。すると朝霧Jam以後、何かできないことがあっても、自らキリっと頭を上げて「オオーッキクナッタラ(手ぶりつき)デキルヨウニナルヨ!」と毎回言うようになった。いいぞ、ドラゴン! そしてタイチ君、ありがとう。
その後、ボランティア・スタッフのお姉さんに「あっちに探検できる森があるよ!」と教えてもらい、入り口の木の人形をまじまじと見つめてから中へと潜入開始。
恐る恐る山奥へと進んでいく。「ナンカ アルー!」と叫び、見つけた人形を指さして教えてくれ、探検しながら森のトンネルをくぐり抜けた。
次にドラゴンが向かったのは木の株エリア。
そして、ワークショップへ。間伐材を使ったクラフトワークはまだ難しかったのか立ち止まらなかったが、どんぐりやコルク、毛糸などがパーツとして用意されているテントでは自ら席に座り、どんぐりをハサミで半分に切ろうとしたり、ボンドでパーツ同士をくっつけ始めて創作し始めた。
恐るべし集中力! 大人もハマる人が続出していたらしいのも頷けた。
その後は積み木エリアに腰を下ろして積み上げを開始。積み木をわざと倒してはゲラゲラ笑うという一人遊びを繰り返し、今日一の笑顔を見せるドラゴンを見守りながら母はしばし休息。
そうこうしているとボランティアのお姉さんから「そろそろおしまいね。片付けよう!」と言われ、最初は抵抗した。しかし、お姉さんの帽子に積み木を入れるように促されると、驚くほどすんなりと帽子に積み木を入れ、さらに一緒に運び出した。
一所懸命遊んで、一所懸命片付ける。普通のことだけれど、それができない人もたくさん居るのが世の中だ。ゴミを平気で捨てたり、自分でやったことの責任を負えない人にはなって欲しくないと常日頃から願っているが、周囲の人の力を借りてこうした経験を積み重ねていけばきっと大丈夫だと思える。
○場内散策、ライブ鑑賞
キッズランドが終了した頃には日も暮れかけ、寒くなってきたので防寒着を着せながら「イエイイエイ、いく?」と尋ねると「イクー!」と元気な返事を受け、そのままMOONSHINEステージへ。我が家で“イエイイエイ”とはライブのことである。
急な坂道を降りてゆくと、雑貨やアクセサリーなどが並ぶテントがズラッと並び、暖色のライトがそこかしこに点っている様は海外のクリスマスマーケットのようで暖かな印象を与える可愛らしいエリアだった。ステージではトリのTHEO PARRISHが終わりのこない緩やかなビートを鳴らしていた。
戻る坂道には苦戦したが、バギーに椅子や雨具も全部乗っけて休み休み登り切った。RAINBOWステージではSuchmosの登場を待つ人で溢れていたので、シャトルバス乗り場に近い場所に椅子を置いて鑑賞。
しかし、シャトルバス乗り場が込む前にと数曲見終えたところでふもとっぱらへ戻った。やっぱり並ばずに乗車!
テントに着くと、風呂上がりでサッパリした様子のTファミリーが火を囲んでいた。
「おかえりー、ドラゴン」
「タダイマー!」
大人はビールで、子どもたちはジュースで乾杯し、夕飯を楽しんだ。ドラゴンを風呂に入れたかったが、お腹がいっぱいになった彼は気球から始まった長い一日で疲れていたので「ネル」と言ってすんなりと寝てしまった。
子どもたちが寝た後は大人が楽しむ時間だ。友人と焚き火を囲み、熱燗を飲んで久々の再会を喜び、語らった。その後は3ファミリーと合流し、夜空の下でお喋りを楽しんだ。
■10月9日(月)3日目 天候/晴れ
3日目朝、前日に引き続き、またしてもダイヤモンド富士を拝めてしまった。
前夜の大人タイムでも「今年は天候にとても恵まれた」と朝霧Jam歴の長い皆が口々にし、「ご褒美みたいな年」とさえ言わしめていたほど、初日は降られたものの2日目は夕方までTシャツ一枚で過ごせるほどの陽気だったし、この日の朝も清々しい快晴でテントやタープについた朝露も出発前には乾いたほどで、ドラゴンに至っては上半身裸で走っていた。
この2泊3日はドラゴンをさらに野性的な男児に押し上げてくれ、気がつけば一人静かに、そしてワイルドに水を飲んでいたりもしていた。
朝ご飯を食べ、撤収し、最後に分別したゴミを集積所へ運んで会場を後にした。
帰りの東名高速道路では渋滞もあったが、行きのようなトラブルはないままドラゴンは爆睡して帰宅。初の“親・子の朝霧Jam”は静かに終了した。
帰り道、道路の上に架かる橋に「来年も朝霧Jamで会いましょう」と書かれた横断幕が目に飛び込んできた。会場で触れあったボランティアの方々や朝霧Jamを創る人たちの温かな想いに再び触れ、嬉しくて笑顔になった。
また来年も参加できるといいな。朝霧Jam、ありがとう。
<後書き>
10年ぶりに参加した朝霧Jamは、他のイベントと同じように子連れで全部は楽しめないけれど、相変わらず心の満足度と得られる充実感が非常に高いフェスでした。ご覧の通り、ライブはほとんど観ていない上、散々な初日となってしまったのにも関わらず、不思議と「楽しかった」と言えていることが面白くもあります。息子のドラゴンはと言いますと、「オヤマ、タノシカッタネー!」「マタ、キャンプ イコーネ!」と話してくれています。
日本最大級のフェスであるフジロックに比べれば、朝霧Jamは子どもが成長する近い将来にはすべてを満喫できるんじゃないかと思える程良い規模なので、変に気負うことなく頑張らずに過ごせますし、レポート内では起きたことを“事件”と記しましたが、高速道路の通行止め以外は自分で改善できるものがほとんどでした。天候に恵まれたのであの程度で済んだのだと思いますが、失敗も終わりよければすべていい思い出です。
ただ、やはりキャンプには予想以上に気を配る必要があると分かりました。朝霧Jamに限らず、キャンプのイロハを知らずに子連れでキャンプインフェスに単独で参加するのはリスキーでしょう。例えキャンパーであっても、我が家のように最初は失敗も多いと思いますので、子連れで朝霧Jamに初参加するならば朝霧Jam歴のあるファミリーのパーティに入れてもらうことを強くお薦めします。
我が家は友人と3ファミリーのおかげで存分に楽しめましたし、学ぶことも多くありました。ドラゴンは小学生の男子2人と5歳男児のオニーチャンたちと一緒にいられることが嬉しくて楽しくて仕方がない様子でしたし、彼らが遊んでくれている間は少々目を離すこともできたので大変助かりました。また、子連れ初参加の母としては分からないことや困った時にすぐに頼れるという環境であったことが何よりも心強かったです。
ドラゴン水浸し事件の際には「うちの子が小さい頃もよく転けたから紐を蛍光色に変えたり、旗を立てたりして目立つようにしたのよ〜」と、すぐにタオルなどを代用して策を施し、そのやり方を教えてもくれました。
ちなみに3ファミリーからの今回の参加者は母3人、父1人、子は合わせて4人。私も3人の母たちのようにアウトドアもスマートにこなせる格好いい母になりたい! と、バッチリ刺激されました。
それから、別の朝霧Jam歴の長い3児の母がこうも言っていました。
「フジロックは情報も多く出ているし宿もある。それに比べて朝霧はキャンプだし、交通もいろいろ不便で行ってみないと分からないことも多い。だから、来てみて驚きがたくさんあるのが朝霧の魅力だと思うんだよね」
言われてみれば、今年は前情報が多くあって驚きましたし、レンタルテントも利用可能になっていたりして便利になった印象はありますが、富士山を前にした大自然と音楽に抱かれて眠るフェスは相変わらずピースフルで、10年前から大きく変わったことはないように感じました。
一方で、独身から子連れでの参加に変化した筆者には、心構えや視点を変えることなどのいくつかのチェンジをすると、きっともっと楽しめると思うに至りました。次の朝霧Jamはもちろんのこと、他のフェスやキャンプでの経験を重ねて全天候を楽しめるようなアウトドア・スキルはやっぱり身につけたいです。
来年への課題は山積ですが、そのすべては“スマートでスーパーな母道”へと繋がっていますのできっと続けていけるでしょう。
母になって3年、自分のライフスタイルは大きく変化しましたが、自分にも変わらない部分があっていい、変える必要がないものもあるという考えを筆者は持っています。今回、10年ぶりに参加した朝霧Jamがまったく変わらぬ好印象を与えてくれたこと、そして息子・ドラゴンがとても楽しそうに過ごしていたことで、変わらないフェス好きな自分を肯定することができました。
親になったからとはいえ、人はそうそう変わりませんよね。ただ、子連れで何かをするときに変えなければいけないのは「やり方」と「考え方」。これからもドラゴン最優先で、彼にいい影響が出るような音楽的英才教育を徹底していきたいと考えています。
取材・写真・文=早乙女 ‘dorami’ゆうこ
写真=Makoto Miyashiro(Lunch The Dog/焚き火), Misato Ishitobi(ケロポンズのパネルシアター), Yasuyuki Kasagi(全ライブ写真、会場全景)
<こどもフジロックFacebook>では、役立ち情報のシェアを呼びかけています。子連れで不安に感じていることなどを、子連れ参加経験のある方には体験談をシェアしていただくことで、子連れ参加がしやすくなるようにするための【こどもフジロック】プロジェクト。想い出を振り返りながら、来年に備えて今年の情報シェアを!