<フジロック>のオフィシャルショップ「岩盤/GAN-BAN」によるアフターパーティー<GAN-BAN NIGHT SPECIAL -FRF’17 AFTER PARTY->が9月29日(金)に開催されます。出演するのは石野卓球、SUGIURUMN、ELLI ARAKAWAという<フジロック>に縁あるDJたちと、進境著しいロック・バンドのDYGL。会場は渋谷クラブクアトロで、オープン29年目にして初のクラブ仕様によるオールナイト・イベントというおまけ付き。歴戦のフジロッカーはもちろん、そうでない人にとってもスペシャルな一夜となりそうです!
今回は出演者インタビューの第1弾としてDYGLが登場。Nobuki Akiyama(Vo,Gt)Yosuke Shimonaka(Gt.)、Yotaro Kachi(Ba.)、Kohei Kamoto(Dr.)による若き4人組で、Shimonakaを除く3人は昨年末に活動休止したYkiki Beat(ワイキキビート)にも参加していました。そんな彼らが奏でるのは、英語詩による痛快なインディー・ロック。ストロークスのアルバート・ハモンドJr.が共同プロデュースを務めたファースト・アルバム『Say Goodbye to Memory Den』を今年4月に発表し、飛躍のときを迎えています。初出演となった<フジロック’17>では、最終日・30日(日)のレッド・マーキーに出演し、モッシュが沸き起こるほどの大盛況に。破竹の勢いを見せる彼らに、<フジロック>の思い出とアフターパーティーへの意気込みを語ってもらいました。
INTERVIEW:DYGL
「自分たちが今いる場所で一番おもしろいことをやっていきたいです。」
――<フジロック’17>出演、お疲れ様でした。まずはステージに立った感想から聞かせてください。
Akiyama 尊敬するバンドもたくさん出演してきた憧れのフェスなので、<フジロック>にはずっと出たいと思っていて。ツアーの前後ということもあり目まぐるしい時期だったので気づいたらライブ当日を迎えていましたが、ライブはとても特別でした。実は体調が悪くて演奏直前まで休んでいたのですが、ライブは絶対いいものにしたかった。ステージに上がってからは、迫りくる気分の悪さと比例して闘争心が沸いてきました。お客さんが演奏に応えてくれているのも嬉しかった。会場からは普段のライブとは全然違う、特別なエネルギーを感じましたね。ツアーの時にも考えることですが、アーティストが果たしている役割と同じくらい、ライブはお客さんが作っている面も大きいですよね。お客さんの期待のエネルギーをあの日は特に感じました。あの場の特別な雰囲気はフジロックのお客さんが特別な空気をもたらしてくれたことにもよると思います。演奏を終えて一人楽屋で休んでいる時にようやく、「<フジロック>で演奏したんだ」という実感が込み上げてきて。これまでの活動を思い出してじーんときた。特別な瞬間でした。
――お客さんのリアクションはいかがでしたか?
Akiyama <フジロック>に出るのも初めてだし、お客さんがどれくらい集まるのかも未知数でしたが、いざ始めてみたら、最近のツアーで見かけた人もいれば、ずっと昔からバンドを追ってくれている人も多く集まってくれていて。初めて来てくれたと思われるお客さんも、見物ノリのお客さんも大勢いるし、(客層が)ゴチャ混ぜでしたね。でも、みんなライブに集中してくれている感じがしました。勿論日によるとはいえ、日本でのライブはお客さんが落ち着きすぎているなと感じることも多いので、弾けるような<フジロック>のお客さんのエネルギーは、何より楽しかったですね。
――<フジロック>に出演するうえで、特別に心掛けたことはありましたか?
Akiyama それまでにアルバムのリリース・ツアーをずっと続けてきたこともあって、いつもと同じようなセットリストにはしたくなくて。自分たちの活動の集大成にするのと同時に、新しい雰囲気も盛り込むことで、何か挑戦ができたらいいなと。そこで新曲もなんとか間に合わせて披露することにしました。
――『Say Goodbye to Memory Den』に収録された曲は、どれもキャッチーでエネルギッシュですよね。あんなにカッコイイ曲を<フジロック>のような大舞台で演奏したら、楽しくて仕方ないんじゃないですか。
Akiyama 楽しいですね。基本的に自分は自分が聞きたいと思っている曲を書いているので、自分が本当に最高の出来だと思っている曲を演奏するのは楽しいです。でも何処かでまだまだ足りないとも感じる。ある日突然ある曲が嫌いになったり飽きてしまうこともあるし、逆に何かのきっかけでそれまで気づかなかった曲や歌詞の意味や価値に気づくこともある。続けていく中で多くの発見がありますが、これまでよりもこれから、昨日よりもいい曲を書きたいですね。本当に良い曲は自分が書いたというより発見したという感覚に近いと思いますが、タイムレスな名曲を発見したいです。今までなかった、最高の曲を書きたい。そういう意味ではまだまだ満足はしてないです。
――出演の合間に、他のアーティストのライブを観ることはできました?
Akiyama 僕は初日の夜から苗場にいたんですけど、ゴリラズとザ・エックス・エックスが良かったですね。めちゃめちゃ良かった。あとは、中高生のときに好きだったジェットを観ることができたのも嬉しかったです。最高のフェスですね(笑)逆に素晴らしいアクトが多すぎてたくさん見逃したので、また何処かでリベンジする楽しみも生まれました。僕らと同じ時間にやってたリアル・エステイトとかまた来日してもらいたいですね。それかアメリカの何処かで観れたら良いのですが。
Kachi 個人的には、2日目の最後に観たエルシーディー・サウンドシステムが印象的ですね。音源はそれほど熱心に聴いてきたわけじゃないけど、ポジティブなエネルギーが充満していて、希望がもらえるようなライブでした。
Kamoto 僕はテンプルズが良かったです。すごくライブ慣れしていて、どんな(サイズの)会場でも演奏できそうなクオリティの演奏でしたね。コーラスとかも、音源を流していたんじゃないかと思うくらいの精度で(笑)。
Akiyama テンプルズは(2014年に)クアトロで観たことがあるけど、そのときから大御所感があったな。
――あのバンドは華もありますしね。Shimonakaさんはどうでした?
Shimonaka いろいろ観たなかで、インパクトが強かったのはエイフェックス・ツインですね。これでもう、<フジロック>も終わるんじゃないかと思ったくらい(笑)。あとは、コーネリアスの小山田(圭吾)さんが弾くギターも凄かった。
――やはりギタリストとしては、ライブ中もギターを意識してしまうものですか?
Shimonaka そうですね。昔より経験も積んで、いろんな視点から音楽を捉えられるようになったけど、最初はどうしてもギターが気になって。小山田さんのギターは、整然とした響きや空気感も含めて、「東京でしかできない表現」だと思いました。VJでも東京の夜景や、高速道路を走っている映像が映し出されていて、それがサウンドと見事に合っていましたし。あとは単純に、演奏がメチャクチャ巧い。
――そんな思い出深い<フジロック>のアフターパーティーに出演が決まったわけですが、率直にどう思いました?
Akiyama <フジロック>が終わってから、気が付くと「フェスロス」が凄くて(笑)。出演者としてもそうだけど、ラインナップも豪華だったじゃないですか。3日間全部行ったのは今年が初めてだったのもあり、このフェスに対するリスペクトも、出演する前より確実に大きくなりました。これが21年も続いているのは凄いことだなって。そして何よりめちゃめちゃ楽しかった。難しいことを考えず、友達と酒飲んで自然の中ではしゃいで最高な音楽聞いて、最高。音楽が最高な場所は最高なんです。それに尽きる。音楽が楽しいっていう至極当たり前なことを、改めて全身で感じることができて嬉しかった。
――<フジロック>の歴史に足を踏み入れることで、大きな学びがあったんですね。
Akiyama それでさらに、アフターパーティーの限られた枠に選んで呼んでもらえるのは嬉しいですね。深夜帯のDJイベントというのも含めて楽しみです。
――石野卓球、SUGIURUMN、ELLI ARAKAWAというDJ陣との共演についてはいかがでしょう?
Akiyama 組み合わせも含めて楽しみですね。特に卓球さんは90年代に一時代を築いたアーティストですし、そういう方と一緒にやれるのは素直に嬉しいです。
Shimonaka 久保憲司さんの写真集『loaded』にも、卓球さんの姿が載っていましたよね。それに卓球さんは、今でもカッコイイじゃないですか。昨年、夢の島で電気グルーヴのライブを観たんですけど(※)、そのときもおもしろかったし。
※<WORLD HAPPINESS 2016>でのこと。Shimonaka以外のメンバー3人は、Ykiki Beatとして同フェスに出演していた。
――今回のアフターパーティーは、2007年の<フジロック>から毎年開催されている深夜のDJパーティー<GAN-BAN NIGHT>の延長戦となりますが、「GAN-BAN SQUARE」に足を運んだことは?
Akiyama オアシス・エリアにあったクラブっぽいところですよね?あそこで友達と呑んでましたよ。深夜の手持ち無沙汰になったとき、ああいう緩く楽しめるスペースはありがたいですよね。
――<GAN-BAN NIGHT>といえば、2010年の<フジロック>で卓球さんがサプライズ出演したのが個人的に忘れられないです。午前4時過ぎという最高の時間帯に、ニュー・オーダーの“Blue Monday”をかけていたのもたまらなくて。
Akiyama うわー、マジですか。それは滅茶苦茶いいなぁ……。
――そういうミラクルも<フジロック>の醍醐味だし、今回のアフターパーティーも何かが起こるかもしれませんね。
Akiyama そう聞くと、一気に期待値が上がります(笑)。
Kamoto Kachi君はクラブ好きだしね。
Kachi いやいや、そうでもないんだけど(笑)。<フジロック>に出演したあと、ミツメと一緒に中国でのツアーを回ったんですけど、そのときに僕が酔っ払ってしまって。それから(バンド内で)よくネタにされるんです。
Akiyama 認めていこうKachi君。知らないフリはできないよ。
Kachi まあ、酔っぱらうのは好きだけどね(笑)。それに、今回のアフターパーティーは、自分たちのツアーの真っ最中でもあるので、かなり温まった状態でステージに立つことになると思います。
――なんと当日(9月29日)、DYGLは長野でライブをやってから出演するんですよね。それはたしかに温まってそう。
Shimonaka あと個人的には、会場のクアトロに対する思いも強いですね。海外のいいバンドが初来日するときって、いつもクアトロに出るじゃないですか。
Akiyama オアシスの初来日(94年)もクアトロだもんね。
Shimonaka そうそう。好きなバンドのライブもあそこでたくさん見てきたし、そういう憧れの会場でライブできるのも嬉しいです。
――ロック・ファンにも馴染みの深いハコでしょうし、クラブイベントだからと身構えることなく、気軽に足を運んでほしいですね。
Akiyama いざ蓋を開けてみたら、DYGLが一番クラブを意識したセットになっていたりして(笑)。“Blue Monday”もセットリストに入れておく?
Kamoto それはまずいよ!
――(笑)。DYGLは快進撃が続いていますが、『Say Goodbye to Memory Den』という素晴らしいアルバムを完成させたことによる、手応えやリアクションも大きかったのでは?
Akiyama かなりありましたね。それこそ、高校生のときにバンドを組んで活動していた頃は、自分たちのやりたい音楽が日本で受け入れられるなんて全く想像できなかった。通常のブッキングでむしろ此方が金を払って演奏するというシステムの中で延々と同じような音のバンドが演奏していて、何か新しいことが起きている期待感も、解放感も、実験精神も何も感じなかった。この国では自分の好きなタイプの音楽の価値は無視されるだろうと思っていた。ですが活動をするうちに東京、あるいは日本にも音楽を本当に愛して深く掘り下げている人たち、自分よりもよっぽどそういったことを理解して実践している人たちがいたんだということにインディ・シーンの人たちとの交流を通して気づき始めました。そしてYkiki Beatとしてアルバムを出した時にも感じたことではありますが、DYGLとして今回アルバムを出してみて、日本でもこういう形で自分たちの作品を音楽的に受け入れて、サポートしてくれる人がたくさんいるんだということには、正直拍子抜けした感じもあって。もっと無視され続けて、日本での活動はもっと長い戦いになると思っていた。日本でもいい音楽は必ずいつか評価されるという自信と野心はありましたが、想像していたよりずっとスムーズに好意的に受け入れられたなというのが正直な感想です。実際、日本で活動することのほうが海外でやるよりむしろ難しいと感じることは今でもありますが、音楽的に僕らに期待をかけてくださっている人たちがいることは、日本でも面白いことを始めたい、音楽的な何かが起こるかもしれないと希望を持つ励みになりますし、純粋に音楽を楽しんでくださっている人たちがいることには本当に感動しますね。聴いてくれている人がいるという、音楽に対するフィードバックは本当にそのままモチベーションになっています。
――言われてみれば、僕がDYGLのライブを初めて観たのは2013年の原宿・VACANTでしたね。あの頃はインディー・シーンのど真ん中にいたと思うし、バンドの編成も今とは違っていた気が……。
Kachi 僕はそのとき、バンドのお客さんとして観に行ってました(笑)。
――そこから4年を経て、12月9日(土)の東京ワンマンはリキッドルームが会場ですもんね。バンドは逞しく成長して、活動の規模もどんどん大きくなっている。
Akiyama そうですね。地方のレンタル屋さんにもCDが置かれたり、アルゼンチンやブラジル、ウクライナなどこれまで自分たちが全く所縁のなかった地域の人たちからもFacebookのメッセージが届いたりと、インディーの枠を越えて、自分たちの活動が推進しているのは感じていて。あの頃にしかできなかったこともあれば、今だからできることもあると思う。ケ・セラ・セラ、ですね。これからも常に、自分たちが今いる場所で、一番おもしろいことを見つけて、やっていきたいです。
text&interview by Toshiya Oguma
photo by Shusaku Yoshikawa