大人たちは自分の判断で何かを行い、ある程度のことは自分の責任だと納得することができます。
けれども、子どもたちはそうはいかない。
聴力のダメージは取り返しがつかないことも多いです。
守ってあげてください。
そして、防音のイヤーマフをしていても、
子どもたちにとって、その場所が安全かどうかは十分に注意しながら、楽しんでください。

—「アジカンからのお願い」から一部抜粋

2018年7月18日、ゴッチこと、後藤正文氏(ASIAN KUNG-FU GENERATION)は、自身のブログで「アジカンからのお願い」という声明を発表しました。それは日本の音楽業界においてコンサートに来場する子どものイヤーマフ装着の必要性を強く訴え、明言したアーティストは後藤氏が初であり、また、影響力のあるアーティストから発信ということもあって大きな話題になりました。

私たち【こどもフジロック】はその声明を強く支持するとともに、アーティスト側の子連れのお客さんに対するリアルな想いや実際に起きた事の真相についてアーティスト本人にお訊きし、オーディエンス側の読者に伝えて共有したいと考えました。子どもの有無に関わらず、音楽という場所での多様な過ごし方について皆で考えるきっかけになればという願いを込めてお届けします。

Interview:後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

『アジカンからのお願い』の真相

——2018年7月にアナウンスされた「アジカンからのお願い」の中で「今回のツアーでは、いくつかの会場でライブに集中できない事態に遭遇しました。端的に言えば、安全とは言えないポジションに無防備な子どもがいました」とありますが、当時の状況を詳しく教えてください。

久々にライブハウスでやったら、お子さんを抱っこされて参加している人たちを何組か見かけたんですよ。神戸の公演では最前列に小学生くらいの子どもがいたからびっくりして。スピーカーからの距離もかなり近かったし、絶対にその子の耳がおかしくなるから、隣りにいたお父さんみたいな人に「ここで聴いたらほんと危ないから」って言って。狭いライブハウスだと反響音が大きすぎるから自分の耳を守るためのボーカル用のイヤープラグを使用するんですが、その日もしていたので自分の耳からそれを外して「これオレのだけど使っていいから。せめて耳栓してくれ」と言って渡して。

——それは曲間ですか?

曲間ですね。MCのところじゃなかったけど、その子がやばいと思ったからメンバーに演奏を待ってもらって、伝えに行って。結局はスタッフのヘッドフォンを貸したんです。密閉型のヘッドフォンなら少しは耳が守れるから、その日は凌いでもらって。終わってから「なんかこういうの、増えたらやだね」という話をメンバーとしていて。その次の静岡公演では、かなり小さな子どもを抱っこした人が前の方にいる姿が楽屋に置いてある客席を映すモニターに映ってて。これは絶対無理だと。

——そういう場合、バンドはどうするんですか?

そんな状況を分かっててライブなんてできないから、後ろに下がってもらうように説得しに行ってきてくれってスタッフに伝えて。でもそのお客さんは「大丈夫、慣れてるから」と言って、下がってくれないと聞かされて。

——そうは言われてもステージからはその親子の姿も見えるでしょうし、気になりますよね?

めちゃくちゃ気になりますよ。演奏できないですよね。人が詰めてきて押されるかもしれないし、怪我をするかもしれない。それに耳はひどく痛めると回復しないこともあるし。ミュージシャンの中にも大きい音の中にずっといたせいで耳が聞こえなくなっちゃった人もいるし、俺たちもライブをやったその日は音楽の聴こえ方が変わるくらい耳が疲れるから。

kodomo_gotch_01 【こどもフジロック】「アジカンのお願い」の真相、そして防音イヤーマフの必要性 — 後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

——後藤さんの声明が公開された同時期に、こどもフジロックでは耳鼻咽喉科医師のインタビュー記事を公開しました。その中で、<フジロック>の会場はオープンエアーなのでライブハウスとは状況が違うと。

そうですね。スピーカーからの距離もありますからね。

——しかし、100デシベル以上の音量が放出されているような場所、例えばライブハウスやホールクラスの閉鎖的な空間でのスピーカー前などでは大人の耳であっても突発性難聴になる可能性があるそうです。

子どもには絶対イヤーマフをさせたほうがいいですよ。静岡の時はその日のうちにイヤーマフを買って用意しようと思って、近くの店で売ってないか調べたけど見つからなくて。だから通販で買い揃えて次の会場から貸そうよってことになりました。

——アジカンのライブにも子連れ客が目立ち始めているということでしょうか。

そうですね。最近見かけるようになってきたんで。ちょっと時間は遅いけど、連れてこられるようになったのなら、それはいいことだと思ってて。

——声明では「次のツアーからイヤーマフのレンタルを開始する」とありましたが、現在開催中のツアーで実行されていますか?

はい、貸してますね。どれを買っていいかわかんないとかあるだろうし、持ってなきゃ入れないとかは無理だろうなって思ったんで。ライブハウスなら後ろの方に親子席みたいなスペースも作って。そうしていかないとねって思うし。

——ロックバンドであるアジカンが子連れ客の受け入れ体制を完備してライブ活動をする理由は?

親の世代が音楽から引き上げちゃうのが文化的な問題だと思っていて。お金の使い道が子どものためだったり、いろんなところに向いて、変わっていくんだと思うんですけど、それが理由で音楽から引き上げちゃうっていうのはもったいない。でも海外でライブを観に行くと2世代で来ていたりしますからね。

——ドイツでフーファイターズの公演時に見た、親子観客について言及されていましたね。

彼らは2世代バンドなんだなって思いましたよ。僕らより、ちょっと上くらいの人もいるし、その息子さんが中学生くらいで彼女といて、そのお父さんがちょっと居づらそうにしてるとかね(笑)。いろんな世代を見かけて、すごいいいなって思いましたね。あと、Spotifyとかもすごくいいと思ってて。一時的にどうしても家族にお金を使わなきゃいけない時期には、レコードとかCDを我慢しなきゃいけないような経済的な状況ってあると思うんです。そういうときに月々1000円程度で聴き放題があるってめちゃくちゃいいじゃんみたいな。

kodomo_gotch_02 【こどもフジロック】「アジカンのお願い」の真相、そして防音イヤーマフの必要性 — 後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

——サブスクのいい面ですよね。

そう、サブスクのいい面はそこ。だから、移動中や通勤中はサブスクで音楽を聴いて、夏はフェスだっていう風になることで、みんなが音楽から引き上げずにいられるなら最高だなと。50歳、60歳になって落ち着いたらまたレコードを買う人もいるかもしれないけど、「昔は音楽好きだった」と言ってる人が僕らの上の世代にもいたりして、そういうのを聞くともったいないなって思っちゃうから。

「ライブやフェスに、子どもと大人、家族で来るようになってはじめて音楽が生活の近くに在るようになる」

——日本と海外の音楽フェスやライブにおける違いは感じますか?

独特なんじゃないですかね、日本は。高齢化してきているというか。音楽はずっと面白いのに、なんでみんないなくなっちゃうんだろう。ハイスタのライブに行くと当時のキッズたちが大人になってもずっと好きで来てますよね。大人たちが退場しない場所になっていけばいいと思う。ライブとかフェスに子どもと大人、家族で来るようになって、はじめて音楽がもうちょっと生活の近くに在るようになるんじゃないかと。僕らのようにフェスやライブハウスとかでやってるような音楽は特にね。だから子連れもなるべく上手に参加できるような環境にみんなで整えていくのが幸せなんじゃないかなって。親子でコンサートに来るような人たちがもっと増えて欲しいから、「入場できません」と言うよりも、どうにかしてみんなで楽しむ方法を考えていくほうが将来を考えると豊かかなと思って、イヤーマフがいいかなと。

——なるほど。では、<フジロック>に子連れで参加することについては?

全然問題ないと思います。それは、その家族の問題ですから。夜中とかは気になっちゃうし、時間と年齢は考えなきゃいけないかもだけど、でもまあその辺もその家族の判断であって他人がどうこう言うことじゃない。今日は遊ぶって決めてるだけで、いつもはめちゃくちゃ規則正しい家族なのかもしれないしね。ただ、子どもが辛そうなら「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」とか、「雨きついし」って周りが促してあげればいいと思うし、困ってるやつがいたら「大丈夫?」って言ってあげたらいいだけの話で。みんながそういう気持ちでいれば、子どもが来てもいいんじゃないかなって。気をつけて欲しいのはタバコくらいかな。事故がないようにね。

——イヤーマフだけでなく、ライブ中の写真撮影に関しても「みんなで楽しめるように」というバンドの想いが現れた気持ちのいいスタイルを追求されていますよね。

マナーを悪いやつを見つけて怒っているのって、すごい損だと思うから。他人を責めるのはやめた方がいい気がするんですよね。減点方式でやっていくと疲れちゃいますよね、せっかくフェスにまで来てるのに。耳元で歌われて嫌なんだったら違う場所に動けばいいだけ。まずは自分の身の回りから気持ちよくしていって、困っているやつは助けるっていう方向にしていく方がいい。責め合うよりも、許し合ってる方がいいんですよ、絶対。

——みんなで遊ぶ場所だから許し合おうよ、と。

そう。許し合う中で価値観がぶつかり合う時は、話し合うしかないし、譲り合うしかない。演奏する側としてはなるべく事故はないほうがいいし、自分たちの演奏中に調子が悪くなるやつはなるべく少ない方がいいしね。例えば、音の大きさが健康被害の原因になっちゃうと、いろんなところがおかしくなっていくと思うから。だけど、子どもを連れてくるのは悪いことじゃない。ああいう場所でキャンプして音楽を楽しむっていうのはいい経験になるだろうし。みんなが「本当に困ってる人がいたら助けるよ」くらいなメンタルでいると、自分が本当に困ったときも誰かが助けてくれるんですよ。そうやって少しずつみんなが持ち寄れば、圧倒的に過ごしやすい場所になっていくと思いますけどね。でも<フジロック>って、もともと誰かを監視してる人っていないでしょ?

——いませんね。ただ、バンドが活動を重ねる分だけファンも年齢を重ねるのと同じで、<フジロック>開催当初にはティーンだった人たちが40代のミドル層になり、子育て世代になったのでイヤーマフなどの子連れトピックもメインストリームに上がってくるのは自然の流れかと。

そうですよね。僕らの世代は二十歳前後でロックフェスというカルチャーに遭遇したから、今、40代、30代の僕らより若い子たちも子育てしながら観に行くっていう人も多そうですもんね。それはすごくいいことだと思うし、そうしていかないとフェスも残っていかないしね。

——私たちもそうした変化を受け入れ、必要な情報を出して行きたいと思っています。

ポジティブにいったらいんじゃないですか? オリジナル・イヤーマフとか売って商売したらいいんですよ。

——<フジロック>では昨年から販売していますね。

そういうのでいいと思うんですよ。必要だから。現地で買えるのもいいと思うし。

——今年の<フジロック>だけでなく、これから先のアジカンのライブを経験する子どもたちの将来が楽しみですね。

すごい素敵な経験になってほしいって思うじゃないですか。バンドやりたいって思うかもしれないし。だから、なるべく協力してあげたいし、僕らにも返ってくることだしね。上手に共有していく方法を考えていけばいいかなって思ってます。

text&interview by 早乙女‘dorami’ゆうこ
photo by Tsuneo Koga

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