毎回さまざまなゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力・思い出・体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回はモデル/俳優/ブランドディレクターなどさまざまな領域で活躍し、熱い音楽ファンとしても知られる水原希子が2018年と2019年に続き3度目の登場(2014年にはテイ・トウワと高橋幸宏とのコラボ曲「The Burning Plain」で歌手デビューも果たしている)。
コロナ禍を経ての久々の登場ということで、その間にさらに親みを深めたフェスとなっているであろう<フジロック>について、たっぷりと語ってもらった。
Interview:水原希子
ヒーローと愛する人が交差したステージ
——2018年と、2019年にこの瓦版で<フジロック>について語っていただきました。それからコロナ禍も含め数年経ちましたがその間にできた<フジロック>の思い出を教えていただけますか?
めちゃくちゃいっぱいあるんですけど、あえて挙げるなら今お付き合いしている彼がJohn Carroll Kirby(ジョン・キャロル・カービー)というミュージシャンなんですが、2023年にRED MARQUEEで出演したときのことが思い出深いですね。彼とはFFKTというフェスで出会って、共通の友人がいたり、いろんなところですれ違っていたことが発覚して、それからお付き合いすることになりました。そんな彼の音楽は世界中の人から愛されていますけど、日本の人にもすごく愛されている印象があったので、日本のミュージック・フェスティバルの代表格である<フジロック>には絶対出て欲しいなと思っていたら出演が決まって、それがすごく嬉しかったんです。
当日、彼はバンドセットでプレイしたんですけど本当に素晴らしくて。その年に亡くなってしまった坂本龍一さんと高橋幸宏さんへのトリビュートとしてYMOのカバーを3曲ほど演奏したのも衝撃的でした。その中でも「RYDEEN」のイントロのフレーズが始まった瞬間、ジョンのことを知らない人たちもその音を聴いてブワーッと集まってきて。すごく感動的でした。私はYMOにすごく大きな影響を受けていて、彼らは私のヒーローなんです。そんなヒーローたちとお話したり、番組で共演させていただいたり、仲良くさせていただいて、それだけで本当に悔いのない人生だと思えるくらい大きな存在で。自分の愛する人が自分のヒーローであるYMOの曲を奏でてくれて、それを聴きにみんなが集まってきてくれたんです。天国にいる坂本さんと幸宏さんに音楽を通して今でも繋がれる感覚があって、泣きながら踊っていました。感慨深かったですね。きっと一生忘れない。
——本当に素敵な思い出ですね。そういった感動的な経験を重ねた<フジロック>というフェスはどのような存在だと思いますか?
不動の地位ですよね。国内外問わず、いろんなジャンルの今をときめく方から、レジェンダリーな方まで、本当にたくさんのミュージシャンが出演していて。それに近年は海外からのお客さんも多い印象がすごく強いです。中国や韓国、タイから来ている方もいて。今まで以上に海外の方が来ている。それも新鮮に感じました。世界中の人が<フジロック>を楽しみにしているんだなって。
——コロナ禍で開催できなかった年や、規制を設けて開催した年もありました。やはり寂しさはありましたか?
そうですね。私は本当に音楽がないと生きていけないような人間で。フェスのために普段は頑張って働いて、フェスで全部解放するような生き方なんです(笑)。でも一方で、コロナ禍では人が直接集まる形ではできなかったけれど、ミュージシャンの方の多くがいろんな発信をされていたので、どんな状況でも音楽へ魅力は伝わるんだと思えて、それに応えるようにみんなの音楽への想いが強くなっていくのを感じていました。だからいざフェスが開催できるようになったときには、私も含めてみんながその愛を爆発させたんじゃないかな(笑)。
——そんな水原さんはきっとフェスをきっかけにたくさんのアーティストの音楽に出会っているんでしょうね。
実は今回<フジロック>の3日目に出るAtsuo the Pineapple Donkey(アツオ・ザ・パイナップル・ドンキー)さんは海外のフェスで知ったんです。Wonderfruitというタイのフェスがあるんですけど、夜に日本の方がステージを手がけている場所があって、そこに行ったらめちゃくちゃ音楽が良くて、無我夢中で踊っちゃいました。しかもてっきりDJかと思っていたら、その場でライブ演奏していて。「ええ!これライブでやってるの!?」と驚いて、「この人は一体誰?」と気になって調べたら「Atsuo the Pineapple Donkeyって人らしい!」と。名前もキャッチーすぎるし、音楽も超カマしていて、一発で虜になりましたね。それから彼のパフォーマンスが終わったあとにしっかり調べたら、すごく可愛らしい方で。コロナ禍でバズった方らしいんですけど、彼は最近フェスで発掘して、今年の<フジロック>でめちゃくちゃ楽しみなアクトの一つです。これを読んで気になった方は絶対観てください。
「ラインナップを眺めているだけでワクワク」
——ちなみに今回の<フジロック>で他に気になっているアクトはありますか?
バーミング・タイガー(Balming Tiger)もめっちゃ楽しみです。ヒョゴ&サンセットローラーコースター(HYUKOH & Sunset Rollercoaster)も良いですよね。結構フラッといろんなステージを観に行く方なので、ラインナップを眺めているだけでワクワクします。坂本慎太郎さんと、ファンでもありお友達でもある青葉市子ちゃんは観たいと思っています。あとKIRINJI(キリンジ)も。今後追加されるアクトもありますもんね、ヤバい、楽しみです。あとはもちろん野外の山下達郎さんは絶対観ないとですね。達郎さんのライブはもう何度も行っているんですけど、野外だと絶対感覚が違うと思うんです。あの声がたぶん何倍も気持ち良く聴こえますよね。絶対に泣くと思う。いや、達郎さんのライブを観たら毎回泣くんですけどね(笑)。
——自然豊かな野外で音楽を聴く体験は<フジロック>の魅力の一つですね。
自然の中で聴くと開放感もあって段違いで気持ち良いですよね。贅沢の極みだと思います。もちろん室内のコンサートにも行くんですけど、自然の中にいて音楽と混じって聞こえる鳥の声や、吹く風、そういったことがもっと音楽を特別にしてくれると思うんです。前回のインタビューでもお話ししましたが、2018年の<フジロック>では大雨の中でケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のパフォーマンスを観ていて、「雨が降っているのにどうしてこんなに気持ち良いんだろう!」って感じたのを今でも覚えています。あれが忘れられないんですよね。最初は「あ、雨が降ってきちゃったな」と少し残念に思ったりしたんですけど、ケンドリックのテンションが上がっていくのと同時に雨もどうでもよくなって、こっちもテンションが上がって一体感が生まれていって。雨さえも興奮材料になる。それは野外ならではですよね。
——そんな野外のフェスである<フジロック>で水原さんが気に入っているスポットはありますか?
芝生があればどこでもいいのかもしれないです(笑)。もしかしたらGREEN STAGEの芝生のところが一番好きかも。2019年はあそこで寝転びながらBob Dylan(ボブ・ディラン)を聴いていて。「ボブ・ディランを観ずにボブ・ディランを聴いているなんて贅沢すぎる!」って。「本当にいいのかな?」という気持ちになりますよね。横になれるところが好きです。現実問題、ずっと歩き回っていると足は疲れてきちゃいますんでね(笑)。
——しっかり休む時間を作るのも楽しむコツですよね。<フジロック>の楽しみ方は足を運び続ける中で変わっていきましたか?
最初に行ったときよりも<フジロック>が好きな友達がすごく増えたというのはありますね。<フジロック>に行ったら誰かしら友達がいるんです。で、そのコミュニティもどんどん大きくなっていて、そのときどきでいっしょに遊ぶ友達やいっしょに休む友達、いっしょにご飯を食べる友達がいるような感じになっています。それぞれが思い思いに行動している中で別れたり合流したりできる感じがすごく好きなんですよね。で、最後の日は朝まで頑張って遊んで、みんなが合流して「楽しい!」を共有するんです。そういう緩やかに繋がっている感覚も良いんです。
——間違いないです。
それに<フジロック>は毎回フルで参加しているようなレジェンドの存在も大きいです。ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)のNOBU(北村信彦)さんや野村訓市さん、ジョニオ(高橋盾)さんあたりは毎回いらっしゃるイメージで。皆さんパワフルですごく尊敬しています。元気をもらいますね。
——水原さんもいずれレジェンドと呼ばれるかもしれませんね。すでに水原さん流の<フジロック>の遊び方は決まっていたりしますか?
<フジロック>だったら2〜3日間通して遊ぶのが好きです。いっしょに行く友達や向こうで出会った新しい人とも仲良くなれますからね。もちろん自分の好きなミュージシャンの音楽を聴きに行くという前提はあると思うんですけど、それをみんなで分かち合うという喜びも大切ですよね。友達といっしょにハイテンションになって、後から振り返って「あの瞬間ヤバかったよね!」って言い合うのが醍醐味というか、みんなで体調管理をし合って、お互いを労って、支え合う感じも楽しいですよね。長い時間いっしょにいるから仲が深まるんです。
——ちなみに<フジロック>は天候など環境にある程度は対応できるように準備して行くことが多いと思うんですが、最近だとどんなことを意識していますか?
実はこれまで「カワイイ」をずっと意識できていなかったなと思っていて。フェスに行き始めたときはどうしても「雨が降るかもしれない」「足がぐちゃぐちゃになるかもしれない」と考えてしまって、真っ黒のアウトドアブランドでフル装備という感じでした。もちろんそれはそれで安全ではあるんですけど、あるときコムアイさんをフェスでお見かけしたら、超カワイイ格好をしていて。スケスケのワンピを着て、すごくキラキラしていたんです。「これだ!」と。ちゃんと「カワイイ」を意識する大切さを知りましたね。今回は機能性も考えつつ、遊び心を忘れないようカラフルなアウトフィットを意識して準備したいです。
——自分の気分を上げる準備の段階から<フジロック>を楽しむということですね。
皆さんも準備万端で、いっしょに楽しみましょう!
Photo by 寺内暁
text&interview by 高久大輝