開催を約1ヶ月後に控えた<FUJI ROCK FESTIVAL ‘24>。世界中のミュージシャンが一堂に会する3日間、ところで様々なステージのラインナップに名を連ねている「US」(アス)の二文字に見覚えはあるだろうか? 彼らはフィンランドからやってきた5人組の新人バンドであり、今年の5月にデビューアルバム『Underground Renaissance』をリリースしたばかりだ。

フジロックの創始者であり、フジロックを主催するSMASHのファウンダーである大将・日高正博が立ち上げたインディーレーベル〈REXY SONG〉と、今年の春にマネージメント契約を結んだばかりというUS。そのサウンドを解体し、今年のフジロックでフレッシュな旋風を巻き起こすであろう彼らの正体を明らかにすべく、富士祭電子瓦版では特別コラムを企画。執筆してくれたのは、YouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」でも活躍する編集者/ライター/写真家の照沼健太だ。世界的なロックサウンドの復権とも呼応する、USの特異な魅力とは。

「ロック復権の時代」としての2020s

「ロック不毛の時代」としての2010年代。それは、1950年代のロックンロール誕生以来、歴史上最大とも言える暗黒期だったかもしれない。例えば、新作レコードという観点では、ポップ音楽シーンにおけるロックの重要作品はアークティック・モンキーズ『AM』はじめ数えるほどしかないと言わざるを得ないだろう。コールドプレイを筆頭に、この時期にバンドサウンドから離れる試みをしたベテランバンドが数多いたこともそれを証明している。

しかし、ひとたび英米の外に目を向ければ、そんな物言いは通用しなくなる。夏フェスとともに邦ロックが存在感を増し続けた日本、大物ロックバンドがフェスのヘッドライナーとして大活躍した南米など、地球規模で見れば、決してロックバンドが廃れていたわけではない。

そして2020年代、全世界的にロックバンド復権の兆しが見え始めている。チャートアクションは振るわなかったものの、2010年代を走り抜けたヴァンパイア・ウィークエンドの新作『Only God Was Above Us』は見事な傑作であり、バンドサウンドが多くの音楽ファンの耳に再びフィットし始めていることを証明した。そして、ビヨンセの新作『COWBOY CARTER』はカントリーをメインにフィーチャーしながらも、その中にはロックンロールへの言及があり、サウンド的にもロックの意匠が取り入れられていた(ビヨンセは本作リリースにあたり、ジャック・ホワイトへ「あなたがインスピレーションになった」と手紙を送っている)。そしてイギリスに目を向ければ、ザ・リバティーンズが新作アルバム『All Quiet On The Eastern Esplanade』で20年ぶりの全英1位を獲得している。2024年現在、この潮流は音楽シーンの中で確かに誕生している。

USとは何者か?

さて、本稿の主役であるUS(アス)も、そんなロック復権の潮流も相まって「新世代のロックアクト」となることを期待されているバンドである。

Us_Photo4 フジロックにロックンロールがやってくる。今年の台風の目・フィンランド出身の新人バンド「US」を照沼健太が徹底解説 #fujirock
写真左から
テオ・ヒルヴォネン Teo Hirvonen (ヴォーカル/ギター)1996年6月3日生まれ
マックス・ソメルヨキMaxSomerjoki(ギター/ヴォーカル)2001年8月27日生まれ
パン・ヒルヴォネン Pan Hirvonen (ハーモニカ)1994年1月22日生まれ
ラスムス・ルオナコスキ Rasmus Ruonakoski(ベース)1998年10月20日生まれ
レーヴィ・ヤムサ Leevi Jämsä(ドラム)1998年2月5日生まれ

彼らはフィンランド出身の5人組ロックバンドで、ヴォーカリスト/ギタリストにしてメインソングライターのテオ・ヒルヴォネンとベーシストのラスムス・ルオナコスキが高校で結成したバンドが母体となり、そこに実の弟や友人が加わる形で2021年に結成されたという。そう、彼らはパンデミック下に結成されたバンドなのだ。

そんな新世代バンドであるUSの最大の特徴は、「ハーモニカ/バッキングヴォーカル」担当のメンバーがいることだ。プレスリリースによると、英国の音楽誌「MOJO」は彼らを「ドクター・フィールグッド・スタイルのパンク・ブルースに全盛期のラモーンズの気迫」と表現したそうだが、それも納得だ。激しく吹き鳴らされるブルースハープとキレ味鋭いギターカッティングを持ったバンドサウンドの組み合わせは、まさしくドクター・フィールグッド、あるいは初期ミッシェル・ガン・エレファントを連想させる迫力に満ちている。

当初は別の名前で活動していたという彼らだが、イギリスを代表するスカ・レゲエバンドであるザ・トロージャンズのリーダー、ギャズ・メイオールが名付け親になったという。彼らの若々しいエネルギッシュな演奏と、キンクスやドクター・フィールグッド、Tレックスなど英国ロックンロールの歴史に連なるソングライティングやバンドマナーに、ギャズが目頭を熱くさせたことは容易に想像できる。

実際、彼らは2023年にはイギリスで65回ものライブを行っており、その活動拠点をイギリスに置いていることからも、その音楽的ルーツとしてイギリスが強い影響を与えていることは間違いないだろう。

ロックの合流地点、デビュー作『Underground Renaissance』

そんなUSがリリースしている現在唯一のレコードが、日本で5月22日にリリースされたデビューアルバム『Underground Renaissance』だ。

「ザ・リバティーンズが所有するスタジオ、ジ・アルビオン・ルームズにて全曲を1日でレコーディングした」というエピソードが何よりも雄弁では無いだろうか。2000年代イギリスのバンドブームの火付け役であるザ・リバティーンズは、直接的あるいは間接的に彼らへ影響を与えていることは間違い無いだろうし、何より「1日でレコーディング」という点は、ザ・ビートルズのデビュー作『Please Please Me』を連想させるものだ。

そして肝心のサウンドは、初期のローリング・ストーンズやキンクス、スモール・フェイセズを思わせるソングライティングと演奏を、まさに「ガレージで演奏しているような」サウンドプロダクションに仕上げたものとなっている。ロックンロールバンドのデビュー作としては理想的なフォルムと言っていいだろう。バンドサウンドがアリになった2024年というタイミング的にもジャストだ。

だが、USと本作『Underground Renaissance』はそこに止まらない。

オープニングトラック“Night Time”の爆音を上げて唸るエンジンを連想させるイントロに顕著だが、60年代ブリティッシュ・インヴェイションや70年代のパブロックに加え、彼らの音楽にはどこかしら「英米のロックンロール以外」が含まれているように感じられるのだ。

それは、あえて極端に言うならば「モーターヘッドを経由した、メタル/ハードロックとチャック・ベリーの融合」。もう少し音楽ジャーナリズム的な物言いをするならば、彼らと同郷フィンランドの伝説であるハノイ・ロックスを一つの始祖とする、90年代後半から00年代に局所的ブームを起こした、ヘラコプターズやバックヤード・ベイビーズらスウェーデン勢を中心とした北欧ガレージロックのことだ(フィンランドにはブレイミング・サイドバーンズというバンドがいた)。

そこには、英米ロックジャーナリズムでは「2001年のザ・ストロークスまでは死んでいた」とされるロックンロールがしっかりと生き残っていた。日本ではチバユウスケや清春といったミュージシャンがフォローしていたものの、世界的にはあくまでアンダーグラウンドなムーブメントだった。しかし、彼らがストロークスを発火点としたロックンロール・リバイバルの土壌を耕す一端を担っていたのは、ザ・ハイヴスやカトー・サルサ・エクスペリエンスら北欧勢が当初そんなリバイバルムーブメントを牽引するバンドとされていた事実からも明らかだ(そこには日本のミッシェル・ガン・エレファントやブランキー・ジェット・シティたちがいたことも付け加えたい)。

ストロークスやリバティーンズ以降の文脈と、脈々と受け継がれる北欧ガレージロックの血潮、そしてマネスキンともシンクロする「英米以外」の潮流。これらの合流地点として、彼らUSと本作を見てみるのもおもしろいのではないかと思う。

フジロックにUSがやってくる。

そして、ここ日本でUSを目撃するチャンスが間も無く訪れる。

それが<FUJI ROCK FESTIVAL ‘24>への出演であり、なんと4ステージもパフォーマンスを行うという(なんと、彼らはフジロックのファウンダーである日高氏のお気に入りでもあるのだ)。

その内訳は次の通り。

7/26(金) GREEN STAGE
※ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA(feat. トータス松本、TOSHI-LOW、後藤正文、GLIM SPANKY、US)として出演
7/26(金) CRYSTAL PALACE TENT
7/27(土) GAN-BAN SQUARE(アコースティックLIVE)
7/28(日) RED MARQUEE

フジロック最大のステージとなるGREEN STAGEの出演においては、日本人アーティストとの共演となっており、こちらも貴重な機会となりそうだ。

さらに、フジロック翌々日の7/30には渋谷・WWW Xでのワンマンライブを予定。苗場で思う存分ウォームアップした彼らのステージを東京でも余すことなく目撃できる絶好のチャンスに違いない。

伝説となったロックンロール・リバイバル、そしてその裏で忘れられかけているアンダーグラウンドなロックンロール。その両者を繋ぎ、新たな時代のサウンドを鳴らす彼らのこれからと、そのステージパフォーマンスに注目したい。

Text by 照沼健太
Edit by Kazama Ikkei

INFORMATION

アンダーグラウンド・ルネッサンス

US_JP_cover_FIX フジロックにロックンロールがやってくる。今年の台風の目・フィンランド出身の新人バンド「US」を照沼健太が徹底解説 #fujirock
US
配信・CD発売中
※日本盤CD品番SICX-200 価格\2,640(税込)
※ボーナス・トラック1曲収録 解説・歌詞対訳付き
収録曲:
1. Night Time | ナイト・タイム
2. Snowball Season | スノーボール・シーズン
3. Hop On A Cloud | ホップ・オン・ア・クラウド
4. Paisley Underground | ペイズリー・アンダーグラウンド
5. Just My Situation | ジャスト・マイ・シチュエーション
6. In & Out My Head | イン・アンド・アウト・マイ・ヘッド
7. Citroen Blues | シトロエン・ブルース
8. Carry Your Bag | キャリー・ユア・バッグ
9. Don’t Call The Cavalry | ドント・コール・ザ・キャバルリー
10. While You Danced | ホワイル・ユー・ダンスド
日本盤ボーナス・トラック:
11. Black Sheep | ブラック・シープ
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FUJI ROCK SPECIAL
“US”


2024.07.30(火)
WWW X
東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル2F
OPEN 18:30 START 19:30
スタンディング 前売り:¥6,500(ドリンク代別)
【オフィシャル先行予約(抽選制)】
受付期間:6/18(火)17:00〜6/27(木)23:59
受付URL:https://eplus.jp/us/
《チケット購入に際して》
※お一人様4枚まで
※紙、電子チケット併用
※チケット購入者のみ個人情報の取得あり
※未就学児入場不可、小学生以上チケット必要
お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
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