<フジロック>のキッズランドには、“ボランタリー・ママーズ”と呼ばれるスタッフがいる。全員が子育て世代の母親である彼女たちは、仕事を与えられたフェス・スタッフというよりも、自分たちが子育てしながらフジ参戦した経験をもとに痒いところに手が届くものの余計なことは一切言わずにキッズランド内のベビーテントに来場した子連れファミリーを静かにサポートしている。

そしてもうひとつ、キッズランド内には子どもフジロッカーたちが必ずといっていいほど立ち寄る駄菓子屋があり、それを支えるスタッフもいる。近年では大人もたくさん訪れるけれど、もともとは子どもたちが買い物体験をできるようにと始められたものだ。また、キッズランドには「森のステージ」もあり、ケロポンズや鈴木翼、すし桶ドラムふーちんなどの出演アーティストが発表されたばかり。

そこで今回は、長きに渡ってキッズランドを支えるスタッフのみさとさんとあすさん(ボランタリー・ママーズ)、けんけんさん(駄菓子屋)に、どんな想いで<フジロック>に参加しているのか、実際に現場で起きた出来事について振り返る座談会の模様をお届けする。

——キッズランドで働き始めたきっかけは?

みさと:最初、私は朝霧ジャムズとして朝霧食堂の立ち上げ(2002年)から出店者側で参加していましたが、子どもが生まれて2007年以降はキッズランド・ママーズとして参加しています。あす一家とは近所のプレイパークで知り合って、母同士がプレイパークの世話人をしていることもあって声をかけて。

あす:2010年だったね。

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フジロック・キッズランド(2012年撮影)

——ベビーテントで来場者はどんな風に過ごしていますか?

みさと:乳幼児なのでオムツを替えたり、おっぱいをあげたり、おもちゃで遊んだり、お昼寝をさせたり、子どもを休ませていたりする。「これが見たい」と思っていても、子どもが動かなくて結局キッズランドで終わっちゃったとかもあるね。ベビーテント内ではみんなZカードをながめてる。

あす:きっと「こういうスケジュールで行きたい」って頭の中では思っていても、心の中では「全部ダメかも」と思ってもいて、その選択はしたくないんだけどしてしまうかもしれない自分というか。ベビーテントにいる人たちにはそういう人が多分いっぱいいる。

みさと:そうした中で10年以上かけて環境を整えてきて今に至る。たとえば、授乳ケープにしても「布1枚あればこうできるよ」と少しでも荷物を減らすアイディアを伝えたり、駄菓子屋を始めたのも自分の子どもがお金を持って「ああでもない、こうでもない」っていうのをずーっとやって欲しいというのが想いとしてあるから。キッズランドの仕かけにはひとつひとつに意味があるんだよね。

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フジロック・キッズランド内ベビーテントの様子 撮影:宇宙大使☆スター

——なるほど。では、これまでに困ったことは?

あす:雨のときかな。2013年の「とにかく中へ!」というくらい大変な大雨もあったけど、一昨年の雨の場合は単に人が多くて溢れてしまって。

——ベビーテントは子ども1人につき、大人は付き添いが1人までですよね?

みさと:そうしたのは最近のことで、それまでは人で溢れかえるなんてことはなかったから。雨だと切羽詰まった人たちがベビーテントに押し寄せる。ベビーカーを横付けしたい気持ちもわかるので、受け入れるけどすぐに撤収をお願いする。みんながずぶ濡れ状態でテントの中に入ってきても快適な環境をいかに作れるか、そこに一番気を遣っています。

——場所は限られているし、シェアしないといけないですもんね。

みさと:ベビーテントの中では私たちからの呼びかけはせずに、かゆいところに手が届けばいいという程度の声かけを基本としているけれど、そうした状況では「すいませーん! お子さん1人につき、大人は1人までです!」って言わなきゃいけない。それを言うか言わないかの判断も難しい。

あす:タイミングもあるよね。すごく降ってくるってときに「ごめんなさい」と言わなきゃいけない。中にいる人を外に出さなきゃいけないときもあるし。

みさと:雨が降ると、みんな自分のことで精一杯になっちゃうから。でも言うと皆さんギューッと詰めてくれる。雨で余裕がない中でもまだそれが保てているけれど、もうギリギリな感じだよね。お父さんたちは一人で外で待ってるし。グリーン・ステージにいるお客さんにはプライオリティ・テントがあるという情報も知れ渡ってきているし、すべてがキッズランドに押し寄せてきたらキャパオーバーになるのでうまく使い分けていかないと。

——迷子はどうでしょう?

けんけん:2、3人はいるよね。必ずね。

あす:前はキッズランドの中だけだったような気がするけど、今は範囲が広いよね。でも迷子対策はしている人が多い。

みさと:腕にマッキーで親の電話番号書かれてたりしてね(笑)。やっぱり親の電話番号をどこかに書いておくことでしかないかも。子どもって瞬間で居なくなっちゃうからねえ。

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——以前、子どもだけをキッズランドに置いて、どこかへ遊びに行ってしまう親がいると聞いたことがありますが?

あす:さすがにベビーテントの中でそれはないね。でも去年、明らかに帰ったほうがいい赤ちゃんがいて。何回声をかけても「薬を飲ませたから大丈夫です」と言って、とうとう見たいアーティストがいるからちょっと行ってくるねとお婆ちゃんに子どもを預けて行っちゃった人がいて。お母さん的にはお婆ちゃんが見ててくれるからという思いでいたのかもしれないけれど、お婆ちゃんも最後は呆れ果ていて。熱が出なければ、きっとすごく楽しく過ごせてたと思うんだけど、「熱が出る」「怪我をする」といったアクシデントに対する対処法をその人は知らなかった。諦められなかった。

みさと:私も諦められない人だから分かる。

——でも、諦めなきゃいけないときが<フジロック>にはあると思うんですよ。去年、ケンドリック・ラマーがグリーン・ステージに立っていた時間帯の風がびゅうびゅう吹き荒れているオアシスに、ぽつんと若いママと赤ちゃんがいたので心配で声をかけてみると、生後7ヶ月と教えてくれて平然と笑顔であやしていて。これから風が強くなるぞっていう、ほとんど人がいない状況なのに保護者がそんな風だと「気をつけて、早く宿に戻ってくださいね」と言うことしかできませんでした。

みさと:赤ちゃんは体調崩しやすいし、<フジロック>は天候も崩れやすいし。どこか病院へ行かなきゃとなったときのことを考えたら、なかなか参加するのを決断するのは難しいと思う。

けんけん:うちの子みたいに体温の急激な上昇とかで具合が悪くなってしまう子もいるからね。

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フジロック・キッズランド内ベビーテントの様子

——<フジロック>に参加する上での準備についてお聞かせください。

あす:でもさ、準備するって言ってもどこまで準備するかもあるよね。きりがないから。どこまでやったら準備できたってなるんだろう? それこそ諦めも必要な気がする。

——「ここまでやればいい」というボーダーは誰にも引けないですよね。

けんけん:それが無用な心配でもあるからね。

みさと:<フジロック>に参加するということは、自然の中に子どもを連れていくことになる。それを親がどう捉えるかだと思う。空や雲のことも普段から気にしていると「もうすぐ雨が降るね」とかが段々分かってくるようになるし、子どもの様子だってそう。母としての直感もある。そういうところを感じながら信じていくしかない。あれもこれもってなると荷物も多くなるし、頭でっかちにもなって心配が増してしていく。それをクリアにするには身近な人同士「助けて」とか「貸して」とかお互い言うことじゃないかな。

あす:何でもそうだよね。最初は荷物パンパン(笑)。でも持って行かないとわからないし、要るか要らないかは個々に判断していくものだからね。それぞれの基準をつくっていけばいいと思う。

みさと:こどもフジロックの『子連れフジロッカー・インタビュー』は「私はこの家族が一番近い」と読んで参考になるから、いろんな人をクローズアップするのはすごくいいことだと思う。結局十人十色で全員違うってことがわかるから。

——とはいえ「面白そうだから」といって準備なしに、気軽に、そしていきなり子どもを連れて<フジロック>に行こうとすると嵐でもきたら大変ですよね。

みさと:<フジロック>は過酷だから失敗も含めて経験するしかないと思う。だからまずは他の、自分が参加しやすそうなフェスに行ってシミュレーションしてみるのがいいんじゃないかな。<フジロック>の場合はキッズランドまでだってかなりの距離があるし、駐車場も宿泊先も遠いとすごくハードなのは体感してみないと分からないと思うから。

けんけん:親子で初めて<フジロック>に行ってみようという人は、荒波へいきなり航海に出てしまうようなものかも。自然環境は厳しいし、大人にだって厳しいというのが第一にあって、都内の遊園地とは訳が違うっていうのを分かってもらう必要があると思う。暑さとかホコリとかは画面には映らないもので実際に行ってみないと分からないものだから。

あす:そういうのが面白がれるようになったら、めっちゃ楽しいんだけどね。

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——来場者の道具や装備はどうですか?

あす:装備もよくなったよね。

——でも、2歳から5歳くらいまでが着れるちょうどいいサイズの上下セパレートのレインウエアがないのが困ります。モンベル(mont-bell)がサイズ90を出しているので、<フジロック>ではそればかり見ますね。

あす:モンベルはお値段的にも手頃でいいよね。

けんけん:登山とか厳しい環境でのクオリティは他とは見合わないよね。うちはインナーをモンベル、アウターを他社にしてる。肌に触れる部分はモンベルとか山系のメーカーが絶対いいから。都心から新潟の夏ってなかなか想像つかないけど、昼は暑くて夜冷えたりもするからね。

みさと:そうなんだよね。モンベルは色やデザインの好みもあるからね。

——確かに。でもノースフェイス(THE NORTH FACE)は可愛いけど高い。他のメーカーも、もう少し頑張ってくれたらいいのに。

みさと:昔よりは全然良くなってはいるんだけどね。昔は子どもにも適当なものを着させている人が多かったね。

あす:ぺらぺらのナイロンのでさ。

けんけん:昔の雨合羽だったら30分で無理だよね。

——ほとんどの子どもが本格的なレインウエアを着ている中で「なんで俺だけこんなペラペラなのを着させられてるの?」と子ども心ながら思っているんじゃないかという子が去年もチラホラいました。それは貧富の差じゃなくて保護者の意識の差かと。

みさと:うちは長女、次女がプレイパークで育ったので装備がしっかりしていれば子どもは何にも気にせず遊ぶんだってことにそこで初めて気がついた。それまではピンとこなかったし、重要視してなかったんだけど、装備した子どもたちは普通に雨を楽しんだから。ただ、子どもはすぐにサイズアウトしていくじゃない? それは辛い。

——あと、1万円の靴を用意しても履いてもらえず、300円のサンダルを好まれるのも辛い。その点、あすさんからいただいたクロックス(crocs)の長靴のお下がりは有り難かったです。

けんけん:クロックスにはうちも散々世話になったなあ。

——レインウエアは兄弟がいると回して使いますか? それともへたっちゃう?

全員:へたっちゃうねえ。

みさと:予算を抑えようと思ってリサイクルで買ったことあるけど、撥水が取れちゃって劣化しちゃっててダメだった。やっぱり雨対策には良いものを買わないと。キッズものはなかなかメーカーが手を出してくれないよね。 

けんけん:買うときに値段を見て躊躇しちゃうと思うけど、日常使いでアウトドア商品を使いましょうっていう流れもあるしね。<フジロック>の3日間だけじゃなくて外遊びで使えばいい。

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——他には?

みさと:バギーは一回使うと便利さがわかるよね。

けんけん:子どもも乗り心地がいいんだよね。

みさと:子どもが3歳と4歳の頃はそんなに出回ってなかったから調べて、ニュージーランドのメーカーのマウンテンバギー(Mountain Buggy)にしたんだけど、当時ネット上に<フジロック>のことを記録に残してくれていたママがいたのでそれをお手本にして持ち物リストを考えた。そのママは「宿は絶対プリンスがいい」とか、荷物もパッキングして送っていることも書いてて本当に助かった。

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——<フジロック>は日本最大級の規模のフェスなのにアットホームさが随所に残っているのがバランスの妙で面白いのですが、それの最たる場所がキッズランドではないかと思います。

みさと:お客さん、アーティスト、運営側みんながこの空間を大切にシェアする気持ちでいるからアットホームなんじゃない? あとキッズランドは普通に配属されたスタッフたちではないから。みんなご縁でつながっている。みんなに聞いてみないとわからないけど、私はあの場所をみんなでシェアする気持ちでいるから、キッズの森で何かをしているならベビーテントにいるお客さんともシェアしたいし。それがアットホームにつながっていくんじゃないかな。

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あす:私は<フジロック>というよりもプレイパークにいるような感覚でベビーテントに居たいと思ってるから楽しい。怒っている人もいたりもするけれど、それはどこにでもいるからね。

みさと:それもフェスだからね。危険なことだけ気をつけて見ているのがいいんじゃないかな。そのときの子どものスイッチを誰が持っているかわからない。それが母親だったらいいけれど、他の人の場合もあるからね。ドラゴンだって、たまに会う私の言うことは聞くじゃない?

——ええ、恐ろしいほどすんなりと。母である私の話はまったく聞かないのに。

みさと:ななめの関係って大切だよね。

けんけん:そういうことを気づいてもらえるような場づくりをしたいね。キッズランドだけがそういう小休止の場だと思うんです。だから、最初から参加を諦めている人がいるなら、連れて行くという段階で覚悟して、「ライブは観られなくて当然」くらいの気持ちで行くといいでしょうね。もちろん一目でもみたいという気持ちもあると思うけどね。

あす:でも、森のステージができたことでライブを観た感がある。

——確かに。森のステージで子どもがライブを観て楽しんでいるのを見ていたら、グリーンからThe Birthdayの音が風にのって聞こえてきて、本当はそっちを見たいけれど目の前のこのライブも楽しいと思えたときに自分の成長を感じましたよ。

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キッズランド内「森のステージ」

みさと:ほんとそうよね。森のステージはプレ・ライブみたいなものでライブを観る楽しみ方がわかる場所。楽器も使ったりして子どもも主役にもなれるし、そこで体感できてる。お客さんもそういうところで面白みを感じてくれているんじゃないかな。

——さて。両親が働いている間、両家の子どもたちは<フジロック>でどんな風に過ごしてきたのでしょうか。

みさと:我が家3人はもう大変! 小さいうちはベビーテントに収まっていた子どもたちも段々外でウロウロせざるを得なくなって、森のプレイパークでも遊べなくなって、ライブが気になり始めたのが小学校高学年のとき。その頃から中学生になる辺りで思春期に入ったり、下の子も対峙するのが難しい時期もあったりして、去年は宿で「行く・行かない」と一悶着あったりと、もうバトルですよ。こっちは時間で動いているし。でも去年は初めて子どもたちがライブを楽しんでいるのが見られて面白かった。サカナクションのライブで周りの大人や子どもを巻き込んでめちゃくちゃ踊っていて本当に驚かされた!

あす:あの暗さも良かったよね。

みさと:そう、そう。日暮れのちょうどいいときで。ライブを楽しめる年齢になって次のステップにきたなって感じがしたし、うちの子はグリムスパンキーやマンウィズが好きなので、ライブへ行ったりするんだけれど、はっちゃけて踊る姿に<フジロック>のすごさを感じました。日高さんは3世代フェスと言っているし、思春期で難しい時期だからこそ、向き合うんじゃなく<フジロック>で横に並んで同じライブを観る楽しさに気づけて本当に良かった。

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撮影:宇宙大使☆スター

text&interview by 早乙女‘dorami’ゆうこ
photo by 宇宙大使☆スター、SMASH

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