毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは、2016年にPYRAMID GARDENの深夜にステージに立ったROTH BART BARON。それ以来、今年は2回目の<フジロック>出演となる。

ファンとしても、リスナーとしても、<フジロック>に何度も参加し、苗場でしか味わえない特別な時間を共有してきたという。場所もひとつの楽器であると語るROTH BART BARONが、どんな音を苗場で響かせてくれるのだろうか。

Interview:ROTH BART BARON

0526_roth_bart_baron_01 ROTH BART BARONと苗場、場所と見ているファンが生み出す音世界 #fujirock

世界へ向いた視線

──楽器をはじめたのは何歳くらいだったのですか。

17歳とか18歳でギターを本格的にはじめました。そこから音楽を作るようになって。そのときは映画や写真にも興味があって、ミュージシャンよりも映画監督になりたかったんですよ。それで美術大学に入学して、映画と写真とアートを勉強していたんです。そのかたわらで音楽を作って。

──映画音楽を作りたかったということ?

映画も好きだったんですけど、同時にロックミュージックも好きでした。レコード屋さんに行って、古いレコードを掘ったりしていたんですよ。最初は、多くの人と同じようにビートルズやローリング・ストーンズを聞いて、マディ・ウォーターズ、サンハウス、ミシシッピ・ジョンハートと古いブルースを遡っていって。フォークの匂いのするブルースが好きだったんですね。映画と音楽を両方走らせていたっていう感じでした。

──そしてバンドを組んだ?

いわゆる軽音楽部に入って、みんなとバンドを組むというような経緯ではないんです。友人の家に集まって音楽を一緒にやりはじめたのが結成って言っていいのかなって思っていて。みんながやっているような曲はコピーしていなくて、ポストパンクのバンドをよくやっていました。ジョイ・ディビジョンとかニューオーダーとか。

──ROTH BART BARONのファーストアルバムはアメリカのフィラデルフィア、セカンドアルバムはカナダのモントリオール録音でした。海外のスタジオを選んだのはどんな理由があったのですか。

アメリカのインディーミュージックが、すごく花開いていた時期だったんですね。アコースティックギターを弾いてひとりで宅録していたミュージシャンが、翌年にはグラミーを獲ってしまうような大転換が起きていた時代。いろんなアーティストのサウンドアプローチがすごく新しく聞こえてきました。アメリカと日本のギャップに苦しんでいたというか、そんな音を作りたいんだけど、それをわかってくれる人が周りにはなかなかいない。インターネットの力を使えば、現地の人とコンタクトできるんじゃないかと考えて、メールアドレスを探して、直接連絡したんです。

──自分でメールを出してアプローチしたのですね。

はい。当時は英語も全然話せなくて、翻訳サイトを使って「あなたの音楽が大好きです。東京でこういうバンドをDIYでやっています。一緒に音作りをさせてもらえませんか」というような内容のメールを送ったら、「いいよ、やろうよ」って返事をくださり、紹介してもらって僕らのファーストアルバムを一緒に作ったエンジニアが、今ではテイラー・スイフトの作品でグラミー賞を獲得したジョナサン・ロウ。

──それらの動きや音楽はインターネットで見つけたのですか。

確かに最初はインターネットでした。今はGOOGLEで検索しても、自分が探している情報とか欲しいものにはなかなかたどり着けないけど、当時は、個人ブログとか、なんかもっと自由だったんですよね。検索して、2、3ページ目には海外のおもしろいサイトに飛んでいけた。それと日本のレコード屋さんはすごく優秀で、いろんな国からいろんな音楽が時差なく入ってきていました。インターネットで探して、レコード屋さんでも掘っていく。いろんな音楽を探っていました。SNSのちょっと前の時代の日本だったから、それができたと思います。

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10代で<フジロック>で受け取ったカルチャーショック

──出演者としてだけではなく、ファンとしても何度も<フジロック>に参加していると聞きました。

最初に行ったのは18歳か19歳のときです。大学の友人がすごくフェスティバル好きで「今年、一緒に行こうよ」って誘ってくれたんですね。彼はキャンプ道具も一式持っていて。青春18きっぷでの「鈍行列車の旅」。新宿駅から乗ったんですけど、<フジロック>に行くであろうそれっぽい人たちも多くて。70年代のヒッピーたちのワーゲンバスのように、みんなで同じ乗り物に相乗りしていく仲間のような感覚で、そこからすでに<フジロック>がはじまっているように感じていました。

──<フジロック>ではいろんなアーティストのライブを見たのですね?

前夜祭から参加して、気になるアーティストはすべて見ようと。覚えているのは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとゴティエと……。1日でこんなにたくさんの国のアーティストたちのライブを身体で感じられる。そんな場所って他にはなかったですから。それとライブだけではなく、大人たちがハッチャけて楽しんでいる光景が、10代の僕にとってはカルチャーショックでした。「日本人もこんなに楽しめている場所がある」っていう気持ちになったんです。

──そして2016年にPYRAMID GARDENではじめて<フジロック>のステージに立った。

夢のなかにいるような気分でした。すごくうれしかったし、いい時間でした。<フジロック>でROTH BART BARONを見たいという方々が集まってきたときのあの特別な時間は、今でもよく覚えています。と同時に、PYRAMID GARDENの出演者ってポスターなどに名前が載らないんですね(笑)。それが悔しくて悔しくて。まだまだ僕らの実力では、あっちの世界には行けないんだなって。

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──今年、2回目の出演になります。それが不思議でした。もっと出演していると勝手に思っていて。

僕もそう思っていました(笑)。

──今年はポスターにもROTH BART BARONという名前が載りますね。

<フジロック>のステージに立つことが、僕の夢のひとつでしたから。僕がお客さんとして行ったときは、いろんなミュージシャンが感動させてくれて、特別な時間を作ってくれた。バンドの名前が載ることが目的ではなくて、いい時間を<フジロック>で作ることがすべてなんですよね。「仲間」って言ってしまうとちょっと違うかもしれないんですけど、やっと<フジロック>の一員になれるんだって実感しています。

──去年夏のROTH BART BARONの日比谷野音でのライブでも感じましたけど、緑の近くで聞くROTH BART BARONは、また違った世界が広がるような気がします。

最近すごくよく思うのは、フェスティバルでもライブ会場でも、そこの場所がひとつの楽器なんじゃないかっていうこと。いろんな会場があっていろんな響きがある。自分たちの楽器の音を、そこが持っている音の特性なり雰囲気なりを加味してどう響かせていくのか。<フジロック>っていう大きな楽器は、ステージに立っているミュージシャンだけではなく、お客さんがムードを作っている。そのムードのなかで、どうやって一番いい響きで鳴らせるか。それを自分のパフォーマンスのなかで掴みたいし、お客さんと一緒に響かせることができたらうれしいなって思っています。

──確かに<フジロック>には<フジロック>のムードがあります。

お客さんも一緒に成長してきた。1年では生まれない何かが<フジロック>にはあるじゃないですか。あの広大な場所で、みんなのすごい純粋な心をすごく感じられるんですね。

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一生忘れられない音楽体験を

──フェスでのセットリストは、どのように考えることが多いのですか。バンドの今の音を紡いでいくのか、それとも代表曲を多めに組み込んでいくのか。

自分がお客さんとして、見たことのないROTH BART BARONというバンドを見てみようかって思ったときに、何を聞きたいのかっていうことを考えますね。ステージに立っている自分の目線じゃなくて、フラッと立ち寄ったお客さんの目線。どんなことをやってくれたら、一生忘れられないような時間になるんだろうとか。僕がお客さんだったらフェスという場所で見たいこと、聞きたいことは何だろうみたいなことを、深く考えていくことが多いかもしれないですね。

──フェスにはそれぞれ別の空気感がありますね。

いろいろ考えても、結局ライブってどうなるかわからないんです(笑)。一番大事なことは、ライブという瞬間が忘れられない何かになり得るか。

──ライブってどんな時間ですか。

毎回違うんですね。だからやめられないっていうか。僕らは音楽を鳴らして歌を歌う。そしてお客さんは何かから解き放たれて踊る。化学反応っていうかハーモニーを生み出せることがこのうえなく幸せなことで、これがやりたくて、この瞬間を見たくて、この瞬間のためだけに、もしかしたら毎日音楽を作って、練習しているのかもしれない。フェスであれば、開催期間が終わって翌日になってしまったら、ステージは跡形も無くなってしまう。目で見えていたものは消えているけれど、心には確かに体験したというものが残っている。人間って、それこそが大事なものじゃないかって。実はそれなしには生きていられない何かがあって。だからお祭りとかライブは、今もなお色褪せないっていうか、やる側も見る側も離さないんじゃないかって思っています。

──今年の<フジロック>ではどんなステージにしたいですか。

今、僕たちが持っているすべての力を出したいと思っています。日本にも、こんなスケールの音を出せるバンドがいるんだってことをみんなが感じてくれたらいいなと思っています。いい意味であまり気負わないというか。コロナで3年間我慢してきて、ようやく自由に解き放たれていい<フジロック>になる。この3年間、みんなが見えない何かと戦ってきて、新しい時代の一歩が今年だと思っているんですね。

──戻るのではなく、ここから新たなに広がっていく。

世界がちょっとだけずれた。戻ったようには見えるけど、決して同じところには戻ってはいないんですよね。新しい時代の<フジロック>に出られるっていうことが僕はすごくうれしくて。新しい時代をみんなと共有して、その時間をアーティストとしてもリスナーとしても全身で楽しみたいっていうのが、今の正直な気持ちです。世界と日本を音楽でつないでくれるところって、そんなにあるわけじゃないですから。

──リスナーとして、今年はどんなアーティストのライブを見たいと思っていますか。

いっぱいいるけど、d4vdとかダニエル・シーザーとかも。YEAH YEAH YEAHSとかストロークスは、僕がバンドをはじめた頃のヒーローで、原体験に戻って見られるのもすごい楽しいだろうし。アンダーソン・パークのユニットもすごい好きだし、FKJもコーチェラのライブは面白かったし。見たいのはきりないですね。<フジロック>を楽しむには、身体がいくつあっても足りないですから。

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Text&Interview by 菊地崇(Festival Echo/フェスおじさん)
Photo by 須古恵

EVENT INFORMATION

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ROTH BART BARON “BEAR NIGHT 4”

日比谷野外大音楽堂
2023年7月16日(日)
OPEN 17:00 / START 18:00 / END 20:15
 
一般・整理番号券(椅子・自由席)¥7,700
※保護者同伴につき小学生以下1名同行無料です
学生・整理番号券(椅子・自由席)¥3,300
※入場時に学生証をご提示下さい
 
一般発売:2023年6月17日(土) 10:00〜【先着】
※お一人様8枚まで

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