毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は、<フジロック>でもお馴染みのDC/PRGをはじめ、ペペ・トルメント・アスカラールやダブ・セクステットなど数多くのプロジェクトを持つ菊地成孔。そんな彼のワークスの中でも未だに根強いファンを持つSPANK HAPPYが、なんと12年の月日を経て本格的に活動を再開する。新メンバーに抜擢されたのは、小田朋美。DC/PRGや新世代ポップス・バンドCRCK/LCKSのメンバーであり、ceroのサポートでも知られる新進気鋭のシンガーだ。果たしてそのステージは、一体どんなものになるのだろう。そもそも、2人の交流はどのようにして始まったのか。<フジロック>出演の意気込みも含め、気になるアレコレを訊いてきた。

Interview:OD a.k.a. 小田朋美、Boss TheNK a.k.a. 菊地成孔

菊地「こんな素晴らしい弦アレンジを書ける人は滅多にいないと思います。」

――「ウォーキングミュージック」を標榜していたスパンクハッピーにとっては、面目躍如といったところだと思うのですが、先ずはSPANK HAPPY再始動の経緯から教えてください。

菊地 直近の経緯は割とテキトーで(笑)。僕がやっているラジオ番組でSPANK HAPPYの曲をかけると、いつも反応がいいんですよね。それで一度、特集を組んでSPANK HAPPYをノンストップで1時間流したら、レーティングの数字が跳ね上がった(笑)。それでなんとなくムラムラしてきて(笑)。ノリや勢いもあったんですけど、何にせよ小田さんと何かしたかったというのもあって。まあ、すでに色々一緒にやっているんですが、今となってはそれも全てSPANK HAPPY再始動の布石だったのかなと。

──どんなコンセプトを掲げているのでしょうか。

菊地 小田朋美と菊地成孔という、一般的には多才とみなされる二人が組んだ。ということではなく、「OD a.k.a. 小田朋美」と「Boss TheNK a.k.a. 菊地成孔」という、キャラクターを振っています。完全にバレバレなので、お遊びとして(笑)。制作に関しては、いわゆる「レノン=マッカートニー方式」。作詞作曲も編曲も、すべて2人でやる。もちろん、曲によってはレノン=マッカートニーと同じで、どちらかが重点的に作る曲も出てくるだろうけど、ルールとしてどの曲にも何かしら2人は関わるということにしています。

──いわゆるポップミュージックを誰かと「共作」するのって、実は菊地さんにとって初めてのことですか?

菊地 第1期SPANK HAPPYの時に、河野伸さんという、今『おっさんずラブ』の音楽を手がけている人と、ちょろっと共作したことあるけど、今回みたいにガッツリやるのは初めてです。めちゃめちゃ楽しいですね。

小田 菊地さんは、私が考えつかないような発想をたくさん持っていらっしゃるんですよね。自分は割と頑固者で、そんな菊地さんの発想に対して一般的に抵抗したり固まったりもするんですが、後々「あ、やっぱりこれはすごくいいアイデアだな」と思い直すことが多くて。お互いに違う発想を持ち寄れているので、すごくいい形で共作が出来ているのかなと思います。

──小田さんのファースト・ソロ・アルバム『シャーマン狩り』に、菊地さんが共同プロデューサーとして関わったり、DC/PRGに小田さんを迎え入れたり、何かと交流の深いお二人ですが、そもそものきっかけは?

菊地 小田さんは、藝大の僕のクラスの「もぐり」だったんですよ(笑)。最初に会ったのは、2009年。当時僕は爆笑問題の『日本の教養』という番組の音楽をやっていて。そのスピンオフで、藝大と爆笑問題がガチで語り合うという企画があったんですね。僕はそこにゲストパネラーとして呼ばれたんですけど、その収録が終わったと同時に、坊主刈りで目つきの悪い男の子が近づいてきた。それが小田さんだったんです(笑)。

小田 私は藝大の頃は若干ひきこもりがちで、大学にほとんど行ってなかったんですけど、菊地さんの授業はたまに受けに行ったりしていて。だから最初は「話の面白い大学の先生」っていう印象でした(笑)。

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──じゃあ、音楽家としての菊地さんのことはあまり知らなかった?

小田 その頃は正直あまりなくて、後から著書を読んだり、音楽を聴くようになりましたね。『シャーマン狩り』のプロデュースは、是非とも菊地さんに……と思っていたのですが、最初はずっとフラれていたんです。

菊地 まあ、フルというか(笑)、何せクラシックベースの音楽家なので、僕が預るのは失礼に当たると思いましたし、小田さんのオリジナルである、現代詩人の詩を使って熱唱する。といったスタイルは、ちょっと僕には手の入れようがなかったので、「あなたは凄く才能があるし、自分でどう思っているか解りませんが、ルックも美しい。やりようによっては数年でも僕より有名になります。だけど、この楽曲は僕がやるべきではないですね」と言いました。それでまあ色々あって、最終的に「共同プロデュース」という形でやることになったんです。

──実は、『シャーマン狩り』の中でもSPANK HAPPYの“Angelic”をカヴァーしているんですよね。なにやら運命的なものを感じます。

菊地 でもその時は、彼女とSPANK HAPPYをやるなんて微塵も思ってなかったですね。思えば僕がアラーキー役で出演した、『素敵なダイナマイトスキャンダル』の音楽も、小田さんと連名で作ってる。それもSPANK HAPPYに発展するとは、その時はこれっぽっちも思ってなかったんです。もう、本当に、直前に「誰にしようかな。オーディションとかやるのかな、あ、あ、あ、あああ、小田さんがいた、小田さんに頼むしかねえ」と、急に天啓に打たれて(笑)

小田 私はその“Angelic”が、とても気に入ったんですよ。「別に僕の曲だからって無理にやらなくてもいいから」っておっしゃったんですけど、是非歌ってみたくて。

菊地 そこからは、事あるごとに小田さんをフックアップに動きました。楽曲提供したシンガーの仮歌に連れて行ったり、メルマガのコンテンツに小田さんをレギュラーゲストで呼んだり。ストリングスのアレンジが必要な時は必ず小田さんに頼んでいます。菊地凛子さんの『戒厳令』というアルバムがあるのですが、それにも参加してもらった。こんな素晴らしい弦アレンジを書ける人は滅多にいないと思います。すごい才能。

小田 本当に、色んな局面でサポートしてくださって。どこへ行っても、菊地さんの仕事で私を知ってくれている人たちがいて、それがあったからこそCMや映像の音楽仕事をいただいている。菊地さんは、私の道を切り開いてくださった方です。

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──さて、新曲“夏の天才”は、三越伊勢丹グループ「グローバル・グリーン キャンペーン」のキャンペーンソングに起用されました。この曲は、キャンペーンソング起用が決まって書き下ろしたのでしょうか。それとも、すでに書き終えていたものが使われたのですか?

菊地 前者です。ちょうどその頃、小田さんとのSPANK HAPPYをどんな感じでやろうか考えていた時で。小田さんはすでにボーカリストとしてのバンドをいくつもやっているし、今更一つ足して、いくらSPANK HAPPYがブランドあると行っても、12年休んでましたからね。「どういう形で出すのがいいかな?」と思ってた時に、渡りに舟と伊勢丹さんから話が来た。こっちがSPANK HAPPYを稼働させているなんて知る由もなく。

──最初はSPANK HAPPYへの依頼ではなく、菊地さん個人への依頼だったんですね。

菊地 そう。でもこれはSPANK HAPPYでやりたいと思い、小田さんと作っていたデモを伊勢丹さんに聴かせたんです。そしたらメチャメチャ気に入ってくれて。「これでいきましょう」と。SPANK HAPPY再始動の第一弾シングルという形になることも喜んでくださいましたね。元々僕らも「伊勢丹LOVER」をパブリックイメージにしていたくらいなので、伊勢丹から話がきたというだけで嬉しかったんですけど、それが、小田さんとやるSPANK HAPPYで出来るとは。なんというか、重なる時には重なるものですね。

──現段階で、SPANK HAPPYとしての楽曲はどのくらいあるのですか?

菊地 “夏の天才”を含めてまだ2曲。そろそろ本格的に曲を作り始めようと話していたところです。

──<フジロック>のGAN-BAN SQUARE -GAN-BAN NIGHT-ではどんなスタイルで演奏する予定ですか?

菊地 先日、僕が主宰しているレーベル〈TABOO〉のレギュラーライブイベント<HOLIDAY>があって、そこで披露したスタイルと大枠は同じです。スタンドマイクを2本立てて、カラオケが鳴っていて、僕が考えた振付を2人で踊りながらリップシンクするという(笑)。最初は小田さんがどのくらい踊れるのかわからなかったし、そもそも鍵盤から離れて歌うことができるのか不安だったんですけど、そこは天才肌で、ダンスもメキメキうまくなっているんですよ。なので、振付も遠慮せずガンガン付けています。

──リップシンク・スタイルは今後も続けていく予定ですか?

菊地 いや、あくまでクラブ仕様というか、GAN-BAN SQUARE -GAN-BAN NIGHT-仕様ですね。小田さんほどのシンガーに、リップシンクさせるなんて失礼な話だし、やっぱり生で歌うべきですから、パフォーマンスのシュチュエーションによりますけど、以降のフェスやライブではもっと歌うことになると思いますね。

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──ところでお二人は、<フジロック>にプライベートで行ったことありますか?

菊地 僕は1、2回ですね。ほとんど出演です。

小田 私は出演は一度DC/PRGで、あとはASA-CHANG&巡礼に同行した事はありますが、純粋なプライベートというのは無いですね。

──苗場では、どんなふうに過ごしているのでしょうか。

小田 私はアウトドアが苦手で……(笑)。完全にインドアな人間なので、本当に尊敬しますね、あの過酷な状況でを観るって。

菊地 僕もそんなに苗場を謳歌したことはなくて。出演したときに「ビョークが出ているから観に行こうか」、「ケミカル・ブラザーズ始まったから行こう」とか。純粋なオーディエンスとして、雨合羽を着て、タイ飯を食べたりトイレの行列に並んだりっていうのはしたことがない(笑)。

──演奏していて、<フジロック>には何か特別なものを感じますか?

小田 やっぱり全然違いますね。盛り上がり、熱狂。山のパワーがあるのかなと思います。

菊地 知らない人も観に来ますからね。東京でやれば、僕らのヘッズが来てくれて、そいつらは勝手知ったる暴れん坊ですからドカーンって盛り上がってくれるじゃないですか。だけどフェスの場合、「名前だけは聞いたことあるな」とか「なんか、指揮者がいるバンドが出てる」みたいな人の、初めて聴いた時の驚きみたいなものがレスポンスの中に混じっているわけです。そこには称賛もあるだろうしダメと思った人もいるかも知れない。そういう分厚いバイブスに、こちらがうまく乗り切ることが出来れば、フェスならではのいいライブになりますね。

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──苗場で印象に残っているエピソードなどありますか?

菊地 炎天下のステージに出た時、CDJの盤面が太陽の熱さで溶けてしまって。スクラッチしようと思って指を置いたら沈んだんですよ(笑)。あれはびっくりしました。あとは、これはもう何度も話したことですけど、ある年、トイレに向かって歩いていたら、後ろから小さい女の子が僕に向かってすごい速さで走ってきて。思いっきりぶつかってゴロゴロってすっ転んだんです。急いで走り寄って「大丈夫?」と声かけようと思ったらビョークだった(笑)。

小田 ええ? それは凄いですね(笑)。

──では最後に、今年期待するアクトをそれぞれ教えてください。

菊地 やっぱりボブ・ディランですね。ノーベル賞受賞者が<フジロック>に出るなんて、凄いことじゃないですか(笑)。僕は彼の音楽と縁遠いと思われがちですが、実はすごく好きです。特に歌詞ですけど。

小田 色々気になるアーティストはいますが、私もディランとケンドリック・ラマーは観たいですね。それと、MISIAが出るのがすごく嬉しいです。中学生の時のメールアドレスが、「tomomisia(トモミーシャ)」だったくらい好きなんですよ(笑)。<フジロック>はまだちゃんと満喫できていないので、今回はしたいなと思ってます!

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text&interview 黒田隆憲
photo by 横山マサト

GAN-BAN SQUARE

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