毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は日本屈指のアーティスト、DJとして様々なプロジェクトを手掛けるかたわら、DJとしても世界各地の音楽フェスに出演してきたRhizomatiks/Rhizomatiks Researchの真鍋大度さんの登場です。Perfumeはもちろんのこと、ビョークやLAビーツの雄ノサッジ・シングなど国内外の様々なライブコラボレーションを手掛けてきた真鍋さんは、12年にOL KillerのVJとして<フジロック>に初参加すると、2017年にはオアシス・エリア内のGAN-BAN SQUAREにDJ/VJとして出演。今年はDJとして、同じくGAN-BAN SQUARE-GAN-BAN NIGHT-に出演します。真鍋さんの<フジロック>での思い出や、今年への意気込み、DJとして大切にしていることなどをうかがいました。
Interview:真鍋大度
「ポケットの中にはつねにフェーダーが入っている、スクラッチ少年でした(笑)。」
――真鍋さんは去年、<フジロック>のGAN-BAN SQUARE-GAN-BAN NIGHT-にDJ/VJとして出演されました。まずは去年の出演時に思い出に残っていることを教えてもらえますか?
僕は最近は昔のようにクラブで頻繁にDJをしているわけではなくて、フェスに出たりするぐらいなんですが、去年の<フジロック>でDJをしたGAN-BAN SQUAREはオアシスの中で、出店がたくさんあって、みんながくつろぎながら音楽を聴くような場所だったので、選曲は難しかったですね。基本的には踊っている人たちに向けて選曲していく感じではあるんですが、何とかお客さんを帰さないように頑張りました(笑)。VJの場合は、DJのように楽曲をリサーチして曲を仕込むという様な用意が必要なわけではなくて、その場でプログラムを書いていくような感じなので、瞬発力でやるようなタイプですね。GAN-BAN SQUAREのVJテントがステージの横で、実際にプロジェクションされている映像が見えない中やっているんですが、去年はVJの人数も多かったのでワイワイやっていました。
――当日は真鍋さんと親交の深い関和亮さんもVJとして会場にいたのですよね。
そうですね。ずっと遊んでました(笑)。VJもずっとやっている感じではなかったので、DJやVJの自分の出番以外の時間は会場を色々と回ったりもして。去年は(日本科学未来館でのプロジェクト「Making of Björk Digital –livestreaming」などで仕事をともにした)ビョークが来ていたので、ビョークと一緒にアルカ(ARCA)のライブを観たりもしました。もちろん、ビョーク自身のライブも観ましたし、エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)のライブも観ましたね。本番が終わった後はビョークやJessy Kandaなどと一緒に飲んだり、出番以外の時間も満喫しました。
――そもそも、真鍋さんがDJをはじめたきっかけはどんなものだったのでしょう?
もともとは親戚がDJをやっていて、僕もクラブに通っていたので、「DJをやりたいな」と思ったのが最初です。それが15歳ぐらいの話ですね。ターンテーブルを買ったのは16歳頃で、20歳ぐらいまではかなり熱中してやっていました。DJ KENSEIさんのようなすごく上手い人たちのミックスを聴いて、DJの面白さを感じたんですよ。中学の頃は、当時『ダンス甲子園』(『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の人気コーナー)が話題になっていて、へヴィ・D&ザ・ボーイズ(Heavy D & The Boyz)やベル・ビヴ・デヴォー(Bell Biv Debow)のようなアーティストが流行っていたので、ニュー・ジャック・スウィングにハマっていました。そこからイーストコーストのヒップ・ホップに興味を持って、スクラッチにもハマって、大会に出たりもして。ポケットの中にはつねにフェーダーが入っている、スクラッチ少年でした(笑)。
――DJとしての活動が、映像のお仕事とも繋がる部分はあるんでしょうか?
どうでしょうね? 僕は映像には音楽ほどの強い執着がなくて、ある意味お仕事として冷静に出来る部分が大きいなと……。
――そんなことはないでしょう(笑)。
(笑)。映像の場合は、寝て起きて観返したときに「昨日はいいと思ったのに、観返してみるとちょっと違うな」と思うことがあまりないんです。でも、音楽の場合は、曲を作ったりミックスを作ったりして次の日に聴いたら、「ああ、やっぱり違うな」と思うことが結構あって。それは脳の構造に寄るところが大きいと思いますが、そうだとしても、音楽に対するこだわりの方が強い人間なんだと思います。どこかでご飯を食べていても、BGMが気に入らなかったら「出たいな」と思ったりしてしまいますし。
――だとすると、真鍋さんにとって音楽フェスのような場所に出ることは、とてもやりがいのあることなのかもしれませんね。
そうですね。特にフェスは大好きです。クラブでDJをするのともまた全然違うし、自分の出番以外は遊んでいられて、そこで色々な音楽を一度に聴くことができる。フェスに出たときは、出番以外はひたすらフロアや会場で音楽を聴いています。そこで今のトレンドをチェックしたいという気持ちもあるので、出演者として向かっても、会場で色々な音楽を楽しむことが多いタイプだと思いますね。
――では、真鍋さんと<フジロック>との思い出について聞かせてください。真鍋さんが初めて<フジロック>を訪れたのは、恐らく2012年のOL KillerのライブにVJとして参加したときだと思うのですが……。
はい、あれが初めてのフジロックでした。夜中のレッド・マーキーの出演だったと思うんですけど、あのときはセットに向けた仕込みを頑張り過ぎて、出番の前は全然ライブを観られなかったんですよ(笑)。でも、去年は前夜祭でもDJをやって、そのままずっと会場にいました。前夜祭もすごく盛り上がっていたし、去年は本当に……遊び過ぎました(笑)。<フジロック>のベテランの関くんに色々と案内してもらって、主要なステージはだいたい回ったと思いますよ。<フジロック>は会場も広大ですし、たくさんステージが分かれていて、それぞれに特色があって……あのごった煮感はあまり経験したことのないものでした。普段はバルセロナの<Sónar>などヨーロッパの都市型のフェスに出ることが多く、<フジロック>はそういった洗練されたものとは違う環境を楽しむフェスですよね。僕も長靴や雨ガッパを用意して向かいましたが、そうやって大変な装備をしてでも、観たいラインナップが集まっているフェスだと思います。日本でこういうフェスって他にないと思いますし、<フジロック>は去年行った世界の色々なフェスの中でも、トップと言えるぐらい楽しいフェスでした。
――去年思い出に残っているライブをいくつか教えてもらえますか?
まずはやっぱり、雨の中で観たエイフェックス・ツイン。あれは一番印象的でした。雨が降っていたことで、レーザーや照明もプラスに働いていましたよね。後半はもう、目をつぶってひたすらノイズに埋もれていましたけど(笑)。エイフェックスはちょうどPAブースの前で観て、終演後に本人とも会いました。いじわるな人なので、「前にライブ観たよ」と伝えたら、「どこで観た? 会場はどこだ?」と細かく問い詰めてきて、「どこだったっけなぁ」と(笑)。「おい、本当に観たのか? 」とずっと疑われてました(笑)。映像を担当していたWeird Coreは同業ということもあって、そのときに色々と話をしました。あのときの映像は、エイフェックスの性格に合っていましたよね。彼のイメージにあるいたずら心というか、悪だくみしているような感じがモロに出ていて、それがすごくよかったと思います。
――真鍋さんも、映像を担当するときはアーティストに合うものを考えるわけですよね?
そうですね。たとえばPerfumeでもノサッジ・シングでも、ビョークでもそうですが、歌詞や振付に合う映像を作るために、システムを構築するところから工夫しています。演出的な要素が大きいのでPerfumeであればMIKIKO先生、ビョークであればビョーク本人と議論を重ねてシステムや構成を練っていきます。特にPerfumeとビョークは歌詞や世界観がかなり重要視されるので、何をやるか決めて実装をスタートするまでが大変ですね。Nosaj(Thing.)の場合は楽曲の順番もプレイする長さも毎回違うのでインプロがしやすい様なシステムやインターフェースを構築して臨んでいます。どちらかというとライブ演奏に近い感じですね。あと、去年の<フジロック>ではアルカも印象的でした。ステージ上であれだけ自分を開放できるというのはすごいことだと思うし、彼のヴィジュアル面を担当しているジェシー・カンダの映像も、エイフェックスのコンビとはまた違って、かなり作家性が強いもので、アルカの暴力的な表現をシニカルな映像表現で補填する二人の関係性が非常に興味深く感動しました。<ソナー>でも観たのですが<フジロック>のものは特別なパフォーマンスだったと思います。
――真鍋さんはどういう音楽に惹かれることが多いのでしょう?
基本超雑食なので何でも聴きますが、特定のレーベルをいくつかあげるとしたらやはりHyperdubですね。Kode9の様にDJプレイやプロデュースの中で新しい音楽やフロアのあり方を提案していく活動に対して惹かれています。後は自分が一緒にツアーやDJをしているTimetable Recordsのアーティスト達が持つ感性や情報には強くインスパイアされています。深掘りしている音楽でいうとここ10年くらいはジューク/フットワークのフレイバーを持った音楽ですね。ポーリッシュ・ジュークやイベリアン・ジューク、それからフィリピンのジュークも聴いています。
――なるほど、フィリピンにもジュークがあるんですね(笑)。
そうなんです。地域性は重要なポイントなのかもしれません。日本にもたくさん素晴らしいアーティストがいますよ。D.J.Fulltono、Picnic Women,、Skip Club Ochestra,、Quarta330、Foodman……上げ始めたらキリがないですが。後、ヒップ・ホップではkrakaur。彼の作っているトラックは次世代感がありますね。僕はアンダーグランドなものを探すのが趣味なので、DJをするときも、あまりみんなが知らないような音をかけることが多いかもしれないです。自分のBandcampを見てもらえるとその辺りが垣間見られるかなと思うので是非見てみてください。