「長い年月をかけて苗場に根を張り、ずっと続けてくれていること自体が魅力のフェス」

0524_gotch_03 9年ぶりの出演!アジカン・後藤正文が見てきた、フジロックの景色#fujirock

――会場では、どんな風に過ごすことが多いんですか? 最初に苗場の<フジロック>に行ったときには、グリーン・ステージ近辺にずっといたそうですが。

そのときは、まだよく分かっていなかったんですよね。でも、次に行ったときには奥まで向かいました。あと、一番贅沢なのは……苗場プリンスのベッドでテレビ番組を観ているとき(笑)。まぁ、ひどい時間の使い方ですね。でも、やっぱりオアシスが一番好きな場所かもしれないですね。あそこでみんなで話しながら、飲んだりしているときが一番いい時間です。

――色んな人が集まってきて、会場で久しぶりに会う人もいたりしますよね。

そうなんですよね。友達も色んなところから来るんで、久しぶりに会えるのも楽しい。もちろん、会場の奥も好きです。オレンジ・コートがなくなったのは残念ですけど、フィールド・オブ・ヘヴンの雰囲気もいいですし。あとは、明け方のパレス・オブ・ワンダー。あの時間帯のあの場所って、<フジロック>の中でも一番カオスな場所じゃないですか(笑)。自分も昔、朝方に雨の中でブランコにぐるぐる乗ったりしてました。やっぱり、ステージ以外も充実しているのが<フジロック>のいいところだと思うんですよね。食べ物も美味しいですし。

――後藤さんはこれまで色んなフェスに出てきたと思いますし、バンドとして<NANO MUGEN FES.>を開催した経験もあるということで、国内外の色々なフェスを観てきた人でもあると思います。<フジロック>ならではの魅力としては、どんなことを感じますか?

やっぱり、日本のロック・フェスの始祖のような存在で、レジェンダリーなフェスですよね。

――開始当初は、スタッフの方々も本当に手探りで準備していったそうです。

その頃のDIY感や手作り感が、いまだに残っているのもいいなと思います。そこにパンク精神を感じるというか。<フジロック>は「何か建物があって、そこにステージを組んではじめました」というフェスとはちょっと違って、現地の方たちとのコミュニケーションも取りながら、自分たちでインフラを作ってきたフェスなんですよね。その結果、今があるというか。

――ボードウォークなどもそうですよね。会場自体がどんどん育っていくような感覚で。

だからこそ、「こんなの去年なかったな!」とか、色んな発見があると思うんですよ。そうやって20年以上続いていること自体が素晴らしいと思います。まるで植物が育っていくように、長い年月をかけて苗場に根を張っている感じがいいな、と。出演するミュージシャンは、海外とのブッキングの兼ね合いなどによって変わるでしょうけど、とにかくずっと続けてくれていること自体が魅力になっていると思います。アーティストを観に行くだけではなくて、「フジロックに遊びに行く」という感覚があって、観るものがなくても飲んじゃえば楽しいんですよね。<フジロック>の場合、タイムテーブルをチェックしても、その通りに観たことは一度もない気がします。お腹いっぱいになったら休めばいいし、会場の奥ですごいライブを観て「もう今日はいいか」と満足することもあるだろうし。マニックスのステージを観ていたら、もっと早くアーケイド・ファイアを観に行くつもりだったのに、ついついその場に居座っちゃった、とか。そういう楽しみ方ができる雰囲気がいいですよね。

――今年はASIAN KUNG-FU GENERATIONとして久々に、2日目への出演が決定しています。今年の<フジロック>に向けてはどんな気持ちでいますか?

久々に出られて嬉しいです。ただ、本当はフー・ファイターズのときに出たいな、とも思っていたんですよ(笑)。あのとき、ちょうど『Wonder Future』(2015年作)をデイヴ・グロールの「Studio 606」でレコーディングして帰ってきて、アルバムを出した後だったんで。「俺らも出してくれないかな?」と思っていたんです。そうしたら、その日はそもそも、ツアーの札幌公演が入っていて……「これはチャンスないな」と(笑)。今回は曲も増えたし、セットリストをどうするかも考え中ですね。

0524_gotch_04 9年ぶりの出演!アジカン・後藤正文が見てきた、フジロックの景色#fujirock

――新作『ホームタウン』はプロダクションや音がどう鳴るかという部分も含めて突き詰めた作品だったと思うので、<フジロック>で新曲がどう聞こえるのかも楽しみです。

そうですね。ただ、ライブはライブなので。僕らにとってはそれよりも、“リライト”をやるかどうかの方が切実です(笑)。フェスで新曲だけしかやらないバンドは日本にも海外にもいて、それぞれのアティテュードが分かれるところですけど、でも、僕はちゃんと昔の曲も網羅してくれるバンドが好きなんで。しっかりとアジカンらしいステージにしたいです。昔聴いていた人も楽しめるものにしたいし、新しい曲もやるし。とにかく、楽しく堂々とやろうと思っていますね。

――今年のラインナップの中で、楽しみな人はいますか?

ダニエル・シーザー(Daniel Caesar)が好きで、ずっとライブが観たかったんですよ。ジャネール・モネイ(Janelle Monáe)も観たいし、もちろんデス・キャブ・フォー・キューティー(Death Cab for Cutie)も観たい。観たいものだらけです。1日目のELLEGARDENも盛り上がりそうだし、トロ・イ・モア(Toro y Moi)やアメリカン・フットボール(American Football)もライブを観てみたい。でも、僕の中ではダニエル・シーザーが断トツで観たいです。

――ダニエル・シーザーにはどんな魅力を感じているんですか?

めちゃくちゃメロウだし、曲がよくできていますよね。最初、レコードがすぐに売り切れてしまったんで、Discogsで探して追加プレス分を手に入れたぐらい好きで聴いています。あとはコートニー・バーネット(Courtney Barnett)も観たい。まだ生では観たことがないんですけど、左利きだし、ライブ映像を観ていると、どこかポール・マッカートニーに見えてくるんですよ。

――ああ、その感じはすごくわかる気がします。最後に、「フジロックにこんなものもできたらいいな!」「こんなものも作ってほしい!」という期待や要望があれば教えてください。

続いていること自体が偉大ですし、偉そうなことを言うつもりはないですけど、たとえば、もっと音楽だけではない色々なコラボがあってもいいかもしれないですよね。コンテンポラリー・ダンスがあったり、どこかで詩人が朗読をしていたり……というふうに、広くカルチャーをとらえていてくれると、より豊かに、楽しくなるんじゃないかな、と。今はラッパーも増えていますし、みんなで日本語の取り扱いについても、よりクールなものにしていってくれたらすごくいいと思うので。ラッパーの人たちだけじゃなくとも、小説家や詩人のような人もいたら楽しいかもしれないです。たとえば、古川日出男さんが出てくれたりしたら、すごく面白そうじゃないですか? あとは、ステージの上だけじゃなくて、色んなところにクリエイターの人たちが集うような場所になってくれたら嬉しいです。参加する人たちも日々の生活の中にアートを持っていて、それを持ち寄ったりするような。アートって誰にでもできることだと思うので、そうなってくれたらより豊かになるような気がします。

――なるほど、それは面白そうですね。

あとは、どこかにギターを置いたりして、誰でも出られるステージがあったら、面白いんじゃないですか? たとえば自分が遊びに行っていても、「俺も出たくなってきたと思うことがあるんですよ(笑)。昔、オレンジ・コートの辺りに一時期あったそうですけど……どうですかね? 会場の一番奥でもいいんで。もしそんなステージができて、自分が出て寒いことをやってしまったら、そのときはちゃんとブーイングしてください(笑)

text&interview by Jin Sugiyama
photo by Tsuneo Koga