「私の見えない位置にいるお客さんにまでバシッと届くような演奏を準備するつもりです。」

frf_nakamurakaho_03 中村佳穂が明かす、フジロックで迎えた音楽家としての転機#fujirock

――最近の中村さんは、全国各地のフェスに引っ張りだこじゃないですか。そこで大きなステージに立ってきた経験も<フジロック>に活かされるのでは?

たしかに。昔は(モニターから返ってくる)自分の演奏にビックリしてたくらいで……。ステージが広いほうが意外と落ち着いて演奏できるところもあって。あとは大きい舞台に立てば立つほど、バランシーさを丁寧に扱えるようになってきているので、「積み重ねたるぞー!」って気持ちになってます。

――ちなみに、ステージはもう決まってるんですか?

決まってます、フィールド・オブ・ヘヴンです!

――わー、それは大変!

いやー、話をいただいたとき「マジかー!」って思いました。出演は2回目ですけどドキドキさで言ったら3年前のアヴァロンと全く変わらないです。お客さんも集まるといいですよね。私を目当てに来てくれる人がどのくらいいるのか。他のフェスでMCしたとき、「行きますー!」って声が客席から5人くらい聞こえたので、最低5人は来るとして……。

――絶対にもっと来ますよ(笑)。

ビビリ症なんです(苦笑)。もちろん、たくさん集まったとしても、そうじゃなかったとしても、私の見えない位置にいるお客さんにまでバシッと届くような演奏を準備するつもりです。3年ずっと準備してきたので任せてください!

――中村さんといえば、ライブごとにメンバーを入れ替えることでも有名ですが、今年の<フジロック>はどんな感じになりそうですか? 

『AINOU』は広がりとかバランスを意識しながら組んだバンドで制作したんですけど、そこにフィジカルというか熱量のある、「感情でいくぞー!」ってタイプの人も加えてみたいと常々思っていて。その架け橋になるようなバンドを組めたらなと。今はまだ検討中ですけど、そういうスペシャルな編成を考えています。「幸せすぎて死ぬー!」みたいな空間にしたいですね。

――楽しみです! そして今年も、オーディエンスとして新たな発見が待っているかもしれない。

そうなんですよ。だから今回は、しっかり予習してから行こうと思ってます。

――他の出演者もたっぷり観る予定?

メンバーと一緒に3日間いるつもりです。ライブを観る視点がこの2〜3年で変わって、昔よりさらに楽しく聴けるようになったんですよ。音楽を知れば知るほど、「はー、そんなすごいことやってたの!?」と気づくことも増えて。奥が深いですね、音楽は。

――本当ですね。ずばり気になる出演者は?

日本の出演者のみなさんのことももちろん楽しみですけど、海外だとフォニー・ピーポー(PHONY PPL)とかアンノウン・モータル・オーケストラ(UNKNOWN MORTAL ORCHESTRA)、あとはジャネール・モネイ(Janelle Monáe)ですね!

――やっぱり彼女には惹かれるものがありますか?

ありますね。もともとキンブラ経由で知ったんですけど、ネットサーフィンしながら二人のコラボ動画を見つけて。私はやっぱり、その人が実際にマイクで録ってる動画を観るのが好きなんですよ。それに海外のミュージシャンって、みんな自己プロデュース力が高いですよね。着たい服を上手く着こなし、歌いたい歌を上手に歌う。その話でいうと、ジャネール・モネイは完全に出来上がっていますよね。

――先日の<コーチェラ>もすごかったし、映画女優でもあるだけに見せ方も上手いですよね。

ずっと寝っ転がりながら歌ってる動画があるんですけど、それも大きなフェスに出演中のもので。なんて自由に可愛らしく歌えるんだろうって。ダンスもすごくいいし、めっちゃ楽しみにしてます。

――他にはどうでしょう?

『AINOU』の制作を終えたあと、“きっとね!”のMVを作るために、毎日2時間くらいMVを見る会を開いて。そこでヒョゴ(HYUKOH)を見つけたんです。どのMVも海外のほうに意識が向いていて。「韓国だ!」ってビックリして。そこから“きっとね!”も、ミソ(MISO:Girls Girlsのメンバー)って韓国の女の子のMVも手がけている、アニメーション作家のSivan Kidronさんにお願いすることにしました。そういう意味では、ヒョゴもジャネール・モネイと一緒ですね。自分たちの表現が出来上がっているし、なおかつ自由にやってるように映る。MVでそんなふうに思わせるってすごくないですか? 実際の演奏もきっとそんな感じだろうから、絶対に観てみたいですね。

――さらに、ジェイムス・ブレイクも3日目に登場しますよ。

そうそう! 新しいアルバム(『Assume Form』)もカッコよかったし楽しみです。やっぱりライブの衝撃がすごかったので、今年も前回と同じように、また後ろのほうで聴こうと思ってます。3年越しに観ながら、自分がどう思うのか気になるので。

――もし本人たちと会うチャンスがあったらどうします?

全然ありえますよね。朝食の時間とかに偶然会うことができたら……ちゃんと感動したことを伝えたいです。私ってそういうとき、つい日本語で話しがちなんですよ。ハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)のネイ・パーム(Nai Palm)に会ったときも、「めっちゃよかったです!」ってそのまま言っちゃって。次会うチャンスがあったら日本に来てくれて嬉しいってこと、本当にありがとうってことを伝えて、もし私に興味持ってもらえたら『AINOU』を渡そうと思ってます。

――あとはさっき、フィールド・オブ・ヘヴンのピザの話をしていましたけど、音楽以外で楽しみなことはありますか?

私はもともと、食べ歩きが好きなんです。出来かけの料理を食べるのと、人が作ったやつを勝手に食べるのと、食べ歩きが一番美味しいと思ってるので。いい景色で食べ歩きなんて最高に決まってるし、そこにいい音楽が鳴っていたら言うことないですよね。

――間違いないです。

衣食住があってこそ音楽ができると思っているので、自分のイベントを企画するときは、衣服やご飯を作る人に必ず出店してもらっているんです。私はそういう仲間が作ったものを食べたり着たりして、彼らは私の演奏を楽しみながら、自分の作るものに活かしてくれる。そういう意味で、音楽好きの出店がたくさん集まる<フジロック>はとても豊かだと思うし、なるべく食べたり遊んだりしたいなって思ってます。

――では最後に、出演の意気込みを聞かせてください。

さっき話した出演アーティストには本当に影響を受けていて。私やメンバーも「自由であること」をいつも意識しているし、彼らと同じような気持ちで演奏できたらと思いますね。あとはもう、ただただ良い演奏をするしかないので、音を聴いて判断してもらえたら。夏までにできる限りの準備をしていくので、ぜひ聴いてみてほしいです。

text&interview by 小熊俊哉
photo by 大石隼土