毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今年も既に出演第三弾まで発表され、都度一喜されている方も多いのではないでしょうか?
そんななか今年は、意外にも初出演となる日本人ベテランアーティストも発表され話題となっています。ORIGINAL LOVEです。実はORIGINAL LOVEの田島さんは<フジロック>に過去何度も足を運んでおり、伝説の第一回も体験。以降も興味のあるアーティスト目当てでバイクを飛ばし苗場まで訪れるほど、過去幾度も参加してきた<フジロック>ファンでもあるのです。
そのORIGINAL LOVEが今年、まさに満を持して<フジロック>のステージに立ち、我々にあの生命力溢れるソウルパワー全開の歌声を響かせてくれます。さらに、今年2月には「人生讃歌」や「命の讃歌」的なコンセプトを持った、秘めた勢いを各所から感じさせるニューアルバム『bless You!』を発表したばかり。どの時間どのステージでも映えそうな、そのアルバムの再演にも期待大です。
ご自身の音楽性からブラックミュージックやソウルフルな音楽を体感しに<フジロック>に訪れている姿を想像するも、本人の音楽的趣向はいたって幅広くフレキシブル。ロック&ポップス全般を新旧問わず興味を持ったものや、新しい出会いを求めて、この苗場に来ては楽しんでいたと語ってくれています。そんな彼に登場いただいた今回。上述の新作の話を皮切りに、過去の<フジロック>の想い出やエピソード、今年の<フジロック>での自身のライブのことや気になるアクト等をお訊きしました。
Interview: 田島貴男(ORIGINAL LOVE)
「世の中が何を望んでいるのは定かではないけど、自分的にはやってることは常に同じなんですよね。」
ーーこの度はフジロック初出演おめでとうございます!正直これまで出演されたことがなかったのが意外でした。
ありがとうございます。報告を聞いた際はかなり嬉しかったですよ。これまで数多くのいいライブを観てきたフェスでもあるんで、そこに自分も出られることに今は燃えてます。
――先日発売のニューアルバム『bless You!』は、バンドによる生感や各楽曲が有するダイナミズムや景色観も含め、かなり<フジロック>のどのステージで歌われても映える印象があります。
確かにそれはあるかもしれないですね。
――今作からはこれまで以上に作品に秘めた勢いや前向きさ、生命力を感じました。
その辺りは今作の大本になっていく曲の一つの“ゼロセット”(M-2)があったのが大きいかもしれません。この曲は今作で言うと、“ハッピーバースデイソング”に次いで2番目に出来た曲で。それが3年ぐらい前かな。これが自分の中でも、ポップだし幅広い人たちに沢山聴いてもらえる曲が出来たゾとかなり出来に自信のあった曲でもあったんです。当初は「シングルを切ろう!!」とレコーティングも途中まで進めていたし。
――それが何故中座を?
なかなかこの曲にぴったりくる歌詞が浮かばなくて。で、「この曲は凄くいい曲だから、もう少し自分に納得できる歌詞が出来るまでそのまま置いておこう」と一旦仕切り直しにしたんです。
――そこからの再開は?
ここ数年は年間に自分の全国ツアーを3本演ってるんです。春の弾き語りツアーと夏のバンドツアー、そして秋には<ひとりソウルツアー>を。となると楽曲制作やレコーディングって、もうその合間を縫ってしかできない。で、楽曲も揃いだして、実際にレコーディングに入る準備をしだしたのが一昨年の暮から去年の頭の頃なんですが、そこから再び歌詞を書き始めたんです。僕も怠け者で、締め切りがないとなかなか書かないタイプだから(笑)。それらもあって、その夏の<Wake Up Challenge Tour>(バンドツアー)で、“ゼロセット”を始め、今作中何曲かはライブで先に披露しようと。その時に一挙に他の曲も含め歌詞を書きあげたんです。
――そこでようやく納得のいく歌詞が乗せられたわけですね。
特に“ゼロセット”はこの曲のサウンドにしっくりくる歌詞が書けた自信があって。そこから曲たちが出来上がっていくにつれ、今回は「人生讃歌」や「命の讃歌」みたいな方向に向かっているんじゃないか?とスタッフみんなと話し合って、この方向をよりはっきりさせるようなアルバム制作を始めたんです。それが去年の初夏頃でしたね。
――これまであまりバシッとメッセージ性を伝えてこなかった印象があったもので、今作での明確なメッセージ性はいい意味で意外でしたし、より刺さりました。
これまでどのアルバムも自分なりにメッセージを込めて作ってきたつもりです。このアルバムも含め、どのメッセージも僕の場合、ほとんど自分に向かっているんです。
――今作からは「進め!」や「行け!」といった、しっかりとした明確な前向きなメッセージを受け取りました。実際、リリックでもそのようなお言葉が幾つも見受けられましたし。
今回はあえてあまり歌詞の推敲はしませんでした。日記みたいに感じたこと思ったことを書き殴ったみたいにしています。結果今回はその手法が故に楽曲的にも作品的にも作品のコンセプト的にもマッチしましたからね。
――作品内容にしても、歌にしろ演奏にしろ、これまで以上に躍動感が漲っているのも特徴的ですね。
今作は一発録りでレコーディングした曲ばかりなので、その辺りも関係しているんでしょう。
――なぜ今回は一発録りに?
一つはレコーディングスケジュール。ここ数年ライブばかりやってる関係上、スケジュールを見たら、レコーディングをする時間がかなり限られてることに気づいて(笑)。だったら一発で録っちゃおうと。あと一つは、仕事と離れてゆっくり音楽を楽しむ環境を、もう一度自宅に揃えたんです。いわゆるオーディオ機器を買い直して。そこでアナログレコードを再び沢山買って聴くようになったんです。そんな中、やはり自分は70年代の音楽が好きで、その辺りをよく聴いていたんですが、当時の音楽はレコーディング技術も洗練されていないが故に、一発録りだったり、一発でないと出来ない音楽の良さがあることに改めて気づいたんです。いわゆる歌と演奏が一丸となったり絡み合ったりしている音楽が多かったというか。あれって一発録りならではなんですよね。今作ではそういうことを自分の作品で、もう一度音楽の原点に返る気持ちでやってみたかったところもあります。
――一発録りだとレコーディングもさぞかし緊張感があったのでは?
歌も演奏も基本事後修正が出来ませんからね。ミュージシャンはみんなイヤがるんだけど、あえて今回はそれに挑戦してみようと。且つ音も重ねない。というか、一旦録ったものに後日、幾度もプライベートスタジオで音を重ねてみた曲もありましたが、結局、有機的な絡み方が一発録り以上に出せなかったんで、元のテイクに戻したり。
――正直、まさに今、田島さんやORIGINAL LOVEが昨今のシティポップブームの根源の一つとして、再評価されていることもあり、もっと、「これが本家だ!!」みたいな、90年代中盤辺りのORIGINAL LOVEの路線も世の中的にはありな中、あえてやはりその時その時で自身が出したい音楽性を貫き、今回も自己最高や進化を見せているところに、凄く田島さんのミュージシャン魂や自分への自信や自負を感じました。
なるほど。世の中が自分に何を望んでいるのは定かではないけど、自分的にはやってることは常に同じなんですよね。変わってないと思ってる。だから正直、その考えはないかな。ORIGINAL LOVEもここまでに変化は遂げてきてるとは思う。だけど、それは変わらない為の変化であって。自分にとって、アルバム制作とは破壊と創造。以前の自分のスタイルを壊して一から作り直すこと。それでもやはり同じ人間なので、変われないところはあるんですよね。自分では常に自分の目指す新しいソウルやポップスをやってきているだけなので。ただ段々うまくなってきた自覚はある(笑)。
――分かります。
技術が上がってきた分、自分のギターも歌も技術的に上手くなってはいるかな。それもあって、今作でも香津美さん(渡辺香津美G.)、岡安さん (岡安芳明G.)等、本物と世界のトップのミュージシャンの方々に入ってもらっても形になっている感はあるし、他にもいつものバンドのメンバーや、かつて一緒にレコーディングしてきた、気ごころの知れたミュージシャンの方々、はたまた長岡亮介やPUNPEEくん等にも参加してもらって、かなり幅の広い作品にはなったのではないかと。