「ダンスミュージック・バージンを奪うというか。踊っていて、こんなに気持ちがいいんだって自分が体験したことを伝えていきたい。」
——ミュージシャンとDJでは、どちらを最初にスタートさせていたのですか。
バンドです。DJは21歳とかにはじめましたね。しかもレストランでBGMのような感じで。1日ずっとかけていくらみたいなDJをずっとやっていて。ライブハウスでロックとクラブの融合みたいなことをベッシーホールっていうライブハウスで体験して。そこでのミクスチャーイベントのようなときに、Mic Jack ProductionのKENさんという方がDJで曲をつないでストーリーを紡いでいくみたいなことをやっていて、教えてもらってやりはじめたのが最初ですね。
——ライブで、自分たちがオーガナイズする野外フェスではなく野外パーティーを実現させたいと言っていましたが。
一度やりましたよ、<ジョインアライブ>で。今は2ヶ月に1回のペースで、恵比寿リキッドルームでもレギュラーイベントをやっています。業界人が集まって踊り慣れた人たちが集まって遊ぶっていうのが普通のパーティーなんだろうけど、僕らのようなオーバーグラウンドを意識したバンドがオーガナイズするパーティーになると、クラブに行ったことがない子たちが多く来るんです。クラブミュージック・バージンたちが集まる。踊ったことがないし、クラブの遊び方がわからないから、まずオープンで並んじゃうんですね。クラブになれた人たちは、深夜の一番いい時間に行って、ちょっと踊って帰ってくるとかってするんだけど。
——確かにオールナイトとなると早めに行かないで終電でいくことが多いですね。
みんなオープンから並んで、DJブースの前に張り付いてドリンクも取りに行かない。アルコールもほとんど飲まないんです。だからアルコールが全然売れないんですね。ある種の遊び方の啓蒙をしなきゃいけないなって思っています。そのパーティーで感じることは、日本人って本当にすごくて圧倒的な集中力があるっていうこと。5時間のパーティーで、水も何も飲まずに場所も動かず、ひたすら歌のないDJプレイを聞き続ける。この集中力は本当にすごいなって思います。
——他の国だったら、たぶんガヤガヤしながら、話したり飲んだりしてそこでの時間を楽しんでいますよね。
そういう素養が日本人にはあるんだっていうことがわかって。クラブカルチャーが死んだって言われているけれど、進化した遊び方を提供できるんじゃないかなっていう気持ちもあるんです。実際にレイブパーティーをやったり、自分のイベントをやってそんなことを感じましたね。踊ったことのない子たちの踊りって本当に美しくて、ピュアなんです。酔っ払ってワーッて踊ったり、当たり前のようにクラブで踊ったりしている子たちとは違う、自由に踊っている感じ。盆踊りのような。
——その自由さに未来をより感じる?
僕の関心は今そっちに行っちゃっている。ダンスミュージック・バージンを奪うというか。踊っていて、こんなに気持ちがいいんだって自分が体験したことを伝えていきたい。今の時代はノードラッグだけど、ノードラッグでさえそこに辿り着ける子たちが、今の日本にはこんなにいる。けれどそれを体験できていないもったいなさみたいなものを、イベントをやるたびに感じますね。
——その部分で言えばサカナクションのライブのシーンにも「サカナトライブ」などパーティー仕様があって、ライブでも啓蒙活動はしていると思いますよ。
クラブに行くと、ロックフェスなんてとかみんな同じ縦ノリしてつまんないじゃんみたいな声を聞くし、ライブに行くと、クラブが怖いとか、歌がなくてイントロが長いなんて話を聞く。でも僕らのファンって、歌のないダンスミュージックの時には横ノリになるし、歌が入ってBPMが速い曲になると縦ノリにもなる。ハイブリッドなんですね。僕はそこに未来があるなって思っています。音楽ってどんな楽しみ方をしていてもいいわけじゃないですか。
——音を聞く、音を楽しむということでは確かにどんなスタイルでもいい。
結局海外のEDMのフェスだって、EDMを比較にするのはちょっと変かもしれないけど、多くはみんな同じ動きをして、ノリとしては日本のフェスとそんな変わらないじゃんって感じることもある。音楽を自由に楽しむことって自由に踊るっていうことだから、縦でも横でも、好きなように身体を動かせばいいんじゃないかなって。音楽の楽しみ方の垣根を低くしていって、入ってきたらこんな楽しみ方があるよって提示することが自分たちの役目なんじゃないかと思っています。
——サカナクションはひとつのツアーでもアイデアを豊富に詰め込んでいる。例えば5.1チャンネルをやったり。そのアイデアはどこから生まれてくるのですか。
現代アートと一緒で、概念というか、コンセプトなんですよ。どんなものにもコンテキストがあって、自分がアートに感動した時にそのコンセプトを知って、そのコンセプトのもとにこれに辿り着いたんだっていう理由が存在している。それを自分のライブに当てはめているんです。ライブで音に集中させたいって考えたら、じゃあライブのなかの一曲を完全に暗転にして、爆音で聞かせてもいいんじゃないとか。そこから次に向かう時にどう見せたらいいかなとか。あとアンダーグラウンドの野外パーティーでオイルアートが森に映っていて、それがめっちゃきれいだなって感じて、じゃあそれをやっている人に自分たちのライブでやってもらうとか。もともとあるものを、違う世界であったものを自分たちのフィールドに持ってくることもある。こういうことをやりたいってなったときに、テクノロジーを駆使してやることもある。アナログとデジタルの方法を関係なく、自分たちがやりたいと思っていたり好きだっていうことをライブに盛り込んでいくことと、そのときのコンセプトを大事にしていますね。
——今年の<フジロック>はどんなライブをしたいと思っていますか。
僕らのことを目的に見に来てくれた人たち、僕らのことをあまり聞いたことがないけれど見に来てくれた人たちにいい違和感を感じてもらう。いい意味で期待を裏切るようなことはやりたいと思っています。今の日本の流行りのJ-ROCK的な縦ノリみたいな要素も、<フジロック>のお客さんに体験してもらいたいなとも思っています。それをどう見せるのかっていうことを軸にしながら、全体のストーリーを考えていきます。<タイコクラブ>などでは気負って前半に一曲20分とかでやったことがあったんです。けれど予想していたよりもその20分ではみんな踊らなくて、シングル曲をやったら盛り上がるみたいなこともあったんですよ。知っている曲を聞きたい、楽しみたいという本能みたいなものはあるんだろうなと思うから、その期待も応えつつ、日本人独特の無理やり跳ねているグルーブというか、ナチュラルじゃない跳ねみたいなグルーブを、BPM126くらいで構築することもやってみたいなって思っています。
text&interview 菊地崇
photo by 横山マサト