各界のキーパーソンたちが思いのままに<フジロック>を語り尽くす「TALKING ABOUT FUJIROCK」。今回登場するのは、平井理央さん。

フジテレビを退社後、平井さんはラジオのナビゲーターや雑誌での連載など、様々なメディアと表現を通じて “伝える”という生業の幅を広げている。フジテレビ在籍中の平井さんといえば、「すぽると!」のキャスターとして、幅広くスポーツと関わっていたイメージが強いかもしれない。しかし現在は音楽との接点も増え、独立後のある仕事がきっかけで<フジロック>を訪れるようになったという。

ジャンルを限定せずに確かな信念を持つ人たちと向き合い、その魅力を自分の言葉に変換して伝える平井さんにとって、<フジロック>はどんな意味を持つ場所なのか。音楽と関わる中で受けてきた影響を交えて、その醍醐味を語ってくれた。

明快な答えをくれるソーシャルアクションの素晴らしさ。

━━平井さんはナビゲーターを担当しているJ-WAVEの番組『WONDER VISION』で、過去に取材で<フジロック>を訪れていますよね。

平井 私の<フジロック>は2013年がはじめてで、番組で<フジロック>を紹介するために<フジロック>で取り組まれている、ボードウォークや「フジロックの森プロジェクト」といったソーシャルアクションをメインに取材させていただいたんです。金曜日から会場に入って、土曜日丸一日取材して、日曜日に生放送といった流れでした。

━━<フジロック>にはどんなイメージを持っていましたか?

平井 前職のフジテレビでは<フジロック>を毎年放送しているので、社内でポスターを見て、「今年も<フジロック>の時期なんだなぁ」と存在としては知っていました。情報として入ってくるのは過酷な自然環境との闘いというか、気を抜いたら痛い目を見ると聞いていたので、行く前は準備に余念がありませんでした。いろいろなモノを持って行った中で、一番役に立ったのはポンチョですね。

━━たしかにポンチョは身動きが取りやすいから、女性が好んで使っていますね。はじめて体験した<フジロック>の感想を聞かせてもらえますか?

平井 とにかく気持ちいい環境だなと思いました。自然を感じる中で遠くから音楽が聴こえてくるという会場全体が贅沢なステージなんだなって。ボードウォークの途中に木道亭がありますよね。ザ・ステージというよりも森の中の休憩所みたいな感じで、あの場所で観た畠山美由紀さんのライブが最高に素晴らしくて、美しい畠山さんの歌声と抜けのいい青空と緑、なんて贅沢な環境なんだろうと感動しました。いまでも畠山さんの歌を聴くと、あのロケーションを思い出しますね。

━━では、ソーシャルアクションという面ではいかがでしょう?

平井 とてもいい取組だなと思ったのは、去年自分たちが使ったペットボトルがゴミ袋という形で再利用されていることですね。自分がやったことがどうなったかという結果を感じられるソーシャルアクションは少ないと思うんです。例えば、マイボトルを持ち歩いているからといって、何が起こるのかを自分の目で確認するのはなかなか難しい。

━━あぁ、言われてみれば。自分の貢献を実感しやすいのは、目に見える結果があることだと思います。

平井 そうなんですよね。人って何か結果が見えていないと「これで合っているのかな?」と不安になってしまうことがあると思うんです。だから、ああいう形で翌年に明快な答えをくれるということが本当に素晴らしいなと思いました。<フジロック>に来た人が<フジロック>をホームと思う理由は音楽以外の部分にもあるんだなって。そういったところからも2014年はプライベートで行こうと決めたんです。

━━本当にホーム感が溢れているフェスだと思うんです。リピーターのお客さんが「ただいま」と言いたくなる気持ちがよくわかりますね。

平井 1年に1度しかないのに、そこに確かなコミュニティが生まれていて、しかもはじめて<フジロック>に行った人に対しても開かれているというか。長い歴史を持っているフェスは新参者には敷居が高いのかな、と思っていた部分もありますけど、実際に行ってみると居る人が本当に温かくて、トラブルが起きない空気感はすごいことだなと思います。クリーンとか譲り合いとか、日本のいいところが凝縮されていますよね。あんなに雨が酷く降っても、イライラしている人が居ないですし。

あんぱんと牛乳、ビールと餃子を超える究極の食べ合わせ。

━━その他の音楽以外の部分では、ご飯に魅了されて<フジロック>にハマってしまった人もいると思いますよ。

平井 確かに、そこも魅力のひとつですよね。<フジロック>はご飯が最高に美味しくて、最初に行ったときは苗場食堂のご飯ときゅうりをずっと食べ続けていました。食べた記憶が主だったというくらいに食べていたけど、すごく歩いたんですよ。ドラゴンドラに乗ってギターパンダにも会いに行きましたし、ものすごく歩いたから痩せるだろうと思っていたら、まさかの増量でした(笑)。

━━どれだけ食べていたんだろう(笑)。

平井 ドラゴンドラの乗り降り場のすぐそばにあるお店で、ウイスキーのソーダ割りを買ったんですね。苗場食堂近くで売っていた鮎の塩焼きと一緒に味わったら最高の相性で、あんぱんと牛乳、ビールと餃子を超える究極の食べ合わせを見つけちゃったんです(笑)。「ここまで合うものが世の中にあるんだ……!」と打ち震えて、「来年も来たら絶対にこれを食べよう!」と決めていたけど、食の記憶は自分の中ですごく美化されることもあるので、次は感動しないかもしれないなという思いもありました。高まる期待をセーブしながら、2014年に食べに行ったら「これだ……!」ってすごく美味しかったのを再確認できました。今年も必ず食べに行きます。

━━2014年はプライベートだから、もっと美味しく感じたかもしれませんよね。ちなみに2014年はどれくらいの期間で滞在したんですか?

平井 一泊二日です。金曜日入りの土曜日帰りで参加しました。タイムスケジュールを自分で立ててしまうと効率がいいのかもしれないですけど、逆にあわてたり、焦ってしまいそうで勿体ないと思ったので、2014年は決めすぎずぶらぶら歩いてまわるのを楽しみにして過ごしました。通りすがりに気になるステージがあったら観る。それくらいの気持ちで行こうと。ふとした出会いというか、いいアーティストに巡り合うのも<フジロック>の魅力だと思います。

━━2013年の畠山さんに続いて、心を撃ち抜かれたようなステージはありましたか?

平井 14年はベースメント・ジャックスですね。大友良英さんの盆踊りをオレンジコートまで観に行く前後にたまたま巡り合って、「なんだこれは!」と。あのバレエのパフォーマンスだったり仮面の衣装だったり、体験したことのない世界観に圧倒されてしまいました。

━━去年のベースメント・ジャックスは各方面から絶賛されていましたね。毎回いろいろなパフォーマーが出てきますけど、去年が一番良かったと聞いていて。

平井 「ステージにバレエダンサーが出てきて〜」なんて、言葉で聞くと「一体どんなライブなんだ?」と少し身構えてしまいそうですけど、本当に完成されていて、かっこよかったです。あまり聴いたことがなかったジャンルの音楽なんですけど、すごくハマってしまったというか。

今年の<フジロック>はお客さんや会場の雰囲気を写真に収めたい。

━━平井さんが普段聴くのはどんな音楽ですか?

平井 一番好きなのは小沢健二さんなんです。中学2年のときにはじめて買ったシングルCDが『痛快ウキウキ通り』で、そこからハマりだして『LIFE』とかのアルバムも買いましたね。フリーで活動をはじめてからは、<風とロック芋煮会>というロックフェスにMCとして参加して、そこで怒髪天、BRAHMAN、THE BACK HORNといったロックバンドのステージを観て、バンドのかっこよさに目覚めました。最近はカメラにハマっているんですけど、怒髪天さんのライブ写真を撮らせていただいたこともあって。ライブ写真の撮影って大変ですけど、すごく被写体を好きになっちゃうんですよね。かっこよすぎるその姿を誰よりも最前線で観られるわけですから、怒髪天をますます好きになっちゃいました。

━━かっこいいところを収めようと思いながら撮ると思うので、その人たちの好きなところを探しているという感じですか?

平井 まさにそうですね。自分の目線を入れて撮った方がいいとアドバイスをもらったので、増子さんのYシャツのはだけた部分がセクシーだなとか、腰のラインとかを撮ったりしました。おこがましいですけど、いつか<フジロック>のライブ写真を撮れるように何かで申請したいな(笑)。

━━あはは、将来有り得ることかもしれませんね。先ほど幾つかロックバンドの名前が挙がりましたけど、どのバンドもとてつもないエネルギーを持っているバンドですよね。ステージ上と客席との間の雰囲気から何か思うことはありましたか?

平井 もともと2011年9月に<LIVE福島 風とロックSUPER野馬追>をフジテレビで担当していた深夜の音楽番組の取材で行かさせていただいたんです。当時震災から半年後で、自分の中でもモヤモヤした思いだったり何もできないもどかしさを苦しく感じていました。そんな中で「こんなに伝わってくるんだ……」と、すべての言葉と歌がダイレクトに響いたんですよね。そんなふうに音楽と接したことがなかったので、うまく言えないですけど、ものすごいカルチャーショックを受けたというか。こんな表現があるんだなと思ったんですけど、その空気感はライブ毎にまた違う伝わり方で、バンドの持つ力に圧倒されたのを憶えています。

━━僕は仕事柄、こうやって目の前の方の大切な話を聞かせていただいて、それを文字に変換しているわけですけど、バンドのライブという表現はすごく憧れますね。大きな意味で同じような伝え方ができないかなと模索していて。

平井 私もインタビューやリポートするということが多いので、言葉のチョイスを考えたり、その置き方を考えさせられます。話し言葉、文字、ラジオ、テレビ、やり方は幾通りもありますけど、ライブでの音楽はすごくダイレクトに伝わってくるんですよね。伝わるというより響くという表現のほうがしっくりくるかもしれません。私の場合は、自分の心が震えるものに出会ったときの感動を伝えるために、一番再現性が高い言葉を見つけようとします。写真も自分が感じたものを高い再現性で伝えられるツールなのかなと思います。

━━ライブ写真にテキストを添える平井さんの<フジロック>のライブレポートを読んでみたいですね。

平井 やってみたいです! きっと大変なのだろうけど(笑)。担当させていただいているJ-WAVEの番組で、ゲストの方のポートレートを最後に撮らせていただいているんですね。お話を伺った後に、「この方は歯を見せて笑っている方が表情がいいな」とか、「ちょっとかっこよく引きで撮りたいな」とか、そういったイメージを持ちながら、その方の魅力をトークとあわせて写真でも伝えられたらいいなって。本職のカメラマンさんが居る前でこんなことを言っていてすみません……(苦笑)。でも、写真はすごく興味がある分野なので、今年の<フジロック>はお客さんや会場の雰囲気を収めるために、カメラを持って行こうと思います。

━━これまでの話にあったように、フジテレビを退社してからの平井さんのお仕事の領域は広がっていますし、一つひとつの魅力を伝えるための手段も増えていますよね。様々な取材対象とアプローチに向き合ってきた経験から、どんなフィードバックがあるのか興味があります。

平井 以前はスポーツがメインだったので取材する対象はアスリートの方やスポーツの大会が多かったのですがが、退社してからはミュージシャンや、文化人の方々と、そのフィールドは広がりました。それでも共通しているのは、第一線で努力されている方の言葉や信念は違うフィールドに生きている自分にも必ず届くものがあるということです。これからも分野を限らないで、いろいろな方にお話を伺っていけたらいいなと思っています。その興奮を言葉と、できれば写真でも伝えていきたいですね。

━━この富士祭電子瓦版で平井さんの撮影した写真付き<フジロック>レポートが見られることを楽しみにしています。

平井 本当ですか? 機会があるなら、ぜひよろしくお願いします(笑)

text&interview by 加藤将太
photo by 横山マサト

平井理央

1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、フジテレビ入社。「すぽると!」のキャスターを務め、主にスポーツ報道に携わる。
2013年よりフリーで活動中。現在、J-WAVE「WONDER VISION」ナビゲーターとしてレギュラー出演、雑誌「BRUTUS」「ソトコト」にて連載を担当。
2014年ニューヨークシティマラソン完走までの記録をつづった著書『楽しく、走る。』(新潮社)2015年5月29日より発売。