毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは、1999年の苗場初開催から10回以上も出演しているUA。2021年はAJICOで、2022年にはROUTE 17 Rock‘n’Roll ORCHESTRAのメンバーとしてステージに立っている。
四半世紀に及ぶ<フジロック>の歴史を、ステージから見届けているアーティストのひとりと言っても過言ではないUA。自然の中で音楽を楽しむという<フジロック>の核にあるものを変えないための進化を、<コロナ>後の今年のライブでは見せてくれるのだろう。
Interview:UA
野外でライブで感じられる開放感
──<フジロック>初出演は、苗場で初開催された1999年でした。
自分のライブはBOREDOMSの後で、「エライコッチャ」って思ってたんですよね。真昼間だし、大きいし、怖いなあって。こう見えて緊張しいで、前の日は眠れなかったから。ライブ中、私のマイクにトンボが止まってくれて、それでなんかすごいほっこりしちゃって。それが私の<フジロック>の最初の体験。やっぱり野外はいいな、野外専門になりたいって気持ちになって。
──マイクにトンボが止まるっていう経験は、なかなかないですよね。
もちろんそれまでは皆無。その後に野外フェスへの出演が増えて、カナブンが止まったり、カマキリがいたりっていうのはあったけど(笑)。
──苗場の<フジロック>に行って、どんなことを感じましたか。
とにかく、FIELD OF HEAVENっていう場所が放射しているエネルギーというかモチベーションがすごいなって思って。ステージが本物のラベンダーで彩られていて。エッジなアートも好きなんだけど、アメリカのヒッピームーブメントというか、グレイトフルデッドから受け継がれているカルチャーの流れにもすごく憧れがあったんですね。70年代と90年代後半ではまったく時代も変わっているけれど、HEAVENにはその空気感があったっていうか。洗礼を受けちゃって。その年は3日間ともいて、「すごいな<フジロック>」って思ったよね。
──すごいと感じた具体的な体験は覚えています?
FIELD OF HEAVENには、大阪のアメリカ村の古着屋で働いていた友達も偶然いたりしてね。空を見て踊っていたら、天空に星がいっぱい輝いていて、蠍座か何かの星座に見えて。一緒に踊っていた隣の友達に「あれは蠍座かな」なんて指をさしながら話していたら、その星たちから流れ星が飛んできたの。「アーッ」って声をあげてしまったら、周りのみんなも流れ星を見つけて、言葉にならない歓声になってさ。ライブをしていたPHISHのメンバーたちも、その歓声にレスポンスするかように、すごいフェーズが上がっていって。自然現象とオーディエンスと音楽の化学反応っていうか、そんな体験は本当にはじめてで、すごいびっくりしちゃった。
──グレイトフルデッドやPHISHなどのサイケデリック~ジャムバンドの野外ライブでは、そんな物語があることをよく聞きます。
自然環境が良い場所だから見えたことなんだよね。夜も明るい東京では、いくつもの流れ星なんて絶対に見えないでしょう。
コロナ禍のステージから見えた風景
──その後、UAとしてだけではなく、忌野清志郎さんのトリビュートやROUTE 17 Rock‘n’Roll ORCHESTRAなど、10回以上出演しています。コロナ禍で海外からのアーティストがなかった2021年にはAJICOでのライブでした。
WHITE STAGEには出たことがなかったのよね。WHITEにはエッジなバンドが出るっていうイメージがあるから、まさかAJICOがそこでライブするっていうのは、私にとっては意外な展開で。コロナ禍でいろんなルールがあるなかでの開催。全体の雰囲気には緊張感もあって、そんな状況で自分はどんな気持ちになるんだろうっていう怖さもあったんだけど、現実にはものすごく熱いものが伝わってきて。ちょっと泣きそうになってたのね。
──フェスに限らず、ライブがそれほどやれていなかったこともあって?
ラッキーなことに、自分はやれてたんだわ。だから自分がっていうわけではなく、みんなの吸引力っていうか。お酒も飲んでないし、声も出せない。暑いのにマスクもしている。ストイックな状態だからこその、なんかを感じ取りたい。そんな吸引力が自分にも伝わってきて、一字一句丁寧に歌わなきゃみたいな気持ちになって。ひとりひとりの観客の顔もはっきり見えて。トイレに並んでいる人の顔まで見えたから。
──あの年はいろいろな規制があったし、フェスやライブに対して変なレッテルが貼られていたから、逆にライブを見ることに対してオーディエンス側も真剣だったと思う。
本当に伝わってくんのよ、心で泣いているとか喜んでいる感じが。笑っている口は見えなくても、瞳から熱い何かが伝わってくるのね。もちろん年の功もあると思うけど、音楽ってものすごい表現形態なんだなって、しみじみ思い直して。ステージに立つ人間として生まれてきたことは、本当に至福なことなんだなって思えて。ステージっていう場所が、自分のホームであるっていうことをものすごく自覚したよね。
──WHITE STAGEでのライブがコロナ禍の大きな思い出のひとつになっている?
印象的で、記憶に残っているのは確かだよね。きっと2度とあんな状況はないじゃない。そうそう、AJICOの出演は2日目で、初日は東京で<フジロック>の配信を見てたんだよね。配信で見る体験っていうのもすごいと思って。その場にのめり込み過ぎちゃいけないっていうのが、配信を見て思ったことだったのね。遠くでもいろんな人が見ているんだっていうことも忘れないようにって。
──自分を見ている、冷静な自分もいた?
完全にそう。そのおかげで、お客さんからの波動も強く感じられたんだと思う。
UAとして7年ぶりにフジロックに還る
──客演ではなくUAとして今年の出演が決まって、どんなことを思いましたか。
2022年に『Are U Romantic?』をリリースして、今のバンドセットをはじめて。シンセサイザーを効かせたり、最初の頃は試行錯誤を繰り返していたのね。丁寧にライブをやってきて、今がちょうどバンドの第1章を終えようとしている頃で。
──バンドとして熟成してきて、その集大成のようなものになるのですか。
この1年で重ねてきた今のUAが展開しているポップ。<フジロック>には音楽好きな方々がいらっしゃっているのもわかっているから、UA色も強めながら、今のバンドの第1章の集大成的なものを見せられたらっていう意味で、最適なタイミングだったんですよね。
──<フジロック>に出演するタイミングを大切にしているのですか。
毎年、出演できるわけではないから、大切にしたいし考えたいよね。特に<フジロック>は、すごい熟した状態で出たいわけ。そのときのバンドがはじまってすぐだったりすると、消化不良に感じたりするのね。今回は本当にお見事なタイミングで、だからFIELD OF HEAVENを選ばせてもらったし。
──今のバンドは、ポップさとアバンギャルドが絶妙にマッチしているという印象です。
フェスではなく自分のライブのときには、いろんな要素を出すんだよね。フェスでその要素をどこまで絞り込むのかっていうは悩ましいところで。フェスってやっぱりお祭りで、お客さんが「わー」って盛り上がってくれるとこっちもうれしいし、今はやっとそういうふうになれるし。ポップ面だけのUAをいろんなフェスでやっているけれど、やっぱり<フジロック>だし、ここで育ってきた自分っていうのもあるし。<フジロック>にはエッジな音楽がいっぱいあるわけだから、その兼ね合いだよね。
──<フジロック>に対しては特別な意識を持っている?
あると思う。いろんなものを見てきたし、経験してきたし。やっぱり日本は日本だし、どうしたって島国だし。いくら先進国だと自分では言ってても、国が芸術やアートや音楽に対する予算をあまり組まない国じゃないですか。でもそんなことを忘れさせてくれるようなクオリティが<フジロック>にはあって、ちゃんと海外との扉がバーンって開かれていて。そんな道を開いたのが<フジロック>で、本当に大事な場所だよね。
──UAにとって<フジロック>とはどんな存在なのですか?
私を、UAとして育ててくれたっていうことは間違いないし。スキルっていう面でも、一段も二段もあげてくれたんだと思う。人生において音楽を楽しむっていうことをすごく大きく思っている人が、こんなにいるんだっていうことがリアルにわかる場所。フェスの中のワンオブゼムとしてライブしても、みんなからものすごい愛情を感じるから。今回はFIELD OF HEAVENで、原点に還る的な思いはあるよね。原点に還るんだけど、それなりに成長してきた今のUAとしてステージに立てるっていう喜びもひとしおだし。それから次の<フジロック>がどうなっていくのかっていうことへの興味もつきないし。<フジロック>は日本にあって当然っていうか、日本の夏の風物詩だっていう感じもしているから。
──今年、苗場に移ってから25年目なんですよ。
変わらないでいるためには、変わらないといけないんだよね。
──最後に<フジロック>を楽しみにしているみなさんにメッセージを。
<フジロック>への出演という切符をいただけるっていうことは、名誉なことだと思っているし、これからもそれを目指していきます。苗場での空間を共に3日間過ごせるっていうことが本当に恵まれたことだと思っています。何回も出演しているなかで、山の天気っていうのは本当に変わりやすいんだっていうことを、コテンパンに味わってきているので、油断大敵ですよ。お祭り気分で楽しい遠足ではあるんだけど、雨具を必需品として、決して無理をしないでほしい。無理なスケジュールを組んで、それを必死になって守ろうとしたりしないで、臨機応変に、知らないアーティストの音楽にも耳を傾けて、<フジロック>を満喫していただきたいと思っています。風の音に乗って隣のステージの音が聞こえてくる。それがまた<フジロック>の魅力だったりするから。
Text&Interview by 菊地崇(Festival Echo/フェスおじさん)