毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回はShingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるヒップホップやジャズ、ソウルをブレンドした音楽性で人気を集める3人組、Ovallの登場です。各メンバーが卓越したプレイヤー/プロデューサーとしても活躍する彼らは、2010年にデビュー作『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』をリリース後、2作目『DAWN』を発表した2013年に一度は活動を休止。2017年に再結成し、今年はフジロック初日のフィールド・オブ・ヘブンと、6月23日に渋谷クラブクアトロで行なわれる<FRF’18プレ・フェスティバル・パーティー>にも出演します。今回は3人に、<フジロック>での思い出や当日への意気込みを聞きました!
Interview:Ovall(Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ)
関口シンゴ「フジロックって“あの場所がひとつの国のように感じられる”」
――最初に確認させていただきたいんですが、Ovallは今回、<フジロック>に初出演ということでいいんですか? 以前も出られていたような気がするのですが……。
関口シンゴ Ovallだけで出るのは今回が初めて、ということですね。その前は、2010年にorigami PRODUCTIONSの3組でOvall+45trio+Conguero Tres Hoofersという名義でオレンジコートに出ました。当時は持ち時間が一組20分もないくらいで……。
mabanua そうそう、僕らが3組の中で最初の出番だったと思います。
関口シンゴ 僕は観客として会場に行ったことがなかったので、そのときが初めての<フジロック>でした。そもそも、僕の場合はフェス自体もほとんど初めてに近かったんですよ。でも、雰囲気がすごくよくて、演奏していても気持ちよかったのを覚えています。
Shingo Suzuki あのときは天下の<フジロック>ということもあって、緊張はしなかったですけど、出番前にバンドで円陣を組んで「やるぞ!」と気合を入れました。そんなことをしたのは、後にも先にもあのときだけだったと思います(笑)。
関口シンゴ その後、円陣は次の<フジロック>まで取っておいたという(笑)。
――(笑)。mabanuaさんはいかがですか?
mabanua 僕の場合は99年、僕がまだ中学3年か高校1年ぐらいの頃に初めて<フジロック>に行って以来、しばらくずっと遊びに行っていたので、2010年に出られたときは感慨深かったですね。「観ている側から、ついに演奏する側になったんだな」と。フジロックは他のフェスとはちょっと違うというか、出演できてとても感動したのを覚えています。
Shingo Suzuki 僕も2010年の<フジロック>のときに初めて会場に行ったんですけど、<フジロック>は他のフェスと比べても会場が広大ですよね。そこで音楽と自然が一体になる様子に感動しました。
関口シンゴ Ovallが最初に出させていただいたフェスは<朝霧JAM>で、そのあと<フジロック>に出て、そこから色んなフェスにも出ることになったんですけど、今でもやっぱり思うのは<フジロック>って“あの場所がひとつの国のように感じられる”ということで。その中でステージにもそれぞれ個性があって、移動するごとに違う地方に来たような感覚になる。そういう感覚は、<フジロック>にしかないものだと思いますね。
――ロケーションも出演する方々の傾向も、ステージごとに特色がありますよね。
関口シンゴ そうですね。雨が降っても、それがそれぞれのステージを魅力的にしたりもしますし。僕らが最初に出た2010年も、確か夜だったと思うんですけど、ホワイト・ステージにコリーヌ・ベイリー・レイ(Corinne Bailey Rae)が出たときにすごい雨が降っていて、でも、その雰囲気がすごくよかったんです。「雨でもこんなに楽しめるんだな」と思いましたね。フェスで雨が降るとどうしてもネガティブになりますけど、<フジロック>に限ってはそういう感覚がない。
mabanua あと、<フジロック>って音がでかいと思うんですよ。フェスってどうしても音量制限をしなければいけないところも多いじゃないですか。もちろん、騒音の問題があるので、しょうがないんですけど。でも、<フジロック>はグリーン・ステージでライブを観ていても、音がガーン! と迫ってくる感じがして、あれがもう最高だと思います。
――そういう意味では、アーティストの方からしても演奏していて楽しいフェスのひとつなのかもしれません。
mabanua だから、偉そうに聞こえちゃうかもしれないですけど、お客さんとして行っても演者として行っても、不満に感じるところがないんです。すべてにおいて、200%の満足度ですよ。
――雨が降ったときはやっぱり大変なんじゃないですか?
mabanua “それも含めて楽しめる”ということなんですよね。「フジロックに行こうよ」と誘ったら「フェスは疲れるから」「山の中で危ないよ」って言う人もいますけど、それを楽しめる人にとっては、<フジロック>って最高の場所だと思うんですよ。
関口シンゴ 雨に関しては、みなさん色々と対策をしていますよね。色んなグッズを持って行って会場でそれを披露するのも楽しいだろうし、初めての人と一緒に会場にいて雨が降ったときに「これがフジロックなんだよ」というのも<フジロック>の楽しみなんじゃないかと思います。
――では、<フジロック>に行ったことのない人にみなさんがオススメの瞬間を教えるなら、どんなことを挙げますか。
Shingo Suzuki <フジロック>って他のフェスと比べても開放的で、みんながオープンな気持ちになっているから、初対面の人でも隣にいる人たちと一緒に共感したり、一体感を感じられるような雰囲気がありますよね。だから、初めて参加する人がたとえひとりで行っても、その会場で音楽を通じて仲間ができるような感覚があると思うんです。そうやって、人と人との繋がりが感じられるフェスのひとつなんじゃないかな、と思います。
――実は<フジロック>はひとり参加の割合が多いフェスでもあるそうです。
Shingo Suzuki へええ、そうなんですか!
関口シンゴ あと、タイムテーブルを見て移動している道すがら、グリーン(・ステージ)ですごい歓声が上がっているのが聞こえて、「今どのバンドがやってるの?」ということから新しい音楽に出会うような瞬間も結構ありますよね。新しい発見のあるフェスだと思います。
mabanua 逆に、<フジロック>では名前を知らない人のライブを観に行った方がいいかもしれないですね。ブレイクする前のアーティストも結構出ていて、<フジロック>に出た1~2年後に大ブレイクするアーティストって沢山いると思うので。たとえば、今年ヘッドライナーとして帰ってくる2012年のケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)もそうでしたよね。
――僕もその現場にいたんですが、あれは本当にいいライブでした。ちょうどビョークの真裏になってしまって、人は全然いなかったですが……。
mabanua でも、すごくいいライブだったみたいで。そういうライブを観ることって貴重だし、あとで自慢できる体験にもなると思いますし。<フジロック>はそんな風に、有名になる前からいいアーティストを呼んでくれる。それって素晴らしいことだと思うんですよ。
――みなさんが<フジロック>で観たライブの中で、印象に残っているものを教えてください。
Shingo Suzuki 2010年にSuperflyのライブを観たときのことは覚えています。そのときまで、Superflyの楽曲をそこまで聴き込んでいたわけではなかったんですけど、大音量でのロックならではの一体感に結構な衝撃を受けて。「いい音楽を聴いたな」と思いました。
関口シンゴ 僕はジャズが好きなので、グリーンで3年前に上原ひろみさんを観たのは感慨深かったです。あの規模のステージでトリオが演奏するって、すごいことだと思うんですよ。しかも、ジャズを知っていないと沸けないようなちょっとした駆け引きでお客さんが沸いていて、アンソニー・ジャクソン(Anthony Jackson)や上原さんの真剣勝負をしている鬼気迫る表情までもがアップでモニターに映し出されていた。緊張感がすごい演奏でした。
mabanua 僕は苗場での第1回目から10回目ぐらいまでは毎年行っていたので、色々あり過ぎて困るんですけど……。でも、レッチリですかね。『バイ・ザ・ウェイ』を出した頃のレッチリのライブはすごかった。もちろん、他にもたくさんあるんですけど……(と言って困った表情をする)。
Shingo Suzuki&関口シンゴ ははははは。
mabanua そういえば、ケイク(CAKE)の存在を知ったのも<フジロック>でした。<フジロック>でライブを観たらすごくよくて、そこから好きになったバンドって本当にたくさんいるんですよ。あと、裏の楽屋の通路でジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン)とすれ違ったときは震えました(笑)。
Shingo Suzuki「違う人たちと演奏したことで、お互いの演奏をより聴くようになった」
――Ovallは2017年に活動を再開させていますが、復活以降のライブでは、みなさん自身何か変化を感じたりしているのでしょうか?
mabanua それぞれのアプローチが変わってきた感覚はありますね。ずっとバンドを続けていると、どうしても新鮮味がなくなったりもしますけど、今は5年ぐらい間隔が空いてふたたび集まったことで、当時は考えつかなかったアプローチでやることも増えているというか。それぞれが(プレイヤーとして)上手くなったことも関係しているのかもしれないですけど、同時に思考回路が新鮮になった感覚があるんですよ。
Shingo Suzuki 確かに、新鮮に感じることは僕も増えてます。食べ物でも同じものを食べ続けると飽きちゃったりしますけど、久しぶりに食べて「ああ、やっぱりこれが好きだったんだな」って(笑)。それに、以前そこまでやっていなかった曲をピックアップして演奏していると、だんだんそこに味わいが加わるのも感じます。一度時間を置いてみたことで、その曲の違う側面に目がいくことになっている部分はあると思いますね。
―― 一度時間を空けてみたことで、同じ曲にも新しい視点が追加された、と。
関口シンゴ そうですね。細かい音色にしてもそうだし、ちょっとしたアプローチに関してもそうだし。同じ曲でも、前とは違うことをやっている感覚があると思います。
――Ovallの音楽はライブではセッションならではのラフさも感じられますが、何より3人の関係性が緻密に組み合わさって生まれているような感覚があると思います。一度休んだことで、それぞれの個性が違う形で組み合わさる瞬間が出てきたのかもしれませんね。
Shingo Suzuki (それぞれがプレイヤーとして)違う人たちと演奏したことで、またOvallとして集まったときに、お互いの演奏をより聴くようになった部分はあるのかもしれません。それがバンドのよさだと思うし、僕らの場合は一見ラフに聞こえる音でも実はこだわって演奏していたりして、その場で集まったセッションだけではない音楽でもあるので。
mabanua「やっぱりフィールド・オブ・ヘブンには出てみたかったんです」
――そしてみなさんは今年、<フジロック>1日目のフィールド・オブ・ヘブンとプレパーティーの両方に出演が決定しています。当日はどんなことを楽しみにしていますか?
Shingo Suzuki まず、プレパーティーは出演時間が久しぶりに深夜帯なので、卓球さんが盛り上げてくれた後のお客さんを、僕らもいい感じに盛り上げたいですね。
mabanua <フジロック>のプレパーティーということで、お客さんも普通の深夜帯のイベントとは雰囲気が違うのかな、と思っているんですよ。それこそ、山に行く恰好をしてくる人もいるんじゃないか、ぐらいの(笑)。フロアでテント張っちゃったりとかね。
Shingo Suzuki そんな人いないでしょ(笑)。
mabanua (笑)。気持ちとしては、僕らもそれぐらいの意気込みで臨もうと思っているんです。そして<フジロック>本番はフィールド・オブ・ヘブンですね。うちのレーベルの所属アーティストはみんな(ジプシー・)アバロンを制覇していて、「次はどこかな……?」というと、やっぱりフィールド・オブ・ヘブンには出てみたかったんです。個人的には、ヘブンのラインの音がすごく好きだったりもするので、そこで出来るのは本当に嬉しいですね。当日は、とにかく低音を感じてほしい。
関口シンゴ オレンジコートへの出演から8年経って、今回ようやくOvallだけでひとつのステージを任せてもらえるので、僕もベストを尽くしたいと思っています。
――円陣は組みますか?
Shingo Suzuki そうですね。8年越しの円陣を組みましょう(笑)。
――当日のライブ、楽しみにしています。最後に、今年出演する他のアーティストでライブが楽しみな人がいれば教えてもらえると嬉しいです。
Shingo Suzuki 僕らと同じ日ではないんですけど、アンダーソン・パーク(Anderson .Paak & The Free Nationals)は観たいですね。スケジュール的に他の日も行けるのかまだ分からないんですけど、気持ちとしては、僕は3日間行くつもりでいるので。ケンドリック・ラマーも観たいですしね。
関口シンゴ ジェイムス・ベイ(James Bay)も、<フジロック>に合いそうです。
mabanua 僕は自分たちが出演する1日目しか行けなさそうなんですけど、同じ日だとチューン・ヤーズ(Tune-Yards)も楽しみですし、ポスト・マローン(Post Malone)もすごく観たい。ポスト・マローンは、日本だとなかなか単独では観られないと思いますしね。あとは、3日目に出るダーティー・プロジェクターズ(Dirty Projectors)のライブも、観られるものならすごく観たいライブのひとつです。
text&interview Jin Sugiyama
photo by 横山マサト
EVENT INFORMATION
FUJI ROCK FESTIVAL’18 PRE-FESTIVAL PARTY
OPEN/START 23:00 CLOSE 04:30
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500 (税込/スタンディング/ドリンク別/整理番号付)
DJ:TAKKYU ISHINO、SUGIURUMN/LIVE:Ovall、King Gnu