泉さんが母親として子どもである類さんをフジロックに連れてきた理由は、仕事のためだけでしたか?

母:一年目で懲りちゃったので、連れてくるのをやめようかなと思ったりもしたんですけど、SMASHとしては海外のフェスに匹敵するような夏フェスを作りたいというコンセプトでやっていて、海外のフェスでは子どもが居る人は連れてくるのが当たり前で、フジロックもそういうフェスになるように小学生以下は無料にしていると一緒に仕事していた編集者とかSMASHの人たちから聞いていたので。それに、現場で働いている人たちが「ちょっと子どもは連れて来づらいよね」っていう状況であったなら、それは一般の人たちだって連れていけないじゃんて。だから、仕事しながらだと面倒みるのは大変だけど、連れて来れるのであれば、なるべく連れてきた方がいいよって言われたんです。確かに連れてくると本当に大変だったし、最初は「栗原さん、子ども連れてきたんですか?」って言う方も、もちろんいらっしゃったんですよ。「え、仕事なのに?」っていう感じで。それでもやっぱり、みんなが子どもを連れて行ける場所にしたいっていう気持ちが私もあったし、誰かがそれを積極的にやっていないと子どもを連れてくる人が増えない。いつまでたっても子どもを連れて音楽を楽しむ場っていうのが日本で育たないなというのがあったので、なるべく連れて行くようにしました。

では、幼い子どもをフジロックに連れて行く行為をどう捉えていますか?

母:子どもの頃に当たり前のように行っていたからこそ、大人になってからも行きたいってなるじゃないですか。日本のフェスに限らないですけど、フェスってやっぱりチケット代も高いし、交通費もかかるので、若い子が気軽に行けるものではないんですよね。じゃあ、若い世代をどう呼び込めばいいかって言ったら、フジロックの敷居を下げる必要がある。要は、小っちゃい頃から連れて来られている子は、自分が友達同士で行くような歳になったときにも行こうと思う心理的なハードルが絶対に低い。だからこそ、これから先も日本でのフェスという文化を継承していくのであれば、絶対に子どもを連れて行くべきだと私は思うんですよ。

親のアクションにかかってくるというわけですね。

母:それに親がフジロックを体験している世代だったら「いいよ」と言える心理的ハードルも低いし。友達とキャンプしながら行くよって言われて送り出せるようにするためには、小さい頃から、小学生になる前のベビーカーの段階からでも連れて行ける人は積極的に連れて行って楽しむ習慣をもたせてほしいなという風に思うんですよね。90年代前半の頃は、音楽は若者のものだったんですよね。レコード会社にしろ、イベンターさんにしろ、常に客層の若返りを狙って若者をターゲットにするしかなかったわけですけど、フジロックが始まる前と後とでは、すごく変わったと思っているんです。就職して仕事が忙しいからとライブから遠ざかっちゃうような人でも、フジロックだけは夏休みを取って見に行こうという習慣ができて、30代、40代に熱心なリスナー層になるような人たちも増えて。音楽が若者だけのものでなくなったのは、フジロックの存在が大きいと思うんですよ。フジロック20年での功績はそれだけでも大きなものですが、これから先は、日本のフェス文化やライブを体感すること、音楽を聴き続けることを若い子たちにどう習慣づけてもらうかっていうのを業界全体で考えていかなきゃいけないと思うんですね。ライブの価値、フジロックを体験する価値を再考することも大切だと思います。

類:ハードルを上げすぎだよ。当たり前のことを言っているとはいえ(笑)。

07-3 【こどもフジロック】栗原泉・類親子とフジロックの歩み

逆に、小さい頃からフジロックに参加してきた類さんは、現在、それをどう捉えていますか?

類:季節がちょうど夏休みの時期だったので、フジロックなしの夏休みは考えられないという風な感じでしたね。学生時代、自分はそんなに学校と馴染むことがなく友達も多くなかった上に、その頃から話すのは大人が多かった。その大人というのは母親経由で知り合った「CROSSBEAT」の編集の人とか母親の同級生で、それこそフジロックに行ってる人たちが多かったから、自分としては大人と話ができる時間がフジロックだったんですよ。プラス、母親の仕事上、音楽はいろいろ聴いていて、DNAなのか、互いに好きなものはすごく共通していて、二人でライブ見に行ったりするし。確かに今はダウンロードとかも当たり前になってきているとはいえ、本当にちゃんと好きなバンドは単独のライブにしろ、フェスにしろ、自分の肉眼で見て体感するからこそやっぱりライブなんだと思うんですよね。特にフジロックの場合、自然の中で聴くというのもありますし、自然の中で聴いていい音楽というのがいっぱいあるんですよ。僕がすごい印象的だったのが、13歳か14歳だっけな、Mumford & Sonsがグラミーを受賞したあたりでフジロックに来たとき。山だから終盤で雨とか降ったりして、絶妙で弱すぎず強すぎず降っていたその雨も演出のひとつに変えてしまうようなライブで。通い続ければ雨も気にならなくなっちゃうし、雨もあっていいようなライブも増えてきたりして、自分自身忍耐力が鍛えられるじゃないですけど我慢強くもなる(笑)。ストリーミングとかもありですけど、好きになったバンドを僕は見に行く。チケット代、移動費の価値は充分ありますし、母親が言ったように若いときからずっと体感していくことによって、苦より幸せのほうが上になってくると思うので。もし10代で行きたいけど貯金がないなら、貯金をしていく価値があると思います。

最後に。フジロックは、栗原親子にとってどんな存在でしょうか。

母:音楽的に言えば、その年のトレンドを明確にキャッチできる場所だし、親子としてなら、学校の宿題や小学校の絵日記とか夏休みの思い出を書かされたりするじゃないですか。そういうもののネタを考えなきゃいけない面倒を払拭してくれる場所(笑)。とりあえずフジロックへ連れて行っておけば、夏休みに他へ連れて行かなくても済むわ、良かったみたいな。そういう場所ですかね。

類:言われちゃったんだけど(笑)。一言では言えないけれど、ある意味でフジロックはサバイバル能力を身に付ける、ってわけではないですけれど、なかなか行くような場所ではないじゃないですか。自然に囲まれる中でライブを見ながら食事できたりもするし。自然と触れあえる場所っていうのもある。

母:自然だけじゃなくて、人と人の、普段接しない人とのコミュニケーションも増えるじゃん。だから社会性が身につけられる場所でもあったよね(笑)。

類:確かにね。あと、ここ最近はゴンドラに乗ると親子がすごく多かった。僕もゴンドラずっと乗りたいなあって思ってたけど、子どもの頃は「これ、落ちるんじゃないか」とか……。

母:乗っけたよ?!

類:ちょっと聞いて(笑)。それを怖いなあって思ってたけど、この人に乗っけてもらってその不安は解消されたし、山の頂上までの景色が綺麗だった。フジロックは都会に住んでいると味わえないラグジュアリーがある社会性を身につける場所っていうのが一番のキーかなって思います。

企画・取材・文=早乙女‘dorami’ゆうこ

08-3 【こどもフジロック】栗原泉・類親子とフジロックの歩み

09-3 【こどもフジロック】栗原泉・類親子とフジロックの歩み

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