■7月26日(金)
○朝
朝5時、ドラゴン起床。睡眠不足の母に代わってファルコンが朝の散歩へ連れ出してくれた。帰るなり「ワンワンがいるところに、ワンワンがいなかったんだよ! 見て! これ撮ってきた!」と報告を受ける。息子よ、早朝レポートをありがとう。でもママは眠いし、犬もまだ寝てると思うんだ…。
身支度をして朝食を食べ、いよいよ<フジロック>初日! グリーンステージのRED HOT CHILLI PIPERSの幕開けライブになんとか間に合って胸をなで下ろす母に対し、「ゴンちゃん!」と見つけるなり駆け上がるドラゴンとそれをサポートするファルコン。目の前に広がるグリーンステージ・エリアは<フジロック‘19>開幕を待つお客さんで朝からぎっしりだ。
「前にいってもいい?」と聴いてきたドラゴンにオーケーして後ろをついていく。
パイパーズはドラゴンのもうひとつの祖国イングランドの隣国・スコットランドの伝統楽器であるバグパイプを演奏するバンドで民族衣装のキルトなどは前日のテレビ出演を見せて説明済み。どこまで理解しているかは分からないけれど「あの人たち、パンツ履いてないんでしょう?」というくだりは覚えていた。
前方で確認できて満足したのか来た道をずんずん戻る。途中、お客さんの間をすり抜けながら何かを捕まえた。
ファルコンのもとへ一目散で戻り、「チョウチョ、つかまえたんだよ!」と報告。ファルコンが「逃がしてあげたら?」と言うと全力で拒否。母の「見せて」には手のひらをゆっくりと開けてくれた。
知らない曲になると踵を返してゴンちゃんへまっしぐら。シャボン玉を吹く女の子二人にアピールするも相手にされず、エルレファンのお兄さんたちに遊んでもらう。そこへ別のお兄さんがドラゴンのためにわざわざトンボを捕まえて持ってきてくれた。何度もトンボとりに失敗していたドラゴンを見てくださっていての厚意だろう。
トンボを手にでき、満面の笑みで大人とコミュニケーションをとる息子の姿を見て、開幕早々連れてきてよかったと感じた。そう、<フジロック>には優しいハートのロックな大人が大勢いるから、都会では味わえない人間味に子どもも親も触れることができる非常に大切な場なのだ。
○昼
初日のランチは「ジャスミンタイ」。3歳児がこちらのタイラーメンを美味しく食べられたと聞き、ドラゴンにも初めて食べてもらった。挽肉入りでボリューム満点の辛さのない優しいお味の麺は我が家の4歳児と還暦越えのファルコンにも好評だった。
母はもちろん、グリーンカレー! これを食べると“フジロックに来た感”が味わえる。11時過ぎだったので10分で購入でき、4回目にして親子で「ジャスミンタイ」を楽しめた! 大勢の人が動く時間を避けて行動するのは子どもと過ごすフジロックを快適にする術のひとつだ。
昼食後はドラゴンのリベンジを果たすためドラゴンドラへ直行。ドラゴンとファルコンは初めての体験、母も10年以上前に乗ったのが最後で記憶がほとんどないので標識を頼りに乗り場へ向かった。
階段を登りきると坂が見えて記憶が蘇ってきた。そうだ! ドラゴンドラは乗り場までの坂道が大変だったんだ! 目の前の家族も皆で手を繋いでエッチラオッチラ登っている。
それを尻目に「ママ、ここキツすぎ!」と母の言葉をコピーするドラゴン。
登ることに飽きた自由人は、急坂にもかかわらず寄り道を開始。何かを発見し、こっちへこいと叫んでいたけれど、母はしんどくてヒーヒー言いながら休み休み登り、ファルコンは真面目な性格を表すように一歩ずつ地道に登っていた。
チームワークはゼロ、バラバラな3人家族。登り初めて10〜15分、ようやく乗り場へ到着。チケットを用意して列に並んだが、初日の金曜正午頃で待ち時間は10分程度だった。
順番が来て、動くゴンドラに飛び乗って出発! 最大8人乗車可能で我ら3人は前列に、台湾から来た4人組が後列に座った。好奇心旺盛でハイテンションなドラゴンに対し、高所恐怖症で硬直するファルコン。
片道約25分の日本一長い空の旅は雨の雫のせいで景色がよく見えないまま終了し、登頂! ゴンドラの乗り入れを間近で見られるポイントを発見したドラゴンはそこで手を振ることをなかなかやめなかった。普段は電車や車に手を振っても返してもらえることはほぼないから、多くの方が手を振り返し、応えてくれることが嬉しくてたまらないのだろう。
そして、そんなたわいもないことを見て心から感謝したり、感動できるようになった自分にも驚かされる。これがこどもフジロックの醍醐味だと実感しながら見守った。
その後、ロッジでソフトクリームを食べてエネルギーを補填。
遠くにとらえたのは、タイガーとハイジ、そしてシンガー。近づきたいと訴えるドラゴンに「ステージ中だから終わってからにしよう」と説得。昨年までは見られなかった我慢する背中に彼の成長を感じた。
再び歩き出すと“カラーン カラーン”と鐘の鳴る音が聞こえた。一目散に音の鳴る方へ向かい、あっという間にガンガン鳴らす。この一連の動き、もはや追いつけない速度。
そしてキッズDJ体験の看板を発見! 上空に来た目的はこれだ!
急な土砂降りになったけれど、テント内なので濡れずに体験できた。並びの小学4,5年生くらいの子は様々なボタンを自由に動かして楽しそうにプレイしていたものの、我が家の4歳児はスタッフさんにほぼ誘導していただいておとなしめに体験終了。説明を理解できるようになれば自由度も上がって楽しめそうだ。
この日は降ったと思えばすぐ止むを繰り返す雨に翻弄され、子どものレインスーツを着せたり脱がせたり、自分も脱いだり着たりと大忙しの1日だった。時より雨雲に覆われた不気味な空を睨んでは「また降ってくるかなあ?」と呟き、たくましい顔をしていたドラゴンが印象的だった。
自然の豊かさも、怖さも、自分で触れてみなければ分からないし、危険を察知する力は大人であっても得難いもの。その点、彼は<フジロック>や<朝霧JAM>、キャンプ、プレイパークなどの安全な環境下で自然と触れ合う経験を積んでいるのでいつかは空を読める頼もしい男になるだろう。
とはいえ、まだまだ幼い4歳児。下界で繰り広げられているライブを観たいと密やかに願う母の気持ちなどは知るよしもなく、シャボン玉タイムを満喫。撥水剤使用のゴンちゃんレインスーツで完全防備されているので小雨程度ではまったく動じない。
天空のエリアに満足し、「キッズランドに行きたい」と言うドラゴンを連れてトイレへ立ち寄ると、怪しい三人組ことハッチェル特急楽団に遭遇!
ムジカピッコリーノのビッグ・ファンであるドラゴンは「あっ! ムジカの!」と驚きの表情で楽団の奏でる調べを楽しんだ。外に出たところでハイジ一行に遭遇。さすが<フジロック>にいる着ぐるみなだけあって写真もシュールな仕上がりだ。
帰りのドラゴンドラでは、行きよりも晴れて気分が良くなったのか「線路は続くよどこまでも」を大声でエンドレスに熱唱。同乗した日本人のお姉さん2人組を笑わせながら、ステージやキッズランドを見つける遊びを楽しんで空の旅は終了。
下山すると、大勢の大人が地面に横たわっていた。「あの人たち、何してるの?」と聞かれてもその理由は見当も付かなかったので「自分も寝てみたら分かるんじゃない?」と言うと素直に加わって寝転んだ。けれど「わかんなかった!」そうだ。
そう、人生は分からないことだらけ。なんてことを考えていたらオリジナルラブの「接吻 -kiss-」が聞こえてきた。時刻は17時。天空のステージへの旅は噂通り半日がかりとなった。
○夕方
気を取り直し、朝は急いで駆け抜けた入場ゲートへ戻って子ども用リストバンドをもらう。
そのまま場外へ。<朝霧JAM>のラインナップ発表のバナーが目に入り、少しばかり秋のことを考える。
空を見上げるとすっかり夕暮れに。昼寝をしなかったドラゴンはかなり眠そうだったが知り合いに会えたことで元気が復活! 起きているうちに早めのディナーをとるため「こどもフジごはん」で取材した「老舗肉問屋 小川」に向かった。
ドラゴンには千円の黒毛和牛丼を、ファルコンと母は二千円のふらの和牛重を注文。チェーン店とは違い、4歳児でも楽に噛み切れる柔らかくて美味しいお肉と新潟産のご飯をそれぞれペロっと平らげた。その後も肉好きな仕事仲間を連れて通ったこの店が間違いなく今年のナンバーワン!
お腹が満たされたドラゴンは「キッズランドへ行く!」と言っていたけれど、予想通りに雨がまた降ってきて、レインカバーで守られたバギーに乗るとスヤスヤと眠りの世界へ。このとき、やけに人が少ないと思ったらELLEGARDENの出演時間だった。
苗場帰還のエルレを諦め、雨が激しくなってきたので一旦宿へ。部屋に着いても身動きひとつせずにグッスリと眠っていた4歳児をベッドに寝かせ、少し休憩した。
○夜
寝ていたドラゴンをファルコンに託し、ケミカルブラザーズを久々に見た後はホワイトステージへ移動し、ベースを抱えて弾け飛ぶレアなトム・ヨークを拝んだ。
ファルコンから、ドラゴンが目覚めたのでナイトゴンドラに乗ってきたと連絡が入る。母はオアシスへ戻り、お酒を飲みながらMITSKIを観て初日は終了。