KIDS LANDでは、主に、子どもたちやその親御さんがやってくることと思いますが、実際にはどのようにふれあうのでしょうか?

僕らスタッフの基本的な役割は、一緒に遊ぶというよりも、その場を見守ったり、子どもたちが場を作り上げていく仕掛けを作ることなんです。そのために毎年事前に話し合いをして準備をし、それを実行する。そして本番中は子どもの遊び場を見ながら、親御さんと話をします。そこではどこから来たのかとか、プレイパークや子育てのことなどを話しながら、お母さんたちにも安心して滞在してもらえる場作りをしています。たとえば「ライブを観に行きたいですよね。でも、子どもがここで遊びたがっていますね。ライブもいいですけど、この自由な遊び場で、自由に遊ぶお子さんの姿を見るのも良いことで、いろいろなことが変わったりしますよ」というメッセージを発信する場にできるように心がけています。

06-8 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

これまでに記憶に残っているエピソードはありますか?

KIDSの森の初年度のワイルドな環境の中で本当に面白かったのが、“切り株に登る”という遊びがあって。それに登りたい子が毎日挑戦しにやって来たんです。初日できなくて、2日目もできなくて、3日目はジャンプしたんですけど体力も尽きてとうとう落ちてしまったことがありました。結果は出来なかったわけですが、その子の頑張りと成長を、その子の親も、僕らも見ることができた。そこで親御さんとも話をしたのはよく覚えています。

07-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

あと、お父さんが手作りしたフジロック・オリジナルのTシャツを着てくる子どもがいて、それを着て毎年見せに来てくれたり、1年に1回会話しに来てくれたり、高校生になった子もいて。毎年来てくれる子の中には「僕はこの大きいイベントをやっているSMASHに入る」って小学生の時からずっと言っている地元の面白い子もいて、彼の親御さんもまた独自のルールを持っていて。

独自のルール、ですか?

大人が子どもの邪魔をしない、暗黙のルールとでも言えばいいのかな。その親御さんは彼がKIDS LANDで遊んでいるときは森の外で見守っているんです。最初はその子だけで来てるのかと思って気をもんでたんですけど、外から彼を見ている大人がいることに気がついたら目が合って。これはその子が10歳だった頃の話ですが、19歳になった彼が今でも会いに来てくれて、その時々の学校でどんなことをしているのかを話してくれるんです。いろんな話ができる対象と思ってくれているみたいで。そんな風に友好的に関係を作ってくれる家族もいて面白いし、不思議ですね。

08-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

音楽だけではなく、特定の人に会うことがフジロックに参加する目的のひとつになっている。それがKIDSの森にいるヤスさんたち森の番人だったり、子どもたち同士だったり、その親御さん同士だったり。素敵なお話ですね。

新潟の子と千葉の子がKIDSの森で出逢って、1年に1回そこで会って、僕たちとも話をしてくれたりもするんですよ。素敵でしょう? 

その時間を絶やすまいと、子どもたちを連れて参加し続けている親御さんの頑張りとか、気持ちがあってこそ得られる時間ですね。

ほんとに、その通りだと思います。本当に面白い家族が多い。フジロックに関わっているのも、行きたいなって思うのも理由はそこにあって。そういう子どもたちの成長をずっと見ていきたいなあって思っています。

10-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

それともうひとつ、スタッフとしては運用上皆さんにお伝えしている「ネックピースは外してね」という注意が、ある方にとっては、連日自分の子だけが言われていると捉えられてしまって「急にスタッフからいろいろ言われるようになった。フジロックを愛しているし、キッズランド自体も好きだけれども、長年来ていてフジロックのこともよく分かって自己責任でやっているのに、いろいろ言われる意味がわからない」と来場者から注意された年がありました。僕は、そういったやりとりもすごく大切なことだと思っています。

自己責任である部分と皆で楽しく遊ぶための最低限のルールは混合させてはいけないと思いますが、個人の解釈や考え方の違いなので難しいですね。

11-4 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

■KIDS LANDに佇む想いとメッセージ

KIDS LANDには巨大な滑り台がありますが、あれは誰が作ったものですか?

12-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

ツリーハウスビルダーです。あそこに立っていた杉の木が冬の雪の重みで根っこが押されて、木の曲がりができて、その形がいいなあということで、その曲がりを活かした滑り台が作りたいという想いで出来たものなんですよ。滑り台を作った人、天才なんですよ。発想が全然違う。すっごい素敵な巨大なヤジロベエを作ったりして。

雪深い新潟、湯沢ならではのものなんですね。ところで、KIDSの森にある黄色や黒のブランコみたいなもの。あれは何ですか?

13-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

あれはブイなんですよ。海に浮いていたものです。

は? なぜ海のものが山の中にあるんですか?

地震後、東北で、ブイに傷が付いて、そこから水や砂が入っちゃって使えなくなってしまったものが大量に出たんです。それを装飾チームが回収して、子どもの遊びに使えないかっていう想いで被災地から持ってきたんですよ。

(絶句)

あの子たち、石巻から来たんですよ、2011年に。2011年から毎年ぶら下げている理由はそこにあります。

今まで多くの取材をしましたが、裏のストーリーってなかなか表に聞こえてこないんですよね。

そう、何気ないものにも想いがみんなあるし、意味もある。

【こどもフジロック】で紹介した1歳時の本番レポートのトップ写真は、そのブイに乗って森を見上げている息子の写真なのですが…、まさかそんなストーリーがあったなんて想像もしていなかったから返す言葉が出ませんでした。でも、それは知らないとわからないから教えていただけて良かったです。

強い想いがあるものなので、あの子たちは今年も森に設置します。それから僕がやりたいこととして、みんなで作ったものがずっとフジロックにあって、それが進化していくようなものを作りたいんですよね。

ガウディみたいでいいですね。ぜひ参加したいです。

14-6 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

さて。普段のヤスさんはプレイパークに勤務されているんですか?

プレイパークは5年前に卒業し、今は特別支援学校の教師として勤務しています。週末は地域の子どもたちにサッカーを教えてもいますね。

なぜ転職を?

障害を持った子どもたちが外で遊んでいる姿をあんまり見かけないですよね。それと以前、イギリスの遊び場を視察に訪れた時、障害を持った子どもたちだけの遊び場が紹介されていたのを知ったんですが、障害を持った子どもたちが特別に切り取られていることにもちょっとした疑問を感じて。障害を持った人が子ども時代をもうちょっと豊かに過ごすには、普通の一般的な公園で普通にみんなと遊べる社会にしなきゃいけないじゃん! と思って先生になったんです。社会に反映できることをしたいと思って。

フジロックでの野望もあって、肢体不自由の方に関してはボードウォークが用意されているけれども、知的に障害を持った人が音楽を体験、体感してもらうために何かできることはないかと。もちろん音が苦手な子もいるからイヤーマフをつけつつも、体を動かすことは好きだったり、何かを得られたりすると思うんですよね。フジロックでも障害のあるなしの障壁がない、ボーダーレスにできるように発信していくのが野望です。

すべてを一気にはできないと思いますが、ボードウォークのように少しずつ作ったり、整えたり、変えていくことはきっとできそうですよね。

4年前に知的障害の子がフジロックに来たんですよ。

KIDSの森に?

いえ、森には入れないということだったので、テントで檜の積み木の所にいて、積み木の匂いをかいだり舐めたりしていて。お母さんは「うちの子、障害があるから」と仰ったので「そんなことは気にせず、キッズランド内で、どこでも自由に過ごしてください」とお伝えしたことがありました。

15-5 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

フジロックはイベントとしての変化が在り在りと見えていますし、子ども連れもどうぞという風には変わってきている。さらに、もう一歩踏み込んで、障害を持つ子どもやその保護者たちもフジロックで楽しめるようにしていきたいですね。それが僕のいる意味であり、やり遂げたいことです。

企画・取材・文=早乙女‘dorami’ゆうこ
写真提供=渡部靖成、宇宙大使☆スター

★プレイパークとは…「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーにした遊び場で、子どもたちの好奇心を大切にして、自由にやりたいことができる遊び場のこと。冒険遊び場ともいう。1940年以降ヨーロッパを中心に広がり、日本では1979年、世田谷区の国際児童年記念事業として羽根木公園に設置されたのが始まり。子供たちが安全に、しかし、予め設えられた設備や遊びのプランの選択肢に縛られることなく、自由に変更や改変を加え、想像力で工夫して、自分たちのアイディアとスタイルで遊びを作り出し、発見や創造する喜びを味わえるというのが、プレイパークの醍醐味である。
例えば、プレイリーダー(プレイワーカー)や地域の住民ボランティアの方たちの見守りのもと、規則に縛られて遊ぶ普段の公園ではなかなかすることができない焚き火や泥遊び、木登りなどをすることができる遊び場もある。行政と住民の協働事業として常設的に実施されている場合や、住民ボランティアが行政(公園管理者)に請願をして不定期に細々と実施にこぎ着けている場合など、スタイルは様々ある。全国に200ヶ所以上設置されているので、下記リンクで検索して、足を運んでみてください。

<関連リンク>
■プレーパーク:日本冒険遊び場づくり協会
http://bouken-asobiba.org/
■全国冒険遊び場検索マップ
http://bouken-asobiba.org/play/
■(冒険遊び場協会のフジロック活動報告)
Benefit for NIPPON:キッズランド in FUJI ROCK FESTIVAL2017
http://bouken-asobiba.org/news/detail-580.html

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09-6 【こどもフジロック】KIDS LANDの守り人「ヤス」こと渡部 靖成に訊く、KIDSの森の話

<こどもフジロックFacebook>では、フジロックに子連れで参加する人にとって役立つ情報の収集、発信、シェアを呼びかけ、皆で助け合い、子どもも大人もフジロックを思いっきり楽しもうという想いが活動のベースにあります。<こどもフジロックFacebook>では、役立ち情報のシェアを呼びかけています。子連れで不安に感じていることなどを、子連れ参加経験のある方は体験談をシェアしてください。

INFORMATION

フジロック「KIDSLAND」

開場時間:9:00 〜 21:00

フジロック「KIDSの森」

開場時間:11:00〜18:00
木もれ陽あふれる森には、趣向を凝らした手作り遊具が点在する素敵な空間が広がっています。過ごし方は自由自在。但し、ケガと弁当は自分持ちでね。