■音の快適と不快

西嶋院長:音響外傷などへの懸念よりも、僕が気になるのは音の快・不快。音には、快適か不快かというのがあるじゃないですか。それは人によってすごく違うもので、僕にとってはAphex Twinの独特の破裂音はすごく気持ちのいい音に感じられるんですけど、ああいう電子音が嫌いだという人もいる。そういう人にとってはあの音が鳴っているのはすごく不快だし、子どもにとってもそれは同じことだと思うんですよ。子どもが「この音、気持ちいい」と言って身体を委ねているようなら、スポンジタイプの耳栓などで少し制限してあげればいいでしょうし、うるさいのはイヤだなと思っているときや、静かにしてあげたいっていうときには、イヤーマフなどでしっかりと対策を取ってあげればいい。

子どもの快適さを整えることは親として当然のこと。でも親の立場になると、自分の不安から極度に子どもの行動を抑えたりしちゃったりして、程よい加減がわからないというか。

西嶋院長:ダイレクトに入る音を適度にブロックしつつ、フェスそのものの環境音やいろいろな雰囲気を適度に感じさせてあげるといいんじゃないかなって。医師である僕がこんなことを言っていいのかなとも思いますが、そこまで神経質になる必要はないですよって(笑)。

大きな音が鳴ることはわかった上で不安だけれど連れて行きたい、楽しみたいという家族が多いと思うので、それはすごく安心できるお言葉です。

西嶋院長:同じ耳鼻科の医師であっても、ロックコンサートやライブを体験したことがなければ、「そんな小さな子どもをライブやフェス会場に連れて行くのは言語道断」という人もいるかもしれない。その点、僕は場数だけは踏んでいますので(笑)。経験則から、アドバイスすることはできます。

■フジロック。じゃあ、どこで観ればいいの?

green_1_ 【こどもフジロック】小児難聴のスペシャリスト「西嶋 隆医師」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

先ほどレッド・マーキーへの言及がありましたが、実際、フジロックの各ステージエリアのどこまでなら子連れでもOKなのかについて教えてください。まずはグリーン・ステージから。

西嶋院長:アコースティック系のアーティストのステージあれば、全然問題ありません。比較的音が大きいバンドであれば、これは他のステージでも言えることですが、モッシュピットよりも後ろの方であれば大丈夫だと思います。僕、Motörheadの時にモッシュピットに入ったんですけど音の大きさに関して言えば、それ程でもなくて。逆に、スピーカーサイドに居る方が音がガーッとくるかなって気がしましたよね。

SMASH石飛:モッシュピットの中は一番いい音が聴こえるはずなので実はそんなに大きな音じゃないんです。

でも人の動きは激しいですから、気をつける必要はありますよね。

西嶋院長:個人的に今までで一番やばいと思ったのは、マイブラ(My Bloody Valentine)がグリーンでトリを取ったとき。8分間だかガーっと轟音を出したことがありましたよね。あのときは、ステージ左手のスピーカー前にいたんですけど、気持ちいいけど耳大丈夫かなって(笑)。結局は問題ありませんでしたが。

SMASH石飛:音量もしかりですが、音の質っていうか(笑)。

西嶋院長:そうですね。質にもよりますね。だからギターなんかでも、キーンという鋭角的な音や耳に響くような音はあまり良くないとは思います。お子さんだから、自分で守るっていう感覚はないですし、大人よりは神経が脆弱なところがありますので、気をつけてあげたほうがいい。ただ、ほとんどの部分は普通にしてあげていいんじゃないかなって思うんですよね。

では次、レッド・マーキーはどこで観ればいいですか?

西嶋院長:レッド・マーキーでは、真ん中よりも少し後ろくらいで聴かせてあげるのがいいんじゃないでしょうか。それで子どもが不快に思うようであったら、マーキーのテントを出るような。それくらいの対応でいいと思うんですよね。結局レッド・マーキーもスペースがあるから音は抜けてますからね。

02 【こどもフジロック】小児難聴のスペシャリスト「西嶋 隆医師」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

横も空いてますしね。2016年のザ・クロマニヨンズの時に子連れがすごく多くて、子どもも革ジャンを着たりしてやる気満々なわけですよ。そういう子たちは前で観たいんじゃないかと。でも親が不安で後ろで観ているのかもしれず。

SMASH石飛:まさにTHE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズの歴史の中で、お父さん、お母さんたちが一緒に聴いてるんだろうね。

西嶋院長:自分が前に行きたいんだっていうくらいの子だったら、お父さん、お母さんの話がわかると思うんですよね。だから、お父さん、お母さんが「耳がボワンとするような感じがしたら、すぐ後ろに戻って来いよ」と言っておいて。それが理解できるお子さんだったら、前に出してあげていいと思います。それがフジロックの“自分のことは自分で”という精神につながりますし、子どものことは親がしっかり守ってあげるということだと思います。

03 【こどもフジロック】小児難聴のスペシャリスト「西嶋 隆医師」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

■気をつけるべきポイント

フジロックで子どもと一緒に音を楽しむために、気をつけるべきポイントを教えてください。

西嶋院長:鳴っている音が耳に痛いと感じたら、すぐに後ろに下がったほうがいいです。ただ、混雑していて後ろに容易に移動できない場合もありますから、前に行きたいなら、耳栓やイヤーマフなどを使って対策を取ればよいのではないでしょうか。fujirockers.orgの記事にあった「Ear Peace」という画期的な耳栓、ああいうものも良いと思います。ただ、耳の穴の中に挿入するタイプの耳栓の場合、耳垢が溜まっている状態で耳栓を挿入すると、耳垢を奥に押し込んでしまう可能性があります。なので、事前に親御さんが耳の中を見てあげるか、近所の耳鼻科で耳の掃除をお願いすると良いです。耳垢くらいで耳鼻科を受診してもいいのか、と心配なさる方もいらっしゃいますが、耳垢を取るのも耳鼻科医の仕事のうちですから。

親は子どもに合わせて準備をするってことですね。話がわかる子なら、当日話をする。でも興奮しちゃうと引けなくなるのは子どもも大人も一緒ですからそこも備えると(笑)。

西嶋院長:そうですね。あとは親が聴いていて、これはラウドな感じだなって思えば、そこで「耳栓やイヤーマフを付けなさい」って言う。そういう対処をしてあげるのがいいのではないでしょうか。

昨年場内で生後3ヶ月の可愛い赤ちゃんと会ったんですけど、そういった新生児、乳児も今のお話と同じですか?

西嶋院長:そういう子たちは自分で「この音が気持ちいい」とか「うるさい」って言えないですよね。会場内は普通でいいと思うんですけど、大きな音が鳴っているときは、そこまで小さい子だと耳栓も入らないですから、耳の穴の入口に市販の小さな綿球などを置いてあげるだけでも音のブロックにはなります。僕は小児科医ではありませんが、耳鼻科医として日々多くの子どもたちの診察をしていますし、大学でも小児難聴を専門にやっていた。その立場から、フジロックの会場における音に対するアドバイスとしてはそんなところが挙げられます。

また、これは耳鼻科医の立場からはちょっと離れますが、雨の中を小さなお子さんがあっちこっち移動させられている姿を見たことがあるんですけど。お父さん、お母さん、見たいライブがあるかもしれないけど、そのときだけは雨が凌げるところに行ったり、状況が許すなら宿に戻るとか、お子さんが濡れないように配慮をしてあげて欲しいなと思いました。パレス(オブ・ワンダー)で夜中に寝ている子どもをベビーカーに乗せた親御さんを見かけたこともありますが、夜も更けてきたら、部屋やテントで休ませてあげようよって。音だけではなく、子どもにとっての快適性を優先してあげて、多少は不自由かもしれないですけど、お子さんを守っていただいたほうがいいんじゃないかなと。

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