TOSHI-LOW「すごく腑に落ちるベストアルバムだなと。一緒にツアーしたのは16、7年前なのに、今でもこんなに覚えてるんだから。」
――バンダ・バソッティのメンバーは、日本で過ごした日々をどう感じていたのでしょうか?
花房 あの人たち、みんな日本好きなんですよ。特にダビデはね。彼の家に行くと、浮世絵とか、あと日本の黒澤明とかの映画関係のポスターが貼ってあって。ものすごく日本の文化が好きだった。ショーゴの影響も大きいと思う。彼がいろんな日本のバンドを連れて行ってるんだよね。で、そうすることによって、彼ら自身も日本とのコネクションができて。完全に無名な日本のバンドをイタリアでプロモーションしてくれて。で、同時に彼らが日本に来たときに、そこでサポートした日本のバンドたちがまた逆にサポートしてくれるっていう、すごい良い関係作ってくれた。だからあるアルバムで、日本語のカバーやってるじゃないですか。
TOSHI-LOW THE BLUE HEARTSの“情熱の薔薇”。
花房 うん。あれもそういう意識があるんだと思うし、日本のバンドのことを知ってるからやってるんだろうなとも思いますよね。そういう部分はすごくオープンだった。一回俺が沖縄の若い女の子のCDをあげたことがあってさ、それもすごい聞いてたんだよね。
――今年バンダ・バソッティが予定している<フジロック>でのライブは、実に14年振りの来日公演となります。
花房 数年前、<フジロック>の出演者をめぐって「音楽に政治を持ち込むな」とかいう議論があったでしょ? ああいうのは鼻で笑っていいと思うんですけれど、問題はその発言自体がどれだけ政治的なことなのか、まったく理解してないってこと。何を歌おうが、何をやろうが個人の勝手なのに、それに関して政治的なことはするなとか、そういう発言こそが政治的なことなわけ。でも、バンダ・バソッティはまったく恐れずに、闘うバンドなんだよ。あの姿勢は尊敬するしかないなって思う。それが音楽だと僕は思うんですよ。音楽や生き様の中に文化があって、政治があって、経済があって、全部含めた人間だと思うのね。それが音楽という形で僕らに伝わってる。僕はそれを素晴らしいと思うし、感動するし、伝えたいって思う。モノを表現する人を。
TOSHI-LOW 表現するという行為そのものが、他の何かと切り離せない。写真だってそうでしょ? 例えば桜の写真がただの風景なのかっていったら、そうじゃないもんね。そこには、撮った人が日本をどういう風に思ってるのか、みたいなものが映し出されてるわけだから。
花房 バンダ・バソッティのツアーの記憶ですごく覚えてるのが、第二次世界大戦の終戦記念日のこと。第二次世界大戦では日独伊三国同盟だったから、イタリアは日本と同じで戦争に負けたんだよな。日本と同じ敗戦国なのに、彼らは終戦の日を「イタリアが解放された日」だって言うんだよ。日本人はそういう見方したことないと思う。その解放記念日を祝って、ナチズムと戦ったレジスタンスの生き残りをセレブレイトするためのライブをやったりする。そういうのって日本にないもんね。
TOSHI-LOW 確かに、聞いたことない。
花房 日本では、少しでも政治的なことが関わると、みんな逃げていくんだよね。ところが、バンダ・バソッティはそれを恐れない。しかも、彼らの場合はライブを通した活動だけじゃない。サンディニスタを支えるために、シガロはニカラグアに半年間行ってて、学校作ったっていうからね。物資を届けたり支援したりする行動を、世界各地の紛争地域でやっていたりする。そこまでできる彼らのパワーってなんだろう、ってすごく思う。
TOSHI-LOW 地理的な問題もあるし、日本のバンドと一概に比べることはできないとは思うんだけど、バンダ・バソッティのそういう姿勢を見て肌で感じてきたから、俺たちもしっかり主張していきたいとは思う。全ての主張において歩み寄れないことなんかないし、住んで生活していること自体が政治なわけだから、自分が良い/悪いと思うものに対しては声を上げていいんじゃない。日本だけじゃなくて、世界がこうなってしまった中で、パンク・バンドなんて少ないかもしれないけれども、逆に言えば、そういう所から芽生えたバンドこそが生き様を光らせることができるんだと思う。バンダ・バソッティの詩で、「大きな声を上げろ」みたいなのあったよね?
花房 「Gridalo Forte」=「大声で叫べ」っていうのが彼らのレーベルの名前。俺もそれだけイタリア語で覚えたんだ。連中が歌っている時に、「グリダロ・フォルテ」ってコーラスが聴こえてくるんだよ。ちなみに、同じ時期にフェルミンたちのレーベルがバスクでできて、名前が「Esan Ozenki」っていうんだけど、それもバスク語で同じ意味らしい。しかも偶然らしいよ。
――昨年の12月に、バンドの中心人物でもあったシガロの急逝が伝えられました。その訃報を聞いた時はどうでしたか?
花房 ダビデと話してるときに、シガロがやばいっていう話を聞いてはいたのね。痩せてガリガリになっちゃって。
TOSHI-LOW 以前はあんなにふっくらしてたのに?
花房 で、どうなのよ、って聞いたら、連中は大丈夫だって言ってた。で、日高が次の<フジロック>にバンダ・バソッティ連れてくるからって話を聞いて、あ、そうかよかった、まだ活動できるんだって思ってたんだよね。その時から、このベスト・アルバムの選曲作業をやってて、それがようやく終わって連絡した時にシガロが亡くなったって聞いて。もう真っ青でしたよ。ツアーのときとかもさ、必ずサンドイッチ持ってきて、おまえ食うか? とか言いながらさ、すごい世話してくれて、本当に良い奴だったから。
TOSHI-LOW 俺も、いや、マジで? って、信じられなかった。本当にキーマンっていうか、最重要のメンバーで。こういう人から亡くなるんだな、みたいな。シガロが歌ってた曲で印象深い曲も多いから、<フジロック>でどういう風に演奏するんだろう。
花房 俺からすると、シガロこそがバンダ・バソッティのそのものなんですよ。ほとんどの曲は彼が書いてるし、彼がリードボーカルだし、彼がギターで一番前に立ってるわけだから。その後ろにピッキオがいて、彼はハッピー・マンデーズ(Happy Mondays)でいうベズみたいな煽る役で。シガロがどーんといたのが、なくなっちゃったわけじゃん。今どうやってんだか、まったく分かんない。でも、同時にバンダ・バソッティっていうのは特殊なグループでもあるわけね。だからマネージャーみたいなのだってメンバーだし、マーチャンやってるやつもメンバーだし、そういう発想を持ってる。だからどういう風に彼らがやっていくのか気になるし、続くことは続くんだろうけど、今年<フジロック>でライブを見たときにどう思うんだろうね。
TOSHI-LOW 新しいチャレンジだから、観てみたいね。
――このベスト・アルバムはシガロの訃報の前から制作が進んでいたものの、結果的にメモリアルな意味合いになってしまいました。この選曲にはどういう思いがありますか?
花房 俺はもうバンダ・バソッティはライブしかないと思ってるのね。ライブがあまりに強力。だからライブで彼らがやる楽曲をまず全部集めたい、と思ったんですよ。昔からやってる曲ばっかりで、ほとんどがアルバムが出た順になってる。これを持っていれば、ライブでは大体この曲知ってるみたいな感じになるはず。
TOSHI-LOW 2002年とか3年のときにも、ずっとやってた曲ばっかりだから、俺はすごく腑に落ちるベストアルバムだなと。今でもやっぱすげえ覚えてる。だから、曲自体はすごいポップっていうか歌いやすいのかも。イタリア語はわかんないけど、わかっていればもう一緒に口ずさめる。一緒にツアーしたのは16、7年前なのに、今でもこんなに覚えてるんだから。
text&interview by 青山晃大
photo by 澤田格
INFORMATION
LA BRIGATA INTERNAZIONALE (ラ・ブリガータ・インテルナツィオナーレ)
REXY-3/国内盤CD/定価 2,500円+tax
発売日:2019年4月19日(金)
解説:花房浩一