毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は、<フジロック >初出演となるMONOEYESが登場。結成6年目を迎える彼らに、バンドとしての目標からステージへの意気込みまでをインタビュー。彼らが初出演の<フジロック >に懸ける思いとは?

Interview:MONOEYES(細美武士、スコット・マーフィー、戸高賢史、一瀬正和)

スコット「曲を聴いたらめちゃくちゃよくて、アメリカから日本に移住しました。」

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──まずMONOEYES結成の経緯を聞かせてください。

細美 2011年に東日本大震災があって、東北にボランティアで通ううちに、「細美さんが来てくれるのなら、ボランティアもありがたいんですけど、歌も歌って欲しいです」みたいに言われる機会があって。少しずつ弾き語りでライブをやったりするようになっていきました。いろんなバンドが復興支援だけじゃなくてライブでも東北の沿岸部に行くようになってきたときに、被災地でもバンドの音を鳴らせるような、フットワークが軽いバンドがあるといいなと思ったんですね。the HIATUSも武道館公演を成功させたことで、自分のなかでちょっとひと段落するタイミングが重なったんです。

──そのひと段落というのはthe HIATUSに対するものだったのですか?

細美 the HIATUSというわけではなく、自分の音楽活動にひと呼吸つけるタイミングでした。実はその頃からELLEGARDENが復活しそうな兆しもあって。メンバーで久しぶりに集まったりもしてたんです。なんとなくその時が近づいてきている感覚がある中で、自分の人生でソロアルバムを作る時期って今しかないなってぼんやり思ったんですね。このタイミングを逃すと、自分一人で音楽を作るとどういうものができるのかを確かめてみる機会がないまま終わりを迎えそうだなと。だから最初はソロアルバムを作るから手伝ってくれって3人に声をかけたんですね。完全に一人で曲を作ってみたいという思いで始めたんですけど、実際に集まって音を出し始めたあたりから東北にフットワークよく行けるバンドが欲しかった気持ちとだんだんとくっついていって。アルバムを録り始めたら完全にバンドサウンドになっていました。自分の中でもソロでやろうと思ったことは1stアルバムの作曲で消化できたので、ソロっていう感覚はいつのまにか消えていきましたね。

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──細美さんに声をかけてもらい、どんなことを思いましたか?

戸高 ちょうど自分のバンド(ART-SCHOOL)の活動休止のタイミングだったんですよね。それまでは僕らのイベントにちょっと出てもらうというような、何か接点があったわけでもなくて。the HIATUSの音楽性もすごく先鋭的なアートっていうところにまで踏み込んでいるなと思っていたので、どんな感じでバンドをやるのかなって思ってデモを聴かせてもらったら、本当にバンド然としたサウンドで。なるほどこの人は今こういうモードで、ちょっとフットワークが軽い感じのバンドをやりたいんだなっていう風に感じて。面白そうだなと思って、ぜひその船に乗っかってみたいなと思ったんです。

一瀬 僕はthe HIATUSのヘルプドラマー的にツアーも一緒に回ったりもしていました。ただレコーディングとかをしていなかったので、何かあったら手伝うよみたいなことは言っていたんです。なので、声をかけられた時はやっと俺の出番が来たなみたいな(笑)。ありがとうって思ってることを、音楽の関係性で返せるチャンスが来たなっていう感じでしたね。

スコット 当時、僕はアメリカに住んでいました。アメリカでやっていたアリスター(ALLiSTER)っていうバンドが活動休止になったんです。そんな頃、細美さんからソロアルバムを出すからベースで手伝ってくれないかって連絡があって。ソロアルバムの手伝いだけだからと最初は軽く考えていて、アメリカに住みながらやれると思ってたんです。でも、曲を聴いたらめちゃくちゃよくて、アメリカから日本に移住しました。

──最初のライブはどこでやったんですか?

細美 宮城県の石巻市にある「石巻ブルーレジスタンス」でした。アルバムをリリースする前にやったので、お客さんは一曲も知らない状態で。そもそもバンドを作ったきっかけがフットワークよく東北に行くっていう思いだったから、やっと自分の曲でこいつらもモッシュやダイブできるという喜びがすごくありましたね。

一瀬「正直言うと、日本で一番のフェスだと思っています。」

0714_taf_monoeyes_03 フジロック初出演MONOEYESがみせる新しいステージ #fujirock──今まで東北のフェスも含めていろいろなフェスに参加しています。MONOEYESにとってフェスとはどんな存在ですか?

細美 MONOEYESのコンセプトとして、“祭り”とか“人生の打ち上げ”を持っていくみたいなとこがあるんです。

──なんらかの喜びをもっていくということですか?

細美 はい。東北に行こうっていうことだから。本当の意味でみんなを笑わせたり、元気にさせたりなんてことはできないのかも知れないけど、その場だけでも、ちょっとバカ騒ぎができるような時を一緒に過ごせたらと思っていたバンドなんです。そういう方向性で言えばフェスとの相性はすごくいいですよね。

──MONOEYESとしては<フジロック>に初めて出演します。

一瀬 正直言うと、日本で一番のフェスだと思っています。世界に誇れる日本を代表できるフェスであり、若い頃から憧れのフェスでしたね。

戸高 日本でバンドをやっていたら、間違いなく大きな目標のひとつですよね。僕は客として1999年に初めて<フジロック>を観にいったんですが、衝撃の連続でしたね。あの時に見たレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)が忘れられない。ようやくあのステージに立てるっていう感覚があります。

スコット アメリカに住んでいた頃から<フジロック>の存在を知っていました。過去いろんなアメリカの友達のバンドも出ていて、無茶苦茶いいフェスだよという話を聞いていたので、いつか出たいなって思っていて。MONOEYESでもいろんなフェスに出ているけど、やっと<フジロック>でライブができることがすごいうれしいですね。

細美 MONOEYESは「賑やかし」と「お祭り騒ぎ」を各地に持って回って6年目になるんですけど、やっぱりそれだけじゃなくて、続けていくうちに出てきた深みみたいなものが今はあるんですよね。騒げればいいってだけじゃなくて、ちゃんといい音楽を4人で鳴らすことができる。そういうタイミングで<フジロック>という舞台に立てるのは、いい流れを感じてます。

0714_taf_monoeyes_04 フジロック初出演MONOEYESがみせる新しいステージ #fujirock──細美さんは毎年のように<フジロック >に出演されていますが、特に思い出として残っているシーンはありますか?

細美 初めて出たのはELLEGARDENの活動休止が決まっていた年。そういえば<フジロック>に出たことなかったなみたいな感覚で、こちらから出たいってお願いしたんですよね。たぶん状況も汲んでくれてグリーン・ステージに出してくれて。<フジロック>では天気が崩れることが多いじゃないですか。ELLEGARDENのライブの時もどしゃ降りで、ステージから山の向こうに落雷がバリバリ落ちているのが見えていて。客席が暴動みたいになったことをよく覚えています。でも楽しかったなあ。ELLEGARDENの活動休止直前で、いろいろなことにモヤモヤしていたタイミングの中では、数少ないとても楽しかった思い出のひとつになっていますね。

──今年はいつもの<フジロック>とは違うものになると思います。MONOEYESとしてはどんなライブをしたいと思っていますか?

細美 国内アーティストしかいない<フジロック>じゃないですか。いろいろ考えてみたんですけど、結局その日に現場に行ってみないと、どういう空気感になっているのかつかめないなと思いました。今年の<フジロック>がどうなるのかっていうのはたぶん今は誰もわからない。だから俺は色々と想像することはやめて、国内アーティストしかいないからとか、お客さんがあれができないこれができないとか、そういうことは一切関係なく、いつも<フジロック>に出るときと変わらない思いでライブをしたい。当たり前のことだと思いますが、どんな海外のアーティストにも絶対負けないライブをしようって思ってステージに立つんですけど、今年もそれをそのままやりたいと自分自身は思っています。最高の歌を歌えたらいいですね。

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──昨年からのコロナ禍が続き、ライブもなかなかできない状況が続いています。ライブに対して、今はどんな思いを持っていますか。

細美 回数が少ないからこそ、やっぱりひとつひとつの刺激が大きいですよね。やってて滅茶苦茶楽しいんですよ。コロナ前のライブと比べるといろいろ欠損してるのかも知れないんだけど、余裕でそれを飛び越えてくる、やっぱりこれだよなっていう感覚。だって俺たち全員ライブばっかりやって生きてきたから。人生で一番ぶっとくて楽しくて、なんなら生きる喜びそのものみたいな部分がしばらくごっそりなかったわけだから。干からびそうになっていた気持ちが水を得るっていう感覚になりますよ。今はどんなライブでも爆発的なライブになるだろうなって思います。

一瀬 こんなにライブが少なくて間隔が開くことって今までになかったから。次のライブへの期待と期間が離れていることに対して、自分はちゃん準備ができているのかっていう不安があります。とはいえ、いつかやらなければいけない時のために、練習ばかりしているわけですよ。でも家に帰ると不安になって、スタジオでみんなにと一緒になって実際にドラム触って叩くとその不安が解消される。この繰り返しだったかもしれないですね。この時間によって弓矢が引かれたままの状態で何かが蓄えられている。それが放たれた時にどうなるのか、自分でも楽しみです。

戸高 僕もまったく同じで渇望という感じです。準備はもう精一杯してきています。ライブって文字通り一瞬の刹那の美学という部分もあるんですよね。始まってみないとわからない部分もあるんだけど、絶対に悪いものにはならないという自信はあります。オーディエンスも渇望しているだろうし、僕らもそうだし。

スコット 今まで23年くらいバンドをやっているんだけど、半年で1回しかライブをやってないっていうことは、バンドを始めてからなかったことだから。バンドをやっていて一番楽しい瞬間がライブ。今年の5月に1本だけやって、ものすごいテンション上がって、弾き過ぎて次の日にすごい筋肉痛になりました(笑)。

戸高「みんなで向かい合って音を出して、すごいそれだけで楽しい。」

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──MONOEYESのツアーも始まります。どんな場にしていきたいですか。

細美 去年『Between the Black and Gray』っていうアルバムを出したんだけど、ちゃんとツアーができてないんですよ。アコースティックツアーみたいなものはやったんですけど、アルバムの曲をアルバムの形で演奏できてない。でも制限のあったこの1年余りで、ミュージシャンとしてバンドマンとして強くなった部分もあるんですよね。ライブは日常だったのに、パタッとなくなったことでわかったこともたくさんある。俺がこの期間に手に入れたものを全部ぶつけて、成長したところを見せられたらいいなと思います。

──久しぶりに4人で集まって音を出す時は、前とは違う感覚になっていたのですか?

一瀬 ライブ前に久しぶりに4人でリハーサルのために集まって、自分たちでかなり楽しめているっていう部分もあって。やっぱりバンドって楽しいんだなっていうことを毎回感じています。コロナのおかげなんて言いたくないけど、それによって大切さみたいなものを肌で感じることができましたよね。初心に戻ることができた。だから俺はバンドをやっているんだ、バンドをやることが楽しいんだって。

戸高 去年の10月に武道館の無観客生配信をやったんですけど、武道館の真ん中に円形のステージを作って、メンバーと向かい合って、メンバー同士で殴り合うみたいな感じでライブをして配信したんです。それだけでも相当緊張感もあったし、メンバーとやり合うだけでもすごいたくさんのエモーションが湧き出てきました。自分たちが求めているのはバンドなんだなって思いますね。小さなスタジオに入って、みんなで向かい合って音を出して、すごいそれだけで楽しい。そういう気持ちがずっとあるバンドなんですね。

スコット 去年アルバムを出して、そのアルバムの曲をガンガンやってお客さんがどういう反応をするのか、どういう顔してるかって、今は楽しみでしかない。みんながハッピーになれるようなライブができたらいいなと思っています。

細美 まあ、全部が全部うまくいってる時が常に一番楽しいのかというと、そうとも限らないじゃないですか。何もかもがうまくいってるなんてこともそうそうないけど(笑)。そうじゃない逆境みたいなもの。どちらかというと俺たちはそういうところでずっとやってきた感覚があるんです。いろんなことを取り戻している感覚もありますよ。

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──お客さんも今のライブからは受け取るものが違うと思います。MONOEYESとして東北でのライブをこれからも続けていくと思うのですけど、今後もそのスタンスは変わらずに?

細美 MONOEYESはすごいたくさんの可能性をまだまだ秘めていると思っていて、ノビシロもめちゃめちゃあると思っています。だからMONOEYESとして今やっていることに満足しきってはいないんですよね。もっともっとやりたいことはたくさんあるし。だから東北東北言ってばかりでもないんだけど、確かに東北で生まれたバンドだという感覚があるので、行くたびに家に帰ってきたなみたいな安心感があるし、それは変わらないですね。MONOEYESっていうバンドのいいところは、損得で動いてこなかったところだし、これからもきっとそう。惚れた腫れた、みたいなことで動いていくのは今後も変わらない。

──バンドとしての目標はどんなところに置いているのですか?

一瀬 細美君みたいな考えの人が、「お前がドラムで良かったな」って思えるようなメンバーでいたいと常に思っています。そのために日々、演奏面も精神的にもちゃんとしていたい。ちゃんとしていたいっていうか、行くぞって言われたらすぐに着いていくし、そこで支えたいというか。メンバー3人にもっともっと安心感を与えられるようなドラマーになりたいなということを思っていますね。

スコット 3人の素敵なミュージシャンと一緒にいて、自分もミュージシャンとしてもレベルアップしていると思いたいし、これからどんどんミュージシャンとしてもバンドとしてもレベルアップしていければと思っています。

戸高 MONOEYESは自分を本当に成長させてくれる場所なんですね。こんなこと言うと本当にバカにされたりもするかもしれないけど、人生をかけてずっと大事にしていきたいもの。

細美 ……言うとウェブに載っちゃうからなあ(笑)。まあ目標って話で言えば、俺は当たり前にこの世で一番かっこいいバンドになりたいといつも思ってやってますよ。誰にも負ける気はしてないし、負けるつもりもないです。ただそれは見に来てくれる人に言うことじゃないよね(笑)。自分の中で持ってればいいことであって。ボーカルとしてMONOEYESで歌うときは、犬が夜に遠吠えするような、野性的な音が出せるようになりたいなって思いますね。このバンドでは特に、野生的で動物的な歌が歌えるようになりたいなと思ってます。

──ある種の野生感を求めているということですか?

細美 はい。

細美「自分も世界の音楽の一部として演奏できる」

0714_taf_monoeyes_08 フジロック初出演MONOEYESがみせる新しいステージ #fujirock──MONOEYESは4人の熱さが集まっているということを、お話を聞いていても感じています。最後に読者の方にメッセージをいただけますか?

一瀬 <フジロック>が無事に開催できたらいいなと願っています。開催できてもいろんな事情で行けない人も含めて、みんなで笑えるようなライブができるように願っています。

戸高 海外のミュージシャンがいないことで、日本のミュージシャンの心に「なめんなよ」という気持ちも芽生えていると思います。元の<フジロック>に戻るまで、自分たちもライブでちゃんとつなげる。

スコット 僕は外国人だけど日本でバンドをやっていて、<フジロック>で演奏できるのは本当にうれしい。コロナでライブもフェスも中止になってあまりできていないけど、成功という結果が残せたら、これからどんどんライブできるようになっていくと思う。来るお客さんも十分気をつけて、周りの人も安心して楽しめるような演奏ができたらなって思っています。

細美 自分にとっては<フジロック>のステージでしかやらないっていうか、不思議と<フジロック>のステージでしかそうならない歌い方みたいなものがあって。<フジロック>だと国籍が日本に限定されないっていうのかな、自分も世界の音楽の一部として演奏できるから、自分のスイッチをキャッチーなところに置かなくていいっていう、俺にとってはある意味すごい楽な部分はあるんですよ。今年は海外アーティストがいないんだけど、俺が出るのはやっぱり<フジロック>なので、そういう歌になると思う。だからきっとMONOEYESを何度も見たことあるファンにとっても、新しい響き方をしてくれる可能性もあるんですよね。

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text&interview by 菊地 崇
photo by 横山マサト