毎回さまざまなゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力・思い出・体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は2014年にホワイト・ステージで<フジロック>初出演を果たし、2016年にはグリーン・ステージにも出演したお馴染みの覆面集団・MAN WITH A MISSIONが登場です。
コロナ禍の影響で最終的には開催中止になってしまったものの、2020年には<フジロック>のサポートのもと、苗場のグリーン・ステージをそのまま使ったバンド主催のフェス『THE MISSION』を企画するなど、大の<フジロック>好きとしても知られる狼たち。その中から、2015年にグリーン・ステージでのフー・ファイターズのライブに飛び入り参加したことも記憶に新しいJean-Ken Johnnyさん(G, Vo, Rap)に、<フジロック>での思い出や、今年の開催に向けた思いを聞きました!
※Jean-Ken Johnnyの発言は編集部で日本語に翻訳しています。
Interview:Jean-Ken Johnny
フジロックハ音楽人トシテモ観客トシテモ楽シメル“粋”ナ場所
━━MAN WITH A MISSIONは2010年に結成され、14年に<フジロック>に初出演しています。Jean-Ken Johnnyさんは初出演前から<フジロック>に来たことはありましたか?
出演以外にも<フジロック>の思い出はめちゃくちゃあります。2012年のレディオヘッドも2013年のビョークも観ましたし、大雨の中で演奏した2013年のナイン・インチ・ネイルズも観ましたし――。よいしょするわけではないですけど、<フジロック>はラインナップが本当に魅力的だと思います。音楽を主軸とした国際交流や異文化交流の場になっていますよね。苗場の空気感の中で普段とは異質な体験をさせてくれるし、音楽人のひとりとしても毎回新しい発見があって、ライブのパフォーマンスそのものだけではなく「あの空間で音楽を楽しむ」というところも含めて楽しめるような場所だと思います。
<フジロック>は日本の野外ロックフェスの歴史の中でもすごく古いものですし、邦楽と洋楽を分ける必要はないとは思うんですけど、日本でそういった音楽に触れられる一番稀有な場所なんじゃないかな、とも思います。あそこに行くだけでも普通に楽しめるのに、そこで音楽も提供されるという、本当に粋なところだな、と。
━━MAN WITH A MISSIONの音楽は色々な音楽のクロスオーバーになっていると思うので、そういう意味でも<フジロック>のステージは合っているのかもしれません。
ありがとうございます。僕らも、マインドとしてはそういうことを大切にしているんです。日本を拠点にしているバンドですが、好きで聴いてきた音楽や影響されたバンドはどちらかというと洋楽にカテゴライズされるものが多かったりしますし。<フジロック>はラインナップを見ていても、セールスだけではない部分に着目してラインナップを決めているのかな、と思うんです。カルチャーがクロスオーバーしたり、その匂いがするアーティストが選ばれている気がして、バンドとして、いち音楽人として、そこに憧れや尊敬の気持ちでいます。そういうフェスに出させてもらえるのは、僕らの経歴の中でも誇りを持っている部分です。
━━観客として好きな会場での過ごし方があれば教えてください。
やっぱり、会場を散策するのが一番楽しいかな、と思いますね。お目当てのアーティストを観に行くというよりも、苗場のロケーション自体を楽しみながら、自由気ままに会場内を歩いて、面白そうなことをやっている人がいたら立ち止まって楽しむ、というのが一番好きな楽しみ方です。おかげさまで僕自身、自分が知らなかったバンドを知ることがたくさんありました。<フジロック>って、そういう発見が一番多いフェスかもしれないです。
━━会場の奥の方まで行くんですか?
行きますよ。もともとオレンジ・コートがあった「オレンジ・カフェ / バスカー・ストップ」のところまで行ったりします。あと、<フジロック>はご飯も美味しいですし、なんだかんだで他のアーティストも出演する/しないにかかわらず会場にいるので、「もしかして、いま会場にいる?」とやりとりをして集まってレッド・マーキーの近くのオアシスでただ飲んでいることもよくあります(笑)。
誰モガ自由デ、心一ツデ楽シミ方ヲ選ベル
アル意味一番ユナイトシテイル状態
━━Jean-Ken Johnnyさんの場合、観客として会場に遊びに来ていた2015年に、フー・ファイターズの楽屋挨拶に向かったところ、そのままフー・ファイターズのグリーン・ステージでのライブに飛び入り出演するというハプニングもありましたね。
あれはなかなか大変な一日でした(笑)。僕はもともと、フー・ファイターズもデイヴ・グロールもめちゃくちゃ好きですし、ただ楽屋に挨拶しにいっただけだったんです。そしたら、まさかのそのままステージに出ることになり。あのときは確か、(フー・ファイターズの8thアルバム)『ソニック・ハイウェイズ』のドキュメンタリー作品の試写会でご一緒した縁で「俺だけでも挨拶に行こう」と楽屋に向かったんですよ。そうしたら、デイヴさんが「ステージに登らないか?」と言ってくれたんです。本来は「MAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyだ!」と紹介してくれるつもりだったと思うんですが、本番では忘れてしまったんでしょうね。手招きだけでステージに呼ばれて、結果、3万5000人が引くことになりました……(笑)。
━━すごいことですよね。それにお客さんも引いていたわけではないと思いますよ!
あのときは、ステージでただ踊るだけしかできなかったです(笑)。そしてそのステージが、僕にとって初めての<フジロック>のグリーン・ステージ出演になりました。それもあって、翌年にMAN WITH A MISSIONとしてグリーン・ステージに出たときも、全然緊張しなかったんですよ。風景自体は知っていたので、「何が来ても大丈夫だ」と思っていましたね。
━━MAN WITH A MISSIONとしては、2014年にホワイト・ステージに、2016年にグリーン・ステージにそれぞれ出演しています。改めて思い出を振り返ってもらえますか?
やっぱり、2014年に初めて<フジロック>に出たときは本当に嬉しかったです。それに、2016年にグリーン・ステージに出演したときも感慨深いものがありました。<フジロック>のグリーン・ステージは、僕自身、観客として数々のアーティストを観てきた場所ですし、あの山の裾野に人が集まっている中で音楽を鳴らす風景は、色んなアーティストのライブ映像でも繰り返し観てきたものでした。あの苗場のロケーションも合わせたライブ体験は、<フジロック>が世界に引けを取らない部分だと思います。あの美しい場所でライブができたことが、当時は本当に嬉しかったです。それに、<フジロック>は自由な空間でもあって、参加する人たちが能動的に楽しめるところも魅力だと思います。自分の心ひとつで楽しみ方を自由に選べますし、それだけのラインナップとロケーションが揃っていて――。
━━そこにいる人たちが「音楽好き」として一緒くたに存在している雰囲気もありますね。
そうですね。それがいわゆる「ユニティ」という感じではなくて、「それぞれ勝手にやっている」という雰囲気のまま実現しているところがいいなぁ、と思います。その自由な雰囲気って、僕はむしろ一番ユナイトしている状態なんじゃないかな、と思うんですよ。
イツノ時代モ、音楽ハ“鳴リ続ケルモノ”
ソシテ続ケル方法ヲ考エルモノデモアル
━━昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、<フジロック>は開催を延期することとなりました。観客としてもフジを楽しんできたJean-Ken Johnnyさんだけに、<フジロック>がない夏に思うところもあったのではないでしょうか。
それはもう、残念の一言でした。ですが、疫病と人が集まって音楽を楽しむフェスカルチャーとの相性がよくない部分は確実にあって、それはコロナ禍以降、主催者側も、出る側も参加する側も色々と考えさせられているところだと思います。ただ、その中でも、音楽はもちろんカルチャーやクリエイティブなことに関わる方って、新しい潮流を生み出したり、試行錯誤したりする人種だと思うので。この状況でも楽しめる手法を自分たち自身も生み出していくべきですし、きっと生み出してくれるだろうという期待も込めて、今年は一緒に参加できることを楽しみにしています。
━━最終的には中止になってしまいましたが、昨年は<フジロック>のグリーン・ステージをセットに使う予定だったMAN WITH A MISSION主催のフェス『THE MISSION』も企画されていました。苗場を会場に選んだのは何故だったんですか?
やっぱり、フェスのロケーションとしてすごく魅力的だったからですね。純粋なロケーションとしても、<フジロック>が開催されてきた場所としても、とても栄誉のあるところだと思いますし、そこをお借りしてバンドでフェスをやるのはきっと面白いだろう、と。昨年はバンドが結成してから10周年でしたし、あの場所で、バンド単体でフェスを開くのはひとつ大きなチャレンジだと思って準備を進めていましたね。
━━また状況が変わって開催できることがあれば、ぜひ実現していただきたいです。みなさんの場合、コロナ禍以降活動していくうえで価値観などの変化を感じていますか?
コロナ禍以降、僕らに限らず多くの人の価値観が変わったと思いますけど、同時に、色んなことを改めて見つめ直すきっかけになったとも思います。僕らが勝手にとらわれて「こうあるべきだ」と思っていたことでも、実は今のテクノロジーや知恵を使えば、もっといい形にできるんじゃないか、ということを考えるきっかけにもなったといいますか。
ただ、音楽の制作自体には、そこまで大きな影響はありませんでした。もちろん、物理的にライブができなくなったので、その時間をより音楽制作に費やせるようになった、という変化はありますけど、「この状況下で気持ちが変わったか?」と言われると、そこは変わっていない。そもそも音楽って、どんなことがあっても当たり前のようにずっと昔から存在してきたはずのもので、世界がどうなっても、社会の状況がどうなっても、これまで通りに鳴り続けるのものだと思うんです。こういう状況の中でより力を発揮するものでも当然あるけれども、同時に、「そんなことに関係なく鳴っていてほしいものでもある」と思います。
━━なるほど。確かに、これまで世界で何度も疫病が流行ったり、大災害が起こったりしても、そこで途切れるわけではなく、音楽はずっと続いてきたわけですしね。
そう思うんです。もちろん、ライブが簡単にはできない状況になっていますし、今でも色々な意見を持っている方がいると思います。「疫病対策をちゃんとやれば大丈夫だ」という人もいれば、「本当にできるのか?」という意見だってあるでしょう。ただ、それ以上に、この状況下において、安全対策を取った上で、「どうやって音楽を鳴らし続けていくのか」「芸術を残していくのか」と考えることって、これまでと変わらないと思うんですよ。状況が変わったならそこに前向きに順応していくことを、改めて見つめ直す経験になりました。
安全ハ第一、デモ心マデ気負ウコトハナイ。音楽ヲ純粋ニ楽シモウ
━━今年は、国内で活動するアーティストに限定したラインナップで<フジロック ‘21>の開催が決定しました。率直な感想を教えてください!
まずは、「おかえりなさい!」という感想ですね。ライブエンターテインメントについてはまだ風当たりが強い中で、「何とかやろう」という心意気は、音楽を走らせるという意味で「とてもありがたい」とも思います。あとは、願わくばですが、参加する人も、来られる人も、主催者側も、細心の注意を払うのは前提のうえで、心までは持って行かれずに、今できることの中で心ゆくまでフェスを楽しめたらいいな、と思います。例年と比べて色々な制限があるとは思いますが、だからといって心まで気負うことはまったくないと思うので。
自分たちも、コロナ禍のせいにするんじゃなくて、この状況下の中でも「当たり前のように音楽をやっている」という気持ちで臨むつもりです。そりゃあリスクもありますし、色んなこともあると思います。ですが、今の状況でも可能な方法を探して、当たり前のように「音楽を鳴らすんだ」「音楽を楽しむんだ」という気持ちで参加してくれたら、と思います。
━━今できる方法に置き換えたうえで、「いつも通り音楽を楽しもう」、と。
はい。そう思うんです。MAN WITH A MISSIONとしても、今年出演させていただくのは、<フジロック>の歴史やコロナ禍でのフェス文化においても、とても重要な役割を担うんじゃないかと思っています。ですから、初めてグリーンに立たせていただいたときよりも、さらに解放感に溢れたものになるんじゃないかな、と思っています。ある意味当たり前のようにライブをやって、それでいてすごく決意がこもった一日にできたらいいですね。
━━6月には映画『ゴジラvsコング』の日本版主題歌としても抜擢された、新曲「INTO THE DEEP」が発売されますが、タイトル曲「INTO THE DEEP」はスケールが大きな楽曲で、フジの大会場で聴くと気持ちいいだろうな、と思いました。
この曲は、本当に広大な大地で演奏するのが似合う楽曲だと思います。ときには「フジでやったら気持ちいいだろうな」というように、フェスのことを考えながら曲をつくることもあるんです。「INTO THE DEEP」の場合は特別そういうふうにできた曲というわけではなかったんですけど、<フジロック>の会場にすごく似合う曲なんじゃないかと思います。
━━当日のライブ、楽しみにしています。最後になりましたが、今年のラインナップでJean-Ken Johnnyさんが楽しみにしているアーティストもいれば教えてください。
3日目の羊文学は観てみたいです。僕は90年代のオルタナティブ・ギター・ロックにものすごく影響を受けているんですけど、羊文学のみなさんの音楽を聴いていると、今この時代の人たちが、あの時代以上に90年代をしている感じがするんですよ。よく友達と話すんですけど、「90年代の人たちが一生懸命やろうとして到達できなかったことを、今の時代にやっている」というか。本当にかっこいいと思いますし、むしろ「悔しい」まであります(笑)。
他には、僕らと同じ日にでるドレスコーズも観たいですし、手嶌葵さんも観たいです。<フジロック>で観る手嶌さん、絶対ヤバいですよね。あとは、THA BLUE HERBも観たいですね。
世界中の音楽業界が苦悩している中で、今現在フェスを開催するということがどれだけ意味を持つかというのは、僕自身言葉を選べないですけれども、僕らだけじゃなく、音楽やエンターテインメントは、いつでも鳴り続けるべきものだと思います。大事なのは、この状況下でどう開催するか、そのためには何か必要かを考えることで。最新の注意を払ったうえで、参加するからには心ゆくまで音楽を楽しみたい、楽しんでもらいたい、と思っています。
text&interview by Jin Sugiyama