現在はカナダをベースにしているUA。
オリジナルとしては東日本大震災後、初となるアルバムがリリースされた。
カナダから見た今の日本は、どう映っているのだろうか。
苗場の森からメッセージが投げかけられる。
Interview : UA
7年ぶりのオリジナルアルバム。
『JaPo(ヤポ)』がリリースされました。現在カナダにベースを置いていますが、カナダで制作されたものなのですか。
昨年の春、日本でレコーディングしたんです。当初は昨年の秋にリリースしたいと思っていたのですが、秋に4人目の子どもを出産しまして。作詞はカナダで行いましたけど。
前作から7年という時間が流れています。アルバムが出来上がって、どんな感覚ですか。
自分でもいったいいつになるんだっていう感覚もありましたから、このときがやっと来たという思いですね。7年っていう時間は、過ぎてしまうとピンとこないというか。毎日、一生懸命生きてただけにすぎないので、そんなに経っちゃったんだねという感じではあるんだけど。このアルバム、かなり胎み期間が長かったですね。
レコーディングが終わっていても、終わった感覚って持てないものですか。
みんなに届けられない状態で止まっていると、不思議なことに生み落とした実感ってなかなか持てないのね。世に出て行ったときが、生み落とすっていう感覚なのかなって思いますね。マスタリングは今年に入ってからだったし。1年前に録ってあっても、そのときの波ってあるじゃないですか。
時代感とかね。
音って特にそうだし。私たちは流行とかあまり意識していないけれど、それでも自分たちの波って確実にある。理想を言えば、流行などにとらわれないで作りたいと思うけれど。マスタリングが終わって作品としてやっと旅立つ。今、すごく幸福感に包まれています。
JaPoに込められた未来。
7年ってどういう時間でしたか?
みんな同じだと思うんですけど、3 ・11があったので、その後しばらくはショックの状態が続いて。外に対して「変われ変われ」っていう以前に、自分がどう変われるのかって模索していた時期だったから。だから、なんとなく次に行くことがもうわかっていたのかもしれない。自分がどこに向かいたいかって気づいていたんだけど、毎日がそれに伴っていなかったっていうのかな。沖縄に住んでいる間は、オルタナティブな動きにトライしたり、発言を極力するように心がけていたけどね。アルバムに向き合うことによって、音楽に回帰したって言えるのかもしれない。音楽から離れたつもりは一回もなかったけれど、やっぱり音楽かなって。7年間、一生懸命生きながら、タンスに肥やしを溜めてきたんだよね。
『JaPo』に込められているテーマって音楽回帰ということですか。
『Golden green』のときから変わっていなくて、テーマは「祈り」なんですね。自分が歌を歌う人生を歩んでいる限り、それが必要。祈りに、新しい音とか新しい言葉をどう込めていくか。それが『JaPo』のトライだったんだよね。やっぱり良くなりたいって意識を持っているじゃないですか。悪くなりたいなんて誰も思っていない。音楽って、そういうものに近付けるエネルギー源になれると思うんですね。音楽で世界が変えられるなんてことは思っていないんだけど、音楽が世の中から無くなってしまうようでは、終わりじゃない。
確かにそう。音楽は心を豊かにしてくれるものだし。『JaPo』というタイトルはそんな意味も含んでいるのですか。
日本列島を表す「ヤポネシア」。「Ja」はアイヌ語で「陸」。「Po」は「子ども」。陸の子どもっていう意味なんです。やっぱり日本というこの場所、土地も民族も、ものすごく愛している。もうそれしかないとさえ思っている。自分のアイデンティティそのものだしね。だから、日本を冷静に見つめたかったというのもあるんだよね。ヤポネシアっていう言葉には、文化が交流する以前にはそれぞれの地域性が色濃くあって、それが美しい形で流れてきたという意味も込められていると思うんです。でも私は未来系でヤポネシアって呼びたいと思っている。資本主義とかグローバリズムを壊していくものっていうのかな。
『JaPo』は音楽に戻った証であり、日本をもう一度確認したアルバムだと。
そして愛を込めたアルバム。多くの音楽家は「愛」について書いてきたと思うんだけど、自分もやっとそんな大きなテーマに堂々と取り組めたと思っていて。
音もポリフォニーをモチーフにしているからなのか、すごく優しく響いてきます。
ピグミー族などのポリフォニーをやっているCDが、すごく好きなんですよ。家でもよく聴いています。音作りに関しては、ポリフォニーやポリリズムがテーマになっていますね。
マスタリングしたものをあらめて聴いてみて、どんな印象ですか。
私ができる限りのことはやったと思っています。このアルバムによって次に繋がるし。音楽を奏でられる場所で次に行きたい場所があったんですね。それにより近付けるアルバムを作れたと思っています。
次に行きたい場所というのは?
具体的な場所ではなく、スピリチュアル的にということなのかな。
音楽を感じる場所。
UAさんは、苗場の1年目の99年にもフジロックに出演しています。
今年、久しぶりにBOREDOMSも出るんですよね。99年はBOREDOMSの後でしたから。フジロックに関しては、思い出がいっぱい駆け巡ります。
フジロックで体験したことも大きかったということですか。
フジロックで育てられたと言っても過言ではないと思っています。99年のフィールドオブヘブンの体験は本当に大きいですよ。ひとつの意識が開いたっていうか、「あ、音楽ってそうだよな」って。PHISHのショーでそれを感じたんです。音楽って、音を楽しむって書くんだよなってことをあらためて認識させてくれた時間だったんですよね。日本の人たちのライブの接し方って、他が見えなくなったり聞こえなくなったりしている場合が多いじゃないですか。音楽の楽が学問の学になっている。PHISHのショーって見ることよりも感じることが大切だっていうか。みんなが自由にやっていたし。私はメジャーのど真ん中にいる時代だったから、あの体験がなかったら、その後の音楽は変わっていたかもしれないですね。
5月にアルバムがリリースされ、いくつかフェスに出演し、自分のツアーがある。そしてその後にフジロックという流れです。
フジロックに向かっていくような流れですよね。楽しみにしておいてねって感じですよ。私も楽しみ。バンドが熟していない段階でフジロックに行くのは、私も嫌だもん。
Text by Sakana Sorano
Photo by Daisuke Hayashi
★「Festival Echo ’16 フェス・エコ」はは岩盤、タワーレコード渋谷店、HMV、BEAMS、Jeep販売店、OSHMAN’S、CHUMSなどの各店舗で手に入ります。
(※一部店舗を除く)
UA
1995年6月デビュー。デビュー当時から、その個性的なルックスと存在感のある歌声で注目を集
め、「情熱」「ミルクティー」「悲しみジョニー」などのヒット曲を持つ。1999年、グリーンステー
ジに初の日本人女性アーティストとして出演を果たした。2005年から都会を離れ、田舎で農的な
暮らしを実践しつつ、環境問題や平和を願う活動にも力を注いでいる。今年5月、オリジナルア
ルバムとしては7年ぶりになるアルバム『JaPo』をリリース。6月18日には、日比谷野音で単独
公演も予定されている。
http://www.uauaua.jp