各界のキーパーソンたちに<フジロック>の魅力を語り尽くしてもらうこの企画。第2回目の映像作家・関和亮氏に続いて登場するのは、作家・脚本家・映画監督・CMプランナーなど多くの肩書きを持つ、大宮エリーさん!
映像から執筆、ときにはステージ上でバイオリンを弾き、『スナックエリー』(大宮エリーがママとしてゲストを迎えて、お酒を飲みながらだらだらトークする番組)で酒をもてなすエリーさんは、昨年<フジロック>に初参加したのだとか。著書『生きるコント』で明かしてきた、なぜかすべてがコントになってしまう人生のように、一筋縄ではいかなかったはじめてのフジロック。思わず「うそでしょう?」と笑ってしまう、夏の苗場の思い出を前後編にわたってお届けしよう。
Interview:大宮エリー(前編)
━━エリーさんは昨年はじめて<フジロック>に行ったんですよね。
そうなんです。もともと自発的ではないんで、誘われたら行くっていうタイプで。他のフェスにはバイオリンの演奏やトークショーとかの出演者として参加させてもらっていますけど、それ以外に、中村達也さんとか出演者の友達が招待してくれるときは大体一人で行くんで、迷子になったりするんです。ミュージシャンの事務所スタッフの方が「こっちだよー」って迎えに来てくれたりする、すごく迷惑なやつなんですよ(笑)。
━━どんなことから<フジロック>に行くことを決めたんでしょうか?
『生きるコント』にも書いていますけど、私の最初のマネージャーさんは<フジロック>が大好きなんですよ。ある日、「ここからここまで休ませてもらえますか?」って言うから「なんで?」って聞くと、「<フジロック>なんですよ」って答えてくれたことがあって。「そうか、<フジロック>はまず休みを確保するんだな」って、そこから<フジロック>が気になっていたんです。去年はROVOの勝井さん(勝井祐二)が「<フジロック>に出るから来れば?」って誘ってくれて、「ROVOの野音ライブにも行けなかったから、<フジロック>に行っちゃえー!」って。
━━はじめての<フジロック>を振り返ってもらえますか?
まず、電車に乗ってどうやって<フジロック>に行くんだろうっていうところから始まりましたね。ミュージシャンの友達とかに、「とりあえず渋谷からどうやって行くの?」って聞いたりして(笑)。越後湯沢の駅に着いたらシャトルバスが出ていることを教えてもらったけど、「すごく並んでいるからエリーちゃんはタクシーに乗ったほうが早いよ!」っていうアドバイスに従って。会場に着いたら友達に迎えに来てもらってたのかな。
━━会場ではどんな具合に過ごしたんですか?
たまたま、すぐに友達と合流できたんですよね。私は方向音痴だから、「あのステージってどうやっていくの?」って聞いたりして、ラジオ番組を担当させてもらっているJ−WAVEの人たちが来ていたから、「◯◯観にいくから一緒に行きます?」って言われたら、「行く行く!」って付いていく感じでした。みんながアウトドア用のチェアに座って、森の中で酒を飲みながら音楽を聞いているのを見て、「こりゃあ楽しいわけだ!」ってようやく分かりました(笑)。
━━たしか、土曜1日だけの参加でしたよね。
うん、たしか土曜日に行ったんじゃないかな。小山田さん(小山田圭吾、CORNERIUS)、津田大介さん、ROVOの芳垣さん(芳垣安洋)とか、ごそっと会えましたね。最後はすごく遠くのエリアまで勝井さんのステージを観に行って。
━━深夜のピラミットガーデンですね。
そうそう。すごく辺鄙なところだけど雰囲気いいですよね。キャンドルがいっぱい灯されていて。どこも結構好きでした。
━━それぞれのステージにはっきりと色がありますからね。
なんだか旅をしているような感じなんですよ。地図も持ってなかったから、自分がまったくどこにいるのか分からなくて。海外を一人旅しているような緊張感がありましたね。それなのに、私はほとんど手ぶらで宿も取らないで行ったんですよ。
━━そうなんですよね、エリーさんは宿を取らないで苗場に乗り込んだっていう。どうして宿を押さえなかったんですか?
宿を取るのが好きじゃないんですよ。宿を決めたらつまんないし、宿に拘束されたくないみたいな気持ちがありますね、自由でいたい。昔、マキシマム ザ ホルモンのナヲちゃんが「来なよ」っていうから、とあるフェスに行ったんです。そのときも宿を決めていなかったら、スカパラとかドラゴンアッシュとかホルモンのみんなが私の宿をどうするか考えてくれて。本当にみんな優しい。ごめん!! ホルモンチームの宿が空いててそこをキープして、安心して、結局、ミュージシャンのみんなとベロベロに酔うまで飲み明かしました(笑)!
━━<フジロック>のときはTwitterでちょっとした話題になっていましたね。
Twitterに「宿がなくて困っている」って呟いたら、「え? 一人で初参戦なのに宿無しで来てるの? あんたがロックだわ!」みたいにいろんな人たちに書かれて。初めてこわくなりました(笑)。「またまた〜。宿取れるでしょ?」って思っていたら本当に取れなかったんですよね…。最初はビジネスホテルみたいなところに行ったけど、朝の4〜5時だったから泊まれなかったんです。それで徘徊していたら、近くに一軒空いていて、事情を話したら泊めてくれました。なんか応接間みたいな不思議な部屋でした。1時間くらい仮眠して帰りましたね。
━━ちなみに、苗場自体は初めてだったんですか?
会社員時代に「苗場の夏を盛り上げる」っていう仕事で行ったことがあるんですよ。苗場の山をマウンテンバイクで降りてくるっていう企画で、女の子もできるかどうかを試したいっていうから、私が実験台になったんです。「ひゃー、これ無理っす!」って叫びながらコケましたね(笑)。あとはスキーで行ったくらいかな。
━━じゃあ、はじめての<フジロック>でまた足を運んだ苗場は特別な体験になりましたか?
そうですね。<フジロック>はどのフェスとも違うというか、フェスじゃないというか。海外旅行に結構行くんですけど、向こうでも野外音楽祭みたいのがあるじゃないですか。オーケストラのフィルハーモニーも思い思いに座って聴いている、なんかああいう雰囲気に近い感じがしましたね。“来て帰る”じゃなくて、“そこに滞在して思い思いに過ごす”っていう感じが海外っぽかったな。
━━日本にいるっていう感じがしなかった。
うん、海外の人が多いとかじゃなくて、会場に区切りがある感じがしないっていうか。そもそも会場っていう感じもしなかった。この会場、こういうステージ、こんなアーティストがやっているっていうタイムテーブルも見ている感じがしなくて。一体の山や森に人が集まっている感じから、原始時代には、ああいう村があって、火を焚いて音楽を演奏したり、ご飯を食べたり、こうだったのかなぁって思いました。人と自然がすごく共存共生している感じがして、人工的な感じがしなかったですね。企画めいた感じもなくて、すべてが偶然で必然で、すごく面白かった。
━━印象に残っているライブはありますか?
夜9時辺りに、一番広いステージで観たどこかの海外バンドがすごく良くて。名前を聞いたけど忘れちゃった。
━━アーケード・ファイアかも。大所帯のバンドで紙吹雪が舞っていませんでしたか?
どうだったかなぁ。近くでワインの計り売りをやってましたよ。そこでペットボトルにワインをドボドボ注いでもらったんですよ、グラスだと取りに行くのが面倒くさいから。そこの近くに小さい小屋みたいなステージがありませんでした?
━━たぶん苗場食堂かな。
あそこいいですね。ジプシーみたいな変なバンドが出ていて面白かった。「私も出たい!」って言ってましたもん。バイオリンとか朗読とかスナックエリーとかできるから(笑)。
━━たしかに(笑)。個人的には、その全部やってほしいです。
まじっすか!やりたいよー!誰かー!以前、ライブハウススタッフの友人がよく、無茶振りの面白い企画を考えてくれたんですよ。スピッツの草野マサムネさんと二人で、私がバイオリンで一緒に“ロビンソン”を演奏するとか、“大都会”をカバーするとか。「大宮エリーの挑戦」っていうタイトルで、七尾旅人くんとか原田郁子ちゃんと曲を作ったりもしましたね。わたしは言葉を考えただけだけど。そんなことがあったから、知り合いがが「エリーちゃん、ここでやればええねん」って言ってくれて。「お前、そんな権限ないだろ」って思いましたけど、「ここいいよねー」って盛り上がったっていう(笑)。勝手に“エア視察”。
━━何の違和感もなく、ステージ上にいるエリーさんの姿をイメージできますね(笑)。エリーさんにとって、<フジロック>が特別なフェスになってよかったです。
今年のスケジュールに「フジロック」ってもう入れてあるの。今年は3日間行ってみようかなって。<フジロック>は回を重ねるごとに楽しみ方が変わってくるんだろうなって思います。なかなか使いこなせない道具に巡り合ってしまったみたい感じですね。
━━どうにでも過ごせてしまうっていう意味ですか?
そうそう! 意外と私、団体行動が苦手なの。だから、「みんなでテントに入ったりして、私大丈夫かな…」みたいに結構ビビリなところがあるんです。でも、去年<フジロック>に行ったら、こういう感じなら大丈夫かなって思えてきて、今年は3日の1日くらいはテントに泊めてもらったりもいいかなって。
━━「行く!」って宣言しておけば、宿は確保できるかもしれませんね。
昔会社員のときに<カンヌ映画祭>に出張で行ったことがあって。そのときも宿を取らなかったんです。パーティーがあって、そこでみんなに「宿ないんだよね」って言ったら、朝まで遊ぶっていう人がホテルのカードキーを借してくれて。「広いなー、この部屋」って思いながら、その人の化粧水とかパジャマとかを使って寝てました。次の朝にその人が帰ってきて、「おかえりー。じゃあ私、出ていくねー」みたいなやりとりをして、また次の宿を探すみたいな(笑)。「居ていいよ」とか言われたりすると、カンヌも意外とタダで行けるんだなって。だから、<フジロック>も宿はなんとかなるでしょ。
━━そうですね。エリーさんなら、なんとかしてしまうと思います(笑)。
interview&text by Shota Kato(CONTRAST)
photo by Chika Takami
インタビュー後編はこちら!この後、エリーさんから思わぬ提案が…!
大宮エリー(ellie omiya)
作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー
1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て、2006年に独立。映画『海でのはなし。』で映画監督デビュー。主な著書に、『生きるコント』『生きるコント2』(文春文庫)、『思いを伝えるということ展のすべて』(FOIL出版) 、『思いを伝えるということ』(文藝春秋)、 絵本『グミとさちこさん』(講談社)。2008年、舞台の作演出として『GOD DOCTOR』(新国立劇場)、2009年に『SINGER 5』(紀伊国屋ホール)を発表。また、2007年よりテレビドラマの脚本、演出も手がけている。『木下部長とボク』『ROOM OF KING』『the波乗りレストラン』『デカ黒川鈴木』(脚本のみ)『三毛猫ホームズの推理』(脚本のみ)『おじいさん先生』(演出のみ)『サラリーマンNEO』(脚本参加)。2012年より来場者が参加する体験型個展を数々発表。<「思いを伝えるということ」展>(渋谷PARCO MUSEUM、札幌PARCO、京都FOIL GALLERY、せんだいメディアテーク)、2013年より<A House of Love>(表参道EYE OF GYRE) 、<「生きているということ」展>(渋谷PARCO MUSEUM)、<大宮エリー展>(東京gggギャラリー、大阪dddギャラリー)、<愛の儀式>(中之島デザインミュージアム)、<星空からのメッセージ展>(コニカミノルタプラザ)。2013年秋、東京スカイツリー、池袋サンシャインシティーにてプラネタリウムの演出も行う。現在、週刊誌「サンデー毎日」、雑誌「DRESS」にて連載を担当。J−WAVEにてパーソナリティーとしても活躍中。
INFORMATION
大宮エリー「emotional journey」
ー大宮エリー、初の大絵画展ー
2015.02.03(火)- 02.15(日)@代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラム
OPEN 11:00/CLOSE 21:00(入館は20:30まで)
※2月13日(金)は下記イベントのため、入館は19:30まで、閉館は20:00となります
会期中無休
入場料:¥300
大宮エリー「emotional journey」