各界のキーパーソンたちに<フジロック>の魅力を語り尽くしてもらうこの企画。今回は第3回目に登場してくれた、大宮エリーさんのはじめての<フジロック>エピソード後編をお届けします。

初の<フジロック>に単独で乗り込んだエリーさん。会場では友人・知人と続々と再会し、大好きなお酒を楽しみながら、音楽とロケーションを楽しんだ。人と自然が共生共存している雰囲気を気に入って、いつか私が何かの間違えで出るとしたら、とAir参加ごっこをして盛り上がるが、実は宿を押さえないまま苗場まで来てしまった。無謀にも宿無しでの<フジロック>参加となったが、宿無しでカンヌまで行ったエリーさんにとってはどうやら当たり前のことのよう。「宿に拘束されたくない」と語るエリーさん。参加者ひとりひとりにはそれぞれの考え方、<フジロック>の過ごし方があるのだ。

インタビューの後編では、エリーさんから<フジロック>に、ある提案が飛び出した。実現するかどうかはさておいて、エリーさんにとっての<フジロック>が語られるインタビュー後半をお楽しみ下さい。

前編はこちら

Interview:大宮エリー(後編)

━━インタビューの前編では、宿無しで<フジロック>に初参加したエリーさんのエピソードを中心に語ってもらいました。

女の子一人でもまったく大丈夫だと思いますよ。あ、でも防寒とか雨具とか、軽食とか、そういうのは、きちんとしていったほうがいいだろうし、宿が必要な人はきちんと宿を予約したほうがいいと思うけれど、でも、なんだろう、女ひとりじゃ無理よねっていうのも、もったいないですよね。<フジロック>って、行き慣れている人が行くみたいなところがありますよね。「はじめてだけど一人で行く」って言ったら、みんなびっくりはしてました。つまり、驚くっていうことは、「<フジロック>は一人で行くところじゃない」って思っている人が多いってことなんでしょうね。ま、普通そうなのかな? ちゃんと対策を練って、用意周到に準備して行くというか。でもでも、寒いって聞いたから一応防寒具を持っていったぐらいで、みんな登山に行くみたいな格好だったけども‥。

━━どんな格好だったんですか?

今日着てきたダウンとTシャツに吊りズボンみたいな。このまま仕事行けるぞっていう。ナップザックに雨具とダウンはいれたけど。

━━日焼け対策も一応?

途中で買ったかな。どっかの駅のキオスクとかで。大体そうですよ、途中で買う。この前も思いつきで筑波山に登って、なんとなく筑波のコンビニに手袋が置いてあるだろうって思ったら売ってたし。あの<フジロック>の日はずっと暑かったって、みんな言ってましたね。本当は雨とか降ったら大変らしいけど、過ごしやすくてよかったって。それとなんか怖いイメージがあったんですけど、平和で安全でした。意外とちゃんとしているっていうか。お客さんたちが品のいい感じで、危ないことは何もなかった。唯一、私の方向音痴くらいがネックでしたけどね。一人で行って、知り合いがいない人はどうしたらいいんだろう。

━━夏の苗場には、友達ができるような雰囲気もあると思いますよ。

たしかに。困ったら、お店の人とかに聞けば教えてくれるよね。案内の人もいっぱい立っているから、スタッフの人に聞けばいいだろうし。でも、私は一人で行くのがいいな。みんなでいると楽しいけど、なんか感動が薄まるじゃないですか。

━━あぁ、一人の方がもっとダイレクトな体験として体に入ってくるかもしれませんね。

そうそう。たしかに一人は寂しいけど、その旅感がいいと思う。たとえば、アーティストの名前が分からないけど、家に帰ったら調べようとか。友達に聞いちゃうとそこで終わるけど、メモして帰るくらいがいいかも。海外旅行に行くとお金がかかるし大変だから、<フジロック>に行くのがいいんじゃないかなぁと思いました。

━━エリーさんはできれば人に合わせたくないんですね。

そうですね。誰かが「お腹空いた」って言ったからご飯を食べて、「あー、あのライブ見たかったのになぁ」ってがっかりすることってあるじゃないですか。私はおにぎりとかをパッと買って食べながらライブを観るとかでいいときもあるんですよね。飲みたいときにお酒を飲めれば‥‥。連れがいると、会場で会った人となかなか喋れないでしょ。連れがいないと、誰かに自由に付いたり離れたりできるじゃないですか。ロードムービー的な一期一会な感じがいいですね。ま、連れがいない負け惜しみかな?笑

━━ぜひ、エリーさんには3日間行って体験してもらいたいです。できれば木曜には前夜祭がありますし、前夜祭は地元の人たちをお招きしていて、そういうところからひとつの地域感とか村っぽさが出ているのかもしれません。

大阪城ホールでビョークを観に行ったとき、ステージが焚き火みたいになっていて、土着的な感じのするステージングだったんです。そのときに、古の時代のアイスランドでは、ああやって祈りを捧げるように歌ってたのかなって思えたら、すごく涙が出てきて。あの感じに近いっていうか。ドイツに行ったときも、シュヴァルツヴァルトに森があるんですけど、小さな村の人たちがそこで音楽祭をやっていて、町の教会の前とかもステージだった。ああいう感じにも近いような感じがしました。地元の人とやっているという意味では、フェスって感じより地元のお祭りのような感じがしたんです、<フジロック>。地元感でいえば、瀬戸内国際芸術祭だと直島のおばちゃんがアーティストの展示の受付で、「なんかよくわかんないけど、偉いアーティストさんらしいよぉ、頑張って作ってたよぉ」とか言いながら、チケットを切っていたりして。そういうシーンがほっこりして、大好きです。

resize_sub-2 大宮エリーインタビュー後編「フジロックのガイド役が欲しい」

━━<フジロック>が苗場に移ったときは、海外からも沢山お客さんがやってくるということで、地域の方が心配されていたそうなんです。今ではそういうことも乗り越えて、町をあげて開催しているというのも他のフェスとの違いなのかもしれないです。

そうなんですねぇ、いいですね! そういうところに興味あります。その土地の人に興味があるっていうか。個展をいろんなところでやらせていただいていますけど、「こういう展示をやろう」と考えて現地に行くことはなくて、まず場所を見てから考えているんです。この展示会場に赤い火山の絵があるんですね。それは大阪の展示会場の前に流れている川がけしてきれいではなく、たしか淀川だったかな。でも、遠くから見たら、ガンジス川のような聖なる川に見えたんです。それで儀式の個展にしようかなって思った。愛の儀式。その街の人に、「きったない川なんですよ」って言われたけど、イメージが変わるといいなぁと。

━━なるほど。第三者の視点はイメージを変えるきっかけになりますよね。

<フジロック>は特別だから、素人は入ってはいけないんじゃないか、っていう不安感が確かにあったんです。ライブに誘ってもらっても楽屋に行くのも苦手で。恥ずかしながら、人見知りなところがあって、緊張しちゃうんです。どんな佇まいでいけばいいのかなとか考えちゃって疲れるというか。前夜祭かぁ‥‥行ってみたいって思うけれど、行っていいのかなってやっぱ思ってしまいますね。どの辺でどんな顔して、どんな雰囲気で立ってたら邪魔じゃないかな、とか、気配けしてたほうがいいのかなって。そんで色々悩むのがしんどくて、結果、すごく飲んじゃう(笑)。

━━それを乗り越えてしまえば、きっといろんなものが見えてくると思います。

そうそう。最初だけ臆病になっちゃうのは旅も同じなんです。一度その街に入ってしまえたら、そこからいろんなことが始まる。誰かがガイドになれば、また次の人がガイドになって広がっていくから。自分なりの食し方で、<フジロック>にがっつり分け入ってみて、ちょっとしか分からなかったでもいいし。一気に全部味わうというよりは、なぜか前夜祭だけ行ったとかでも面白いかもしれないし。ずっとお酒だけ飲んでいたでもいいですしね。

━━そうですね、次に来るためのきっかけになるかもしれない。

<フジロック>のガイドブック的なものっていないんですか? もしくはガイドさん。ツアーとか。

━━会場を案内するガイドはいないと思いますよ。

『地球の歩き方』みたいなものを絶対やってほしい! 私、一人旅するときは『地球の歩き方』を持っていきますもん。すごく細かいところまで読み込んでます。以前、イギリスを旅したとき、ランズ・エンドっていう絶壁の岬があって、その中腹にある遺跡で演劇をやるって『地球の歩き方』に書いてあったから観に行ったんです。そしたら、役者が足を踏み外すと海に落ちちゃうような結構やばいところでした。でも、自然の照明で暗くなって、最後は月明かりの中で演劇をやるっていうシチュエーションで、すごく感銘をうけました。美しかったです。自然との調和で、物語が進行していくのが。途中で雨が降ったりすると、イギリス人は雨に慣れているからパッとレインコートを羽織ったりしていて、私だけずぶ濡れみたいな(笑)。でも、あの自然と一体化する感じは、<フジロック>に近かったですね。

━━ガイドブックがあったからこそ出会えたアートなんですね。

だから、<フジロック>に一人で行く人用の持ち歩きのガイドブックがあったらいいのに。5年目のかたへ、とか。疲れているあなたにこんな回り方、とか。グルメ中心の楽しみ方、とか。そのひとの状態とか心境とかに合わせて、いろんな楽しみ方が書いてあるような。私は初心者編を楽しみます! あと、『達人と歩くフジロック』なんて企画があったら参加したい! 俺流の楽しみ方ってあるじゃないですか。初回から行ってるぜ、みたいな達人に、ぜひ、教えてもらいたいなぁ。

━━<フジロック>は達人になるほど、ひとつの場所から動かないらしいですよ。遠くで飲んで、誰がステージに出ていようが動かないっていう。達人は一番気持ちのいいところを知っているみたいで。

それいいですね! やっぱり達人と行かないとですね。結構困っている人は少なくないと思いますよ。3日間いなくても1日でも十分楽しめる気がしましたし、そんなスタイルも色々知りたいですよね、ショートコース。別に日帰りでもいいじゃんって思えたら、気軽に来れるような。来ないより、少しでも来れた方がよかったなって思いましたもの。こうじゃなきゃいけないっていう固定概念を持っているのはもったいないと自分は思うんです。ぜひ『ちい散歩』ならぬ『フジロック散歩』的なものを作ってください。それをみながら、参考にするもよし、俺のほうがやっぱ、すごい、とか、楽しい、とか批判的にみるもよし。私は参考にしたいんだけども‥‥。

━━エリーさんのインタビューがきっかけで、企画が生まれちゃいそうですね(笑)。

でも私、本当に<フジロック>のこと、何にもわかってないですよ。でもわかりたいなぁって思ってたりしてます。はい。

━━そういえば、ROVO以外に去年出たアーティストの名前が出てこなかった(笑)。

そ、そうなんですよね、いろいろ見て感動したのに、なんか、ワインと一緒で、って一緒にするな、なんですが、うまい!でも、名前覚えない!的な。そういうところからも、今年はちゃんと3日間行きたいなって思う(笑)。今年は苗場で<フジロック>の達人と会いたいなぁ。達人たちと会場を歩いて、「なんでこうなんですか? なるほどぉ」「え、そう攻めますかー! ほほぅ」「いやぁ、きついっすね! ハードっす!」なんて言いながら楽しみたい、と、今、ぼんやり思っています。

text&interview by interview&text by Shota Kato(CONTRAST)
photo by Chika Takami

大宮エリー(ellie omiya)

resize_main_2-m4sqqpcepgj7mzuxzuxy6a7ojv9z5s5pdzuej31gg8 大宮エリーインタビュー後編「フジロックのガイド役が欲しい」

作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー
1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て、2006年に独立。映画『海でのはなし。』で映画監督デビュー。主な著書に、『生きるコント』『生きるコント2』(文春文庫)、『思いを伝えるということ展のすべて』(FOIL出版) 、『思いを伝えるということ』(文藝春秋)、 絵本『グミとさちこさん』(講談社)。2008年、舞台の作演出として『GOD DOCTOR』(新国立劇場)、2009年に『SINGER 5』(紀伊国屋ホール)を発表。また、2007年よりテレビドラマの脚本、演出も手がけている。『木下部長とボク』『ROOM OF KING』『the波乗りレストラン』『デカ黒川鈴木』(脚本のみ)『三毛猫ホームズの推理』(脚本のみ)『おじいさん先生』(演出のみ)『サラリーマンNEO』(脚本参加)。2012年より来場者が参加する体験型個展を数々発表。<「思いを伝えるということ」展>(渋谷PARCO MUSEUM、札幌PARCO、京都FOIL GALLERY、せんだいメディアテーク)、2013年より<A House of Love>(表参道EYE OF GYRE) 、<「生きているということ」展>(渋谷PARCO MUSEUM)、<大宮エリー展>(東京gggギャラリー、大阪dddギャラリー)、<愛の儀式>(中之島デザインミュージアム)、<星空からのメッセージ展>(コニカミノルタプラザ)。2013年秋、東京スカイツリー、池袋サンシャインシティーにてプラネタリウムの演出も行う。現在、週刊誌「サンデー毎日」、雑誌「DRESS」にて連載を担当。J−WAVEにてパーソナリティーとしても活躍中。