毎回さまざまなゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力・思い出・体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回はザ・ルースターズをはじめロックンロール・ジプシーズ、JUDE、苗場音楽突撃隊、ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAのメンバーとして<フジロック>のステージに登場する傍ら、SMASHのロンドンチームの一員として会場作りも行なっている日本屈指のドラマー、池畑潤二に登場してもらった。

もともとSMASH代表・日高正博氏が<フジロック>を立ち上げる以前、日本各地をキャンプして開催地を探していたことは知られる話だが、そのキャンプのメンツの中に池畑もいた。まさに<フジロック>の歴史を深く知る人物である。彼がバンマスを務めるセッションステージは、今年は「忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER」と題し多数のゲスト陣を迎えて3日目のグリーン・ステージでロックンロール・ショーを展開する。多彩な形態で出演記録を誇るミスター・フジロック=忌野清志郎と、ミュージシャンとしてもスタッフとしてもこのフェスを愛するもう一人のミスター・フジロック=池畑潤二。この二人のふとした共演譚から<フジロック>との関わり、今年のステージについて、RCサクセションのことなど、彼ならではのエピソードを踏まえてたっぷりと話を訊いた。

Interview:池畑潤二

音楽にスタッフに「何かをしたい」から始まったフジロックとの関わり

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――<フジロック>が誕生する以前から<フジロック>と深い関わりをもつ池畑さんですが、ミュージシャンとして、また、スタッフとして、とくに思い出深いことがあればそれぞれお聞かせいただけますか?

ルースターズは日高さんがプロデューサーであったこともあるんですけど、その関係もあって同じ方向を向いていたと思うんです。一緒にいれば当然、ここ(フジロック)に辿り着くというところにいた。ルースターズも結局はフジで再結成も終わりもやることができたし。でもそういうこととは別に、音楽面だけじゃなくてもっと関わりたいと思うようになっていったんですよね。具体的には2007年から「自分も何かやれないかな?」って。そうしたら「じゃあロンドンチームに行ってくれ」と。ロンドンチームのジェイソン(SMASHのUK代表)は昔から知っていたし、ゴードン(ゴンちゃんストーンを生んだアーティスト)も昔から知っていたし。しばらく会っていない時期もあったんですけど、自分でやることを探しながらやり始めていったらみんなとうまく噛み合って。

――ボードウォークの活動(フジロック の森プロジェクト)に参加されているのも、自分で何かやることを探す中でのことですか?

そうです。行っているうちに苗場の人たちとも仲良くなるし、ご飯をご馳走になったりお酒をご馳走になったり。橋を作ったりしているメンバーにSMASHの小川大八(ルースターズの元マネージャー)もいて、僕が「大八! あれはどうなってんだ」とか言っていると、工事の方たちが「小川さんに偉そうに言っているのは誰だ」みたいな話になってるって(笑)。最初は「なんで(池畑さんが)来てんの?」って感じだったけど、そのうち行くことが自然になっていきました。

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――何かしないではいられない魅力が<フジロック>にはある、ということですね。

みんな毎日、新しいことをどんどんやっているんですね。苗場の会場って行くと何もないんですよ。その何もないところにステージが出来上がり、ゴンちゃんストーンや色々な装飾が出来ていく。そこに音楽も重なって。それを見ていて何か自分にもできることないか?って思ったんですね。自分の中でもタイミングが良かったのか、音楽もスタッフも両方できているので幸せだなと思います。

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――2002年、苗場食堂にあった小さなスペースで池畑さんと清志郎さんが一緒に演奏したことがあると伺いましたが、どんな経緯だったのでしょうか?

その年、清志郎さんは矢野顕子さんとのステージで来ていて、僕はJUDEで行っていたんです。それで苗場食堂でみんなでワイワイ飲んでいたら日高さんが「清志郎くん何かやらないか」って。何をやるんだろうと思っていたら「池畑、お前も何かやれ」とジャンベか何かを持ってきた。それで清志郎さんが声を出し始めたらワーッと人が集まってきたんですよ。日高さんのいつもの調子で「何かやんない?」っていうところから始まったんですね。優しい言葉で無理なことばっかり言うから(笑)。

――その時は何の曲を演ったんですか?

それがねぇ……。ギャズ・メイオール(ザ・トロージャンズ)もいて「りんご追分」を演ったのは覚えてるんですよ。でもあとはもう夢のような感覚というか。夢って、起きたら忘れていくじゃないですか。それと同じで、何か演ったのは覚えてるんだけど、思い出そうとするとどんどん忘れちゃう。でもギャズが「りんご追分」を一生懸命演っていたのは覚えてる。そのうち仲野茂(アナーキー)も来て盛り上がって。

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Photo by Tsuyoshi Ikegami

――そのステージがきっかけで、苗場食堂のステージが生まれたんですよね?

多分はじめからそういう意識があったんじゃないかな。それを試したというか。日高さん、昔からそうだからね。だって、そば食いに行こうっていきなり信州まで行くんだよ。それも何かの下見というか、何かを探してたんだよね。

――そこで生まれた苗場食堂のステージでは、池畑さんがバンマスとなって“苗場音楽突撃隊”が生まれました。

突撃隊は2012年からなんだよね。2007年からスタッフをやりだして5年ぐらい経って、日高さんからまた「やるのか、やらないのか?」「やります」と。その翌年2013年に「ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA」が始まった。全部繋がってるんですよね。

――なるほど。でも、2002年の名もなきステージで共演していた清志郎さんのトリビュートステージを池畑さんが取り仕切るというのは不思議な縁ですね。

そうですね。ここでちょうどひと回りという気がします。

ひとり一人、一曲ずつに込められたリスペクトのステージ

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――もともとはどういうところから今回の企画が立ち上がったのでしょうか?

最初は「清志郎くんがオリンピックに帰ってくるぞ、オリンピックを見に来るぞ」というテーマで、企画自体は一昨年にはもう始まっていたんですよ。こういうのをやるぞ、と。日高さんとはだいたいいつも、楽曲を決めるところから話をするんです。普段話している中で「お、これはいけるぞ。あれがいけるぞ」というのが出てくるんですね。好きな音楽の話をしたり、清志郎さんはこんな人だったという話をしたり、一緒にギターを弾いたりしながら最後は「じゃああとは頼むな」という流れで終わるんです(笑)。

もちろんその間に色んな話もするけどそれはメモを取っておいて。で、今年は2年越しということもあり、自分で書き留めていたものとあわせて「こんなことを言ってたな」って楽曲と照らし合わせてみると、(日高さんは)こういうのがやりたいんだなっていうのがわかるんです。

――今年の「忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER with ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA feat. 仲井戸“CHABO”麗市」には、これまでも一緒にプレイしてきた面々も多数登場しますね。

一番最初にROUTE 17のゲストボーカルに思い浮かんだのは、トータス松本なんですよ。要するにリズム&ブルース系の曲で<フジロック>のオープニングをウワッと勢いよくやりたいなという思いがあったので。ヒロトにしてもチバにしても、バンドじゃなくてこういう形だったら色んな人と演ることが可能だから、それが自分の楽しみにもなってる。そこは日高さんの思惑にもあったのかな。トーキョー・タナカ/ジャンケン・ジョニー(MAN WITH A MISSION)はロンドンのフェスに出た時のライブを偶然見ていて、彼らにROUTE 17に出てもらったら面白いんじゃないかなと思って声をかけたんですね。

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Member:with ROUTE 17 Rock”n”Roll ORCHESTRA feat. 仲井戸”CHABO”麗市
GUEST:UA / エセタイマーズ / 奥田民生 / GLIM SPANKY / 甲本ヒロト / チバユウスケ / Char / トーキョー・タナカ/ジャンケン・ジョニー / トータス松本 / YONCE

――そうなんですね。

あとROUTE 17に関しては、年間を通して自分が一緒にやっているミュージシャンたちとも演りたいなと思っていて。2015年に出てもらいましたけど、ここで吉川晃司が歌ったら面白いな、とか。そういうことを常に考えるようになりました。

――メンツによって色々な可能性が生まれますもんね。ところで、清志郎さんのたくさんの曲の中から、演奏楽曲はどのようにして決めているんですか?

まず、ROUTE 17のステージには最初からずっとCHABOさんに出てもらっているんです。RCサクセションが活動していた当時、僕からするとその頃はルースターズがあって、憧れというよりはライバル的な存在だったので、バンド的には一緒にやることはまずなかった。敵対、じゃないけどライバル的な意識だった。だからこそ、ROUTE 17みたいなステージを演れるのであればぜひ一緒にお願いしたいと、CHABOさんには最初から入ってもらったんです。苗場食堂にもゲストで出てもらったり。

――それは池畑さんから声をかけたんですか?

そうです。ただ、バンドをやっていて思うのは“時代時代”があるじゃないですか。その中で清志郎さんがソロになって演った曲とRCの曲は分けなきゃいけないと思ったんです。だから清志郎さんのソロの曲をCHABOさんに演ってもらうことはない。RCとしてCHABOさんが演ったものに参加してもらう。で、自分が歌ってほしい曲を闇雲に言うのではなく、その人が聴いてきたものとかもなるべく調べられるだけは調べて、その上で曲を決めるようになってきましたね。そこは時間をかけて決めています。昔はね、同世代とかちょっと下の世代には「これ歌えるだろ」って強引に言ったこともあるけど、今はそんなこともなく。

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――演奏楽曲について、ゲストの皆さんの反応はいかがですか?

そのミュージシャンの曲も聴いた上で選んでいるので、「え? その曲ですか?」と驚かれるようなことはないですね。例えばチバの方から希望を出してきた曲もあったんだけど、僕なりに「この曲はどう?」ってぶつけると「あ、いいかも!」っていう感じにノってきてくれて。YONCEにもこんな曲がいいんじゃないかなっていうのを提案しつつも、彼はいまバンドが一時活動休止していることもあるから、歌いたい曲を歌った方がいいんじゃないかなとも思ったり。

――ひとり一人にすごい熱量で曲を決めてステージを作っているんですね。

ある程度把握して自分で流れを作っていかないと、はいこの曲演りました、この曲演りましたって流れ作業みたいになってしまうからね。ミュージシャンの感じとかも含めてステージを繋げていかないと。それと、自分の思いとかも重ねてストーリーになってくれればいいなと思うので、まだまだ考えているところです。

――改めて、バンマスとしての思いを聞かせていただけると嬉しいです。

ステージの構成が出来上がったらもう僕の仕事は終わりだと思っているので、あとは自分も楽しめるところまで持っていきたいかな。まぁそうはいかないですけどね。ミスやハプニングもない……ことはないので(笑)。でも、ゲストの皆さんがステージを作ってくれるんですよ。面白いですよ。もちろんお客さんもそうですけど。

――池畑さんも先ほど話してくれましたが、ゲストの皆さんやお客さんにもそれぞれに清志郎さんへの思いがありますもんね。

そうそう、そうなんです。

――前はライバルという意識だったRCの曲を演奏する、というお話からも、演るほうにとっても聴くほうにとっても改めて音楽は生きているんだなぁと思いました。

うん。相手を知ることでよくわかることもあって。当時、80年の頃とかRCを見てるんですよ。ルースターズは出てきたばっかりでまだ売れないし毎日ご飯も食べられないしライブもできないし、みたいな状況の中、屋根裏で演っていた彼らが日本武道館で演るようになっていくのを見て悔しいなと思ったこともあった。それは武道館で演ってることに対してじゃなくて、演ってる音楽に対して悔しいところもあったと思うんですけどね。でも、RC自体も色んな葛藤があったんだとわかると「あ、バンドってこんなもんか」と。そうすると逆に好きになっていくという。いやぁ、意外とバンドって大変なんですよ。10年続けるのって大変だと思う。ガーッと燃え尽きれば燃え尽きるほど続けていくのは大変。ROUTE 17も一緒で、そのエネルギーは自分だけのものではできない。僕は音楽だけじゃなく、制作に関わることでそのエネルギーをもらっている部分は確かにあるんですよね。色んな面で、お互いのリスペクトあってのものですね。

――ROUTE 17のようなセッションステージではとくに、時代関係なく演奏できて、お客さんもそれを体感できるのは音楽の素晴らしいところですね。

まさに、一曲目に予定している曲がこのステージのテーマを象徴してるんですよ。オープニングから思いを込めているので楽しみにしてほしいですね。

ひとり一人の小さな思いや行動が大きなフジロック作る

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――それは楽しみです。これまで<フジロック>に参加してきた中で池畑さんならではのエピソードや、印象深かった出来事はありますか?

車に乗って機材を運んだり、急ぎの用に対応したりもしてるんですけど、ホテル前にいるとスタッフの送り迎えの車と間違えられることがあるんです。前にビョークが「レッドマーキーまで連れてって」って車の後ろに乗ってきたので送って行きましたね(笑)。あと、エルヴィス・コステロのバンド(アトラクション)のドラマーのピート・トーマスと、スペシャルズのドラマーのジョン・ブラッドベリーと、クリス・ムストーというドラマーがいきなり乗ってきて、気づけば一台の車にドラマーが4人乗ってるなんてこともありました。

――すごいドラマー率ですね(笑)。

ね(笑)。それから大雨のレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、「ワイルド・サイドを歩け」がなかなか出てこないルー・リード、終わらないニール・ヤング、ボブ・ディランが車から降りる時のパーカーの横顔……。

――パーカーの横顔?

ボブ・ディランが駅からそのままステージの楽屋に来たんですよ。その車から降りる時にパーカーから横顔が見えて、すごく印象に残ってるんですよね。あと苗場食堂のステージの床って、昔は隙間がいっぱいあったんですけど、八代亜紀さんに出てもらうことになった2016年、ヒールが挟まったりイヤリングが落ちたりしたら大変だということできれいなステージなりました。苗場食堂だけでも色々なエピソードがありますけど、一番密になるところなんで今年は気をつけないといけないですね。

――たしかにそうですね。今年はコロナ禍における開催ということで、<フジロック>の感染対策などはいかがでしょうか?

例えばゴンちゃんストーンを作ってる時なんかは手が汚れるから、普段からみんな常に手袋をしたり対策してるんですよ。そういう回数は増えるんだと思いますけど、スタッフもみんな静かに寡黙に作ってるので、自分たちも気をつけるだけのことはしっかりできると思う。始まったら気持ちを落ち着けて、お客さんもそれぞれの思いを持ってくると思うので、ひとつ一つ気をつけていくしかない。思いやりを持つことも必要だと思う。

――無事に8月の開催を迎えたいですね。では、最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ひとり一人の小さな思いや行動が大きな<フジロック>を作ってくれると思うので、そういう気持ちを持って参加してもらえればいいなと思っています。で、みんなで大きな<フジロック>にしてもらえれば嬉しいですね。

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text&interview by 秋元美乃(DONUT)
photo by 横山マサト

INFORMATION

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