毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは、昨年サードアルバム『Strides』をリリースした小袋成彬

2018年にファーストアルバム『分離派の夏』でメジャーデビューを果たし、その後は宇多田ヒカルやadieu、DAOKOなどのプロデュースを手がける傍ら、音楽レーベル「TOKA」を主宰するなど多岐にわたる活動を続けている小袋。2019年、セルフプロデュースによるセカンド『Piercing』からロンドンへと拠点を移すと、地元のレーベルMelodies Internationalとの交流を深めながら、先鋭的なサウンドと日常を鮮やかに切り取った文学的な歌詞によって常にシーンを賑わせている。

<フジロック>への出演は2018年のRED MARQUEE以来となる彼に、ライブへの意気込みはもちろん、久しぶりの全国ツアーやヤクルトスワローズとのユニークな取り組みなど近況についても語ってもらった。

Interview:小袋成彬

0707_NariakiObukuro_01 フジロックはツアーの「総決算」。小袋成彬が苗場で迎える2度目の夏 #fujirock

「ホームに感じた」。2018年、初出演の<フジロック>

──まずは、今年<フジロック>出演が決まった心境からお聞かせいただけますか?

心境? イエーイ!(笑)

──あははは。今回の出演は、2018年にRED MARQUEEでライブをして以来となりますよね。その時はどう思いました?

ステージに立ったときに「こんなに人が入るんだな」と思いました。それに<フジロック>自体、他と比べてめっちゃホームに感じましたよ。本当にいいお客さんがたくさん来ている素敵なフェスだなって……俺が言うまでもないけど。そんな場所でライブが出来るなんて、「俺自身もいい音楽を作っているからなのだな」という自信にもつながりましたし。

──その時の出演アーティストで印象に残っているのは?

まずはケンドリック・ラマー。ケンドリックは、俺が今までで一番数多く観たアーティストなんですよ。4回くらい観たのかな。たぶん<フジロック>が最初だったんですけど、感動しましたね。大雨だったんで、余計にカッコよかった(笑)。

あの時が「初フジロック」だったので、他にも色々観ましたよ。ポスト・マローンが自分の靴に酒を注いで、それを飲んでたのが強烈に印象に残っています(笑)それが一番の思い出かもしれない。

──(笑)。2018年の<フジロック>出演は、同年4月にリリースしたファースト『分離派の夏』をひっさげてのステージでした。それから『Piercing』(2019年)、『Strides』(2021年)と2枚のアルバムをリリースされ、そのたびにサウンドも大きく変化してきましたよね。

俺はコンセプトが全てなので、『Piercing』のときはタイトル通り「突き刺すようなサウンド」を目指していました。ジリっとした痛みを伴うような、でもどこか爽やかで朗らかなサウンドにしたかったんですよね。昨年リリースした『Strides』の時は、コロナ禍で「人と顔を合わせる」がテーマだったので、温かみがあって丸みのある太いサウンド……ある意味『Piercing』とは正反対の方向にシフトしました。

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──過去のインタビューでは、「『Piercing』はトラヴィス・スコットに影響を受けていた」とおっしゃっていました。

もちろんトラヴィスだけが影響元ではなくて。それ以外にもハウスミュージックやテクノミュージック……ドラムマシンで作ったような、ひんやりとしたサウンドもありますし。直接的に何に影響を受けたのかは自分でもよく分からないというか、作ろうと思えばどんな音でも作れるんですけど、今お話ししたようにコンセプトがまずあって、それに寄せていったという感じなんですよ。『Piercing』を作っていた時は、流行っていたのがトラヴィスだったしそれが一番分かりやすい例だったので名前を挙げたんですよね。

──なるほど。

それにトラヴィスは誕生日が一緒なんですよ、だからすぐ思い浮かんだのかもしれない(笑)。

「自分のアイデアがどんどん具現化するフェーズになってきた」

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──続く『Strides』は、2019年にロンドンへ移住した小袋さんが、Melodies International(昔の隠れた名盤をリイシューするレーベル)との交流の中で作られた作品でしたよね。

そうですね。移住したことで聴かせる友人や「かっこいい!」と言わせたい人が変わってきたことで、サウンドも変化していったというか。

──2020年には世界中がコロナ禍となり、ロンドンもロックダウンするなど大変な状況が続いていたと思います。当時、小袋さんが考えていたことはnoteにも克明に綴られていたし、その内容は日本でも大きな反響を呼びました。「これからの新しい日本の中心を担うのは、間違いなく我々の世代だという希望です」や「個性を生かし、クリエイティブな戦術を選び、多様性を祝っていくのがこれからの日本の姿」など、そこに書かれていた小袋さんのポジティブな考え方に、僕自身とても救われました。

ありがとうございます。嬉しいです。

──今、コロナも収束へと向かいつつある中で、その考え方に変化などはありましたか?

根本的な考え方は変わっていないのですが、年齢的にも自分のアイデアがどんどん具現化するフェーズになってきた感じがしますね。まず「自分」という存在があって、音楽レーベル「TOKA」を立ち上げたことでチームが出来て、会社も少しずつ大きくなってきたというか。コロナ禍で撒いていた種も、やっと芽が出てきた感じなんですよ。例えば、ずっとメールでやりとりをしていた音楽家と直接お会いして一緒に曲を作るようになったこともその一つですし、あと最近は東京ヤクルトスワローズさんとも一緒に仕事をしていて。

──え、球団の東京ヤクルトスワローズとですか?

そう。8月23日からの3日間、『SWALLOWS Summer Night Festival』と銘打ったイベントが開催されるのですが、それを弊社がプロデュースすることになったんです。例えば俺がDJを担当しているラジオ番組との連動で、球場の周りで開かれるビアガーデンの音楽をプロデュースしたり、花火のための音楽をセレクトしたり。音楽を軸にした取り組みを、コロナ禍になる前からずっとヤクルトさんにプレゼンしていたんです。

──へえ! そういう発想はどのようなところから生まれたのでしょうか。

ロンドンでは「街並みを生かす」といった施策は日々当たり前に行われているんですよね。俺自身も、例えば明治神宮球場のように、原宿にありながらも昔ながらの施設をどうやって利活用してカッコいいものにするか? みたいなことにずっと興味があって。もっと言えば、それって自分自身の音楽の聴き方や作り方にも似ていると思ったんですよ。新譜をひたすら追いかけてチェックしまくるだけじゃなく、昔の隠れた名盤とかを掘り起こして人に勧めるのが大好きだし、そういうアティチュードの部分は同じだなと。昔から俺は野球が好きですしね。

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──地域活性化にもつながるような、小袋さんの新たな取り組みに期待しています。ところで、昨年の<フジロック>は「賛否両論」が渦巻く中、日本在住のアーティストのみが出演し有観客で開催されるという異例づくしの内容でした。そのことについて小袋さんは、ロンドンからどうご覧になっていましたか?

やっぱり声の大きい人の意見がどうしても目立ってしまいますよね。俺はどちらかというと<フジロック>開催については昨年から賛成派でした。コロナ禍も収束に向かっているし、今年は海外アーティストも大勢参加しお酒も販売されるフジロックが再び戻ってくるのがとても嬉しいですね。

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──<フジロック>参加に先立ち、久しぶりに日本ツアーもスタートしますね。

今回のツアーでは、オーディエンスとの距離もなるべく近くしたいですね。俺、ステージに上がるのが苦手なんですよ。自分自身が今までステージ上の人たちに感動したことがあまりなくて。それよりもクラブへ行って、客と同じ目線でDJやっている人たちの方がサウンドも含めてよほど共感することが多い。今回はMelodies Internationalのクルーたちと、そのバイブスをみんなと共有できるようにしたいと思っています。おそらく、誰も見たことのないようなステージになるような気がしますね。

<フジロック>でのライブはある意味ツアーの「総決算」なので、それが終わってようやく今回の目的が全て達成された気分になれるでしょうね。そしてその頃には演奏もこなれてるんじゃないかな。すでに現時点で2ヶ月酒を抜いているので、バチバチに仕上がった状態で苗場に行きますよ!

──楽しみです。ちなみに今年の<フジロック>で楽しみにしているアーティストはいますか?

(ラインナップを見ながら)へえ、折坂くんも出るしORANGE RANGEも出るんだ! JPEGMAFIAにスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)にトム・ミッシュ、ホールジー……アーロ・パークスもいる。モグワイにヴァンパイア・ウィークエンド、Yaffleも発表されたんですね。踊ってばかりの国も最高。相変わらず素晴らしいラインナップですね。食品まつり a.k.a foodman、No Buses ……お、Corneliusもいる。Wellcome back! みんな観たいなあ。今年は1日目からいるつもりなので今から楽しみです。

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text&interview by Takanori Kuroda
Photo by 横山マサト