毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは、6月に初の武道館公演も控えているSTUTS。
2016年にファーストアルバム『Pushin’』をリリースし、以降は自身の作品のみならず、多くのアーティストの楽曲をプロデュースしている。STUTSの名前が一気に注目されたのが、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌の「Presence」だった。
繊細であり大胆でもあるビート&サウンドをクリエイトするSTUTS。NAEBA SESSIONSを含めると3回目の出演となる今年の<フジロック>では、さらに進化したライブを展開してくれるに違いない。
Interview:STUTS
ヒップホップへの目覚め
──音楽をはじめたきっかけから教えてください。
小学6年か中学1年くらいでヒップホップにはまってしまって。ヒップホップから音楽に入っていったんです。自然と中学2年とか3年のころに自分でラップしたいって思いはじめて。それでラップのリリックを書いたりしたんです。ラップするんだったらビートもないとダメだなって思って、ビートを作りはじめたんです。
──自己流で作り始めたのですね。
はい、そうです。そのための勉強は特にしていないですね。ヒップホップ専門の雑誌があって、その雑誌に「ビートメーカー特集」が掲載されていて。それを読んで「あ、こういう機材で作っているんだな」っていうことを知ったりして。
──ミュージシャン、あるいはトラックメーカーになろうと思っていたのですか。
なろうと思ったというよりも、ずっと好きでやってたことなんです。でも音楽で生活しようなんてまったく思っていなかったんですよね。そんなふうになれたら最高だけど、まあ無理だろうなって思っていました。専業になったきっかけで言えば、ファーストアルバムを出して、いろんな人に聞いてもらえるようになったことだと思います。「もしかしたら、音楽だけで生活できるかもしれない」って思って。ちょうどその頃、転職しようと思っていた時期でもあったんですね。就職した会社では自分のやりたかった仕事ができなかったので。どこか違う会社に入るのではなく、音楽で挑戦してみようと。
──学生時代にはDJもやられていたんですよね?
たまにやってましたね。ラッパーさんのバックDJがメインで。大学2年くらいから、MPCというサンプラー機材を使ってライブで叩くというパフォーマンスをするようになりました。
──MPCを叩くというスタイルのモデルになったアーティストはいたのですか。
MPCを叩くということに関してパッドの配置とかを参考にさせてもらったのはHIFANAさんとか。海外のアーティストなら、アンチコンっていうヒップホップの集団がいたんですけど、そこのジェルっていうトラックメイカーとか。
プロデューサー的な視点
──STUTSさんの音を聞いているとクラブカルチャーへの意識も感じられてきます。
もともとクラブでライブをやっていたので自ずとそうなっている部分もあると思いつつ、ダンスミュージック的なものに興味が出始めたのがこの4、5年くらいだったりするので、そういった影響も一番新しいアルバムには出ているのかなって思っています。
──音の引き出しがすごく多いって感じています。どんな音楽を聞いているのですか。
気になったものは何でも聞いています。ヒップホップが好きではあるんだけど、ジャンルを問わずにいろいろ聞いていますよ。聞けるときには聞くっていう感じですね。デジタル音楽配信サービスやYouTubeで探して聞いたりとか、友達から「これ、いいよ」って教えてもらったものを聞くとか。たぶんみなさんとあまり変わらない感じで情報収集をしていると思います。インプットする時とアウトプットする時の波があるので。
──今はアウトプットしている時ですか?
今はどっちでもありますね。去年はアウトプットの年でした。作品を作っていると、その確認の時間がいっぱい必要で。スタジオだけではなく、移動などで音楽を聞く時も自分の曲を確認したりするんです。アウトプットが多い時は、インプットにかけられる時間が少なくなっちゃうので。
──最終的な音像は、曲作りが始まる際に明快に見えているのですか。
最初に見えていたものとちょっと違ったものになったりもしますし、それが結果的にいい方向になったりもするし。最初から何となくイメージを持っている時もあるんですけど、そのイメージに縛られずに、その場その場で柔軟に作っていけたらなって今は思っています。
──バンドでの編成を考えて曲も、最初はひとりで作り始めているのですか。
デモ段階のアイデアがあって、それをバンドの人に聞いてもらって、一緒に弾いてもらって作っていくっていうこともあるんですけど。基本はひとりで、まずはビートを作ってみたいなところから始まることが多いですね。
──作品ではいろんなラッパーやボーカリストの方を迎えています。
ビートができた時に、「このビートだったらこの人の声」とか「この人のフィーリングがいいな」とか、なんとなく思い浮かんでくるんです。その思い浮かんだ人にお願いするっていうことも多いですね。
──プロデューサー的な視野も強いと思っていますか。
どういうものにしていくとか、どういう方と一緒に作るかとかを考えるという意味では、プロデューサー的な視点はあるかもしれないですね。ただディレクションするっていうよりも、一緒に作る方から出てくる何かとのコラボレーションと思っていて。その過程の中で、ここはこうしたほうがいいとか提案したりはしているんですけど。ヒップホップだとトラックメイカーのことをプロデューサーとも言うんですね。だから曲全体のことを考えながら作っていることがほとんどなので、プロデューサー的な視野は自然と持つようになっていたのかもしれないですね。
2019年からの<フジロック>
──<フジロック>という存在を意識するようになったのはいつ頃でしたか。
音楽を聞き始めた中学のころには、<フジロック>っていう名前は聞いたことがあるくらいの感じでしたね。高校の頃に自分の音楽を作り始めて、大学に入ってからはずっとトラックを作っていたので、最初は音楽ファンとして遊びに行くだけっていうよりも、小さなステージでもいいから、自分が<フジロック>に出させてもらえるようになるまでお預けしておこうみたいな気持ちがちょっとあって。大学時代には、本当に出演できるなんて思っていなかったんですけどね。
──<フジロック>に初めて行かれたのは?
お預けしておこうっていう気持ちよりも、海外のアーティストさんのライブを見たいっていう気持ちが上回っていったんでね。そして初めて行ったのが2019年でした。
──その時は誰かお目当のアーティストがいたのですか。
友達に誘われたこともあって。自分だけだったら行ってなかったかもしれないですね。その年で気になっていたのはダニエル・シーザーとかトロ・イ・モワとか。
──2019年はもっとも過酷な年でした。
雨がすごかったですね。こんなに降るのかって思いましたから(笑)。
──そして最初の出演と言っていいのか、コロナ禍で開催中止になった年にところ天国の場所で撮影されたNAEBA SESSIONSが苗場での初演奏でした。
<フジロック>出させてもらったっていう実感がメチャクチャあったのかっていうと、そうでもないんですけどね。でもすごくいい企画で、素晴らしいロケーションでライブさせてもらったので、すごく印象に残っています。
──翌年の2021年にバンド編成で実際に<フジロック>のRED MARQUEEのステージに立ちました。
とにかく感慨深かったですね。普段のライブとは変わらずにっていう気持ちではいたのですけど、出演の前日にギターの方が熱を出してしまって、出られなくなってしまって。音源を差し替えたり作り直したりして、かなりバタバタしての当日だったんです。それを乗り越えてのライブでもあったんですよ。人前でようやくライブができるようになったという時期でもあって、ライブがやれるっていうこと自体がありがたかったし。いろんな思い出も含めて、良かったなって思っています。
──バンド編成でのライブは、やっぱり違うものですか。
自分がビートを演奏して、自分が作ったビートの中から生楽器に置き換えられそうだったり、付け加えられそうなものを弾いてもらうっていう感じなんですね。基本的な方向性は自分が示してやってもらっているんですけど、バンドメンバーの意向がものすごく強く出る曲もあります。ソロの展開をバンドメンバーに任せる即興性の強い曲もライブでは演奏しています。
──今までの<フジロック>でのもっとも強烈な思い出とは?
やっぱり自分が出演させてもらった時の光景ですね。一緒にいっぱい曲を作らせてもらった方々と一緒に立てたのがとても感慨深かったです。
──<フジロック>の魅力はどこにあると思いますか。
いろんなステージを行き来して、いろんなアーティストさんのライブを見られることがすごく楽しいなって思っています。それはフェスの醍醐味でもあるんですけど、特に<フジロック>は山の中での言わば隔離された環境で、<フジロック>自体がテーマパークみたいになっているところが<フジロック>でしか体験できない魅力だと思っています。
──それでは2年ぶりとなる今年の<フジロック>ではどんなステージにしたいと思っていますか。
今のバンド編成で実際にレコーディングした曲も増えてきているので、2年前のライブとはまた違う感じで、バンド的な方向性をフィーチャーしたような演奏が見せられたりするのかなって。進化したっていうとちょっとニュアンスが違うんですけど、成熟したライブになればと思っています。
──6月に行われる初の武道館公演も期待しています。
武道館もいつか何かの機会で立てたらいいなくらいのイメージでした。その意味では<フジロック>への思いと近い感覚かもしれません。今まで一緒に曲を作らせてもらった方々と、一緒に大きな舞台に立つチャンスをいただけたので、「ありがとうございました」的な楽しいライブになったらいいなと思っています。
Text&Interview by 菊地崇(Festival Echo/フェスおじさん)
Photo by 須古恵