毎回さまざまなゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力・思い出・体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回の主役はOriginal Love Jazz Trioとして出演が決定した田島貴男だ。

伝説の第一回<フジロック>にも観客として足を運んでいたほどの<フジロック>ファンでありながら、田島貴男が出演者として<フジロック>のステージに上がったのは長いキャリアの中でも比較的最近と呼べる2019年。どのような想いを<フジロック>に抱いているのか訊くと、話は現在の音楽の視聴環境を巡る話題にまで広がっていった。

Interview:田島貴男(Original Love)

0424_fuji_tajimasan_0002_re1 ミュージシャンとして止まらない。田島貴男(Original Love)がフジロックで出会う刺激的な音楽  #fujirock

初回から浴び続けた<フジロック>の熱

──田島さんは1997年に開催された初回の<フジロック>に観客として足を運んでいたんですよね。

あの頃は今みたいにフェスがたくさんあったわけじゃなくて、<フジロック>がその先駆けだよね。出演者を知ったら「絶対観に行くしかない!」と思って。当日は大雨が降ってエラいことになったんだけど、すごく面白かった。豪雨の中で観たアタリ・ティーンエイジ・ライオット(Atari Teenage Riot)のアレック・エンパイアが最初からテンションを上げ過ぎて初めの1、2曲で力尽きちゃって(笑)。あとはハアハア言っていただけだったんだけど、それでも最高で。

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)も良かったし、そのときのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)もすごくてね。ものすごい雨と風がステージに吹き付けていて、めちゃくちゃな状況。寒かったし、「演奏できないんじゃないか?」っていうレベルだったんだよね。だけどその中で安定した良いグルーヴを出してて、やっぱりすげえなと思いましたね。その最初の<フジロック>があまりにも印象深いですね。2日目が中止になったというのも含めて良かったよね。

──初開催の<フジロック>以外で<フジロック>での印象深いライブはありますか?

2010年のジョン・フォガティ(John Fogerty )は良かったですね。あのときはバイクで<フジロック>に行って、革ジャンと革パンだったからすごい暑くて(笑)。そのときジョン・フォガティは60歳を越えていたと思うんだけど、若い当時と全く同じ声量とパワーでお客さんをガシッと掴んでいた。「こうなりたいな」と思いましたね、めちゃくちゃカッコよかった。

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──そんな田島さんにとって<フジロック>はどういった存在ですか?

僕にとっては一番ベーシックで、音楽的にも影響を受けたし、自然にカッコいいと思えるロックフェスですね。

──田島さんが<フジロック>に初出演したのは2019年で、キャリアからすると意外にも最近のことなんですよね。

そうそう、ずっと出たいなと思っていて、ようやく出れたから嬉しかったですね。

──今回はOriginal Love Jazz Trioでの出演になります。

3年くらい前にある企画でジャズ・トリオをやってみたらすごく良かったんですよね。前からオルガンとドラムと僕がギターというトリオ編成でやってみたいなと思っていたんだけど、やってみたらやっぱり面白いんです。ジャズ・トリオとは言いつつも全然ロックバンドなんだけどね(笑)。言うなれば、3ピースのオルガン・ジャズ・ロックバンドです。

──個人的にソロでのライブや近年の作品で田島さんはグルーヴを突き詰めている印象があり、トリオでの編成でそこがどう変化するのか楽しみです。

グルーヴは難しいね、50を過ぎてからちょっとわかってきた(笑)。

──え、そうなんですか!

本当にね。ずっとわかんなかったんだけど、ちょっとずつわかってきた。こういうものかもしれないなって。

──驚きです。トリオとしてグルーヴを作る際に気をつけていることはありますか?

トリオだとよりバンドのメンバー一人ひとりのテンションが重要。自由でもあるけど、難しいところもあって。アイコンタクトだったり、お互いの機微を見ながらやるようにしていますね。

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模索し、探索し、自己を更新し続ける

──去年あたりからライブ・シーンは本格的にコロナ禍を抜け出した印象があります。何か変化は感じていますか?

コロナが明けた後、そこで頑張れた人たちのライブにお客さんが戻ってきてくれている感覚がありますね。やっぱりライブをやることが非常に困難な状況だったじゃないですか。お客さんを半分にしなきゃいけない、なら1日に2回ステージに上がろうとか。現実的な話、経費もそれなりだからいろいろ削って車で出かけて行って、1日に2回ライブをやったり、いろいろトライしました。良い思い出でもあり、試された時期だったと思いますね。いろんなミュージシャンにいろんなやり方があったと思いますけど、その中で頑張れた人たちが残っているんじゃないかな。

──2022年のアルバム『MUSIC, DANCE & LOVE』はそんな中頑張り続けたミュージシャンたちに捧げられた作品にも聞こえます。

そういう面もあるかもしれないね。ちょうどコロナの終わりくらいに作ったアルバムなんですけど、コロナの時期にそういった明るい曲調の、鮮やかでソウルフルなアルバムを作りたかったんです。コロナが終わってから出ましたけど(笑)。

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──あの作品を聴いて「自分は間違っていなかった」と思えた人はたくさんいたと思います。

特に同世代はそういう人が多かったと思います。すごく喜んでくれた。

──田島さんが今一番呼びたいアーティストを招いて対バン形式で定期的に開催されている<LOVE JAM>をはじめ、田島さんは世代を問わず積極的に他のミュージシャンと交流していますよね。

面白い音楽、良い音楽に世代はあんまり関係ないよね。「良いものは面白い」って僕は思います。今回の<フジロック>ではキング・クルール(King Krule)をめちゃくちゃ楽しみにしているんです。大好きで、今一番観たい。あの人は20代だよね。なのになんであんな音楽性なんだろうって思うんです。自分たちの世代と非常に近い感覚を彼には感じますね。アルバム4枚、全部いいです。特に2nd アルバムの『The OOZ』はめちゃくちゃヤバい。ニューウェーヴで、80’sな感覚があって、ロックに思い切り歌うのもすごく痛快。ちょっと曲数が多すぎるけど(笑)。

──楽しみですね。その他に今回の<フジロック>で気になっているアクトはありますか?

サンファ(Sampha)も好きだし、betcover!!も面白いですね。(betcover!!は)今までいなかった位置のバンドですよね。「そこに来たか!」と思わされる音楽性で。なんだか、おっさんみたいな格好をしてるし(笑)。でも近くで見たらやっぱり若かった。面白いやつはいっぱいいますね。

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絶えず音楽と出会い続ける

──比較的若いアーティストの名前がどんどん出てきますね。個人的な興味もあり訊いてしまうのですが、田島さんはどうやって新しい音楽をチェックしているんですか?

今は難しいね。自分が気に入る新しい音楽を見つけるのが大変。僕らが若い頃は、レコード屋に行けば新譜や推されているものがあって、そこで出会うことはよくありましたけどね。今のプレイリストからは、どう選んでいいかわからない。「こういう音楽が好きならこういうもの」っておすすめされるじゃない? ああいうものを聴いても「つまんねえな」と思うことが多いんだよね、意外性がない。

キング・クルールだって、僕が知ったのは最近で。彼は10年くらい前からやっているのに、「なんでその頃の僕は知らなかったんだろう?」って。そういうことがサブスクの時代になってから多いですね。あと、<フジロック>には出ないけど、ジャングル(JUNGLE)も面白い。でもそれも最近知ったんです。以前ならもっと早い段階で知れていたはずなのにね。面白いものをどう検索していくか、見つけ方を教えて欲しいくらいです。

──たしかに驚きのある出会いは難しくなっている気がします。そういった意味でもフェスの存在は大きいかもしれませんね。

たしかにフェスかもね! フェスが一番わかりやすい。<フジロック>にはキング・クルールのようなアーティストも出るわけだし。フェスは知らなかった音楽を見つける機会だね。

それと、音楽に関しては友達に訊くことも多いね。最近教えてもらったのだと、あれも気に入っているんだ、『Let’s Start Here.』ってアルバムなんだけど……。

──リル・ヨッティ(Lil Yachty)ですね!

そうそう! めっちゃ良かった。ああいうのは知人や友人に聞いたりしないと出てこないよね。「なんでこんな良いアルバムを知らなかったんだろう?」って毎回思うよ。

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──そういったご友人の存在は大きいですよね。

そういうのが大事だね、今良い音楽と出会うには。リル・ヨッティはピンク・フロイド(Pink Floyd)のようでソウルっぽさもある音楽性で。でも彼はあの作品で突然ああいうスタイルになったじゃない。前のアルバムは全然違うもんね。

あ、あとカフェとかで流れていて出会うこともあるよね。そこでShazamした曲を聴くことが多い。

──もしかすると、それが一番今っぽい出会い方かもしれません。

フランク・オーシャン(Frank Ocean)の良さも、最近になってようやくわかったんだよ。以前はなんだかふにゃふにゃしたアルバムだなと思っていたんだけど。よく聴いてるウチに、最近のアーティストが彼に影響されているのがよくわかった。そういうキーになるアルバムなんだよね。1stアルバムの『channel ORANGE』は僕らの世代とちょうど中間的なアルバムというか、音楽としてもすごく良いんだけど、でも全然違う感覚、世界観を提示していて。それがわかるのに、10年かかるんですよ、僕らの世代というか年齢にもなると(笑)。

もしかしたらキング・クルールは僕らの世代でも素直に「いいじゃん」と感じられるかもしれないけど、フランク・オーシャンをはじめ、ああいった新しい感性はわかるまでに時間がかかるのかなと思いますね。

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──時間をかけてでも理解しようとしている姿勢に背筋が伸びます。本当に好奇心旺盛ですね。

音楽のネタを探しているというかね。そこが止まってしまったらミュージシャン、曲書きとしては終わっちゃう気がするんです。

──アンテナを立て続けているんですね。

そうなんだよ、面倒臭いんだけど(笑)。どんな仕事もそうだと思うけど、だんだん凝り固まっていってしまうからさ。頭の中も身体もストレッチしながらいろいろやっていきたいよね。

レコードは相変わらず掘ったりしているんだけど、掘っていても昔の音楽にしか出会えないからね。僕らの世代は、サブスクで驚くような新しい音楽に出会うのは難しいかもしれないけど、それに対応していきながら、人に会って訊いたり、フェスに行ったりしながら知っていけるといいなと思います。

──田島さんは現在もいろんなフェスに足を運んでいるんですか?

昔みたいにフットワークが軽くないからさ、まだ20~30代だったらいろんなフェスに行ってやろうと思うんだけど、なかなかこの歳になってくると難しくなってくるわけですよ(笑)。でも<フジロック>は全日観ようと思ってます。最近は3日間通しでいるんだよね、だから今回もいろいろ観たいな。

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──<フジロック>はがっつり楽しむんですね。そんな田島さんの最近の活動の状況について教えてください。

去年はアルバムが出た直後というのもあってライブが入りすぎていて、もう最後の方は体調もおかしくなっちゃったりしたから、曲を作る時間も全然なかったんだけど、今はちょうど良くて、これくらいのペースで曲を作りながらライブもやれたらなと思っています。今は曲をいっぱい作っている最中ですね。インプットもしている時期だから、良い音楽にたくさん出会いたいです。

──遠くない未来に新曲も聴けるということですね。では最後に改めて<フジロック>への意気込みを教えてください。

今回もミュージシャン魂を燃やしまくってね、100%、いや120%の演奏をして会場を盛り上げたいなと思います。<フジロック>のような自分が影響を受けたフェスに出ることはやっぱりすごく刺激になる。他の出演者のステージも観に行って、楽しもうと思います。

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Photo by 寺内暁
text&interview by 高久大輝