フェス好きに大好評のフリーペーパー「Festival Echo ’15(フェス・エコ)」と富士祭電子瓦版のコラボ企画! 「Festival Echo ’15(フェス・エコ)」に掲載された岡村靖幸 × ピーター・バラカンの豪華対談を瓦版でも公開!
夏の苗場に現出する
<フジロック>という祝祭
ソロ名義としてははじめて<フジロック>に登場する岡村靖幸さんと、2010年から毎年足を運んでいるピーター・バラカンさん。音楽、フェス、そしてラジオ……。自身のバックボーンを語り合いながら、今年の<フジロック>へ意識は向かっていく。
Interview:岡村靖幸 × ピーター・バラカン
深夜のレッドマーキー
岡村さんは、ソロ名義としてははじめての<フジロック>ですね。
岡村靖幸(以下、岡村) |
実は違ったスタイルで、2012年に一度だけ行ったことがあります。熱気がすごく、盛り上がったのを覚えています。 |
ピーター・バラカン(以下、ピーター) |
そのときは、どんなことを感じましたか? |
岡村 |
オーディエンス自体が、まんじり見ているというよりも、盛り上がって、テンションを上げて待っている状態でしたね。 |
ピーター |
他のステージが終わっている時間。しかもみんなお酒が入って、気分が盛り上がる要素がそろっている時間ですね。 |
岡村 |
ああいう、ウワーっとなっている場所はお好きですか。 |
ピーター |
いや、フェスに限らず、あまりああいうところには行きませんね。日付が変わる頃には、ほとんど寝る人間ですから(笑)。 |
岡村 |
レイヴっぽいダンスミュージックはお好きですか? |
ピーター |
不得意ですね。これは世代的なものかもしれないけれど、電子的なビートって、基本的には僕の身体は受け付けないです。 |
岡村 |
アンダーワールドとか、イギリスから多くのアーティストが出てきましたが。 |
ピーター |
50年代の生まれですから、ロックやソウル、ファンクといった人間くさいビートの音楽を、70年代にいっぱい体験しています。もう自分のビート感というものが、完全に出来上がっているんですね。80年代に、テクノっぽい音楽が出てきたときから今にいたるまで、基本的に苦手ですね。いくつかの例外はありますが……。 |
岡村 |
いわゆる70年代ソウルをリカバーしたような、ジャミロクワイのようなタイプは? |
ピーター |
嫌いではないですけど……。そういうタイプの音楽を聞くんだったら、大元に戻っちゃうんです。でも、若い人がジャミロクワイのような音楽にのめり込んだのは、とてもよくわかります。果たさなければならない役割だったんでしょうね。 |
グルーヴィーなダンスュージックを
岡村さんが最初に聞きはじめたダンスミュージックは、どういうものだったのですか。
岡村 |
小学校の頃に、一大ディスコブームがあったんです。『サタデーナイトフィーバー』とかの時代です。それが最初の洗礼だったかもしれませんね。一方で、フィラデルフィア・ソウルみたいなものも聞いていました。 |
岡村 |
小学校4年か5年か。その頃からそんな音楽を聞いていたんです。スティーヴィー・ワンダーも好きでした。 |
ピーター |
僕はフィラデルフィア・ソウルもリアルタイムで聞いています。70年代は一番好きな時代。ファンキーな音楽が好きになると、ビートが変わらないというのが、どうもおもしろくなかったんです。 |
ピーター |
当時ディスコへ行って、踊る気持ちにさせてくれる音楽ってなかなか流れていなかったんですけど、シックだけは別でした。“グッドタイムス”がかかったとたんに、ウワーっと盛り上がって。ディスコのなかにも、好きな音楽があることがわかりました(笑)。 |
岡村 |
シックはグルーヴィーで、ファンキーなミックスもありますもんね。 |
ピーター |
ダフトパンクの“ゲットラッキー”を聞いたときに、誰の曲かわからなかったけれど、ギターが鳴ったらそれがナイル・ロジャースだということがわかりましたから。 |
コミュニティとしてのフェス
ピーターさんは、イギリスではフェスを体験なさっているのですか。
ピーター |
<ウッドストック>が開催されたのが69年。生まれてはじめて行ったフェスが、同じ年にイギリスのワイト島で開催された<ワイト島フェス>でした。 |
岡村 |
それはすごい体験ですね。何歳だったのですか。 |
ピーター |
18歳でした。ワイト島は、その前の年に第1回目が開催されたんですよね。第1回は知らないうちに終わってしまっていたから、次は絶対に行きたいって思ったんです。69年はボブ・ディラン、ザ・バンド、ジョー・コッカーなどが出ていました。もう45年以上前ですから、他にどんなバンドが出たか、ほとんどおぼえていないんですけど。無防備で、テントも持たずにただ行っただけ(笑)。 |
ピーター |
その翌年の70年に、<バース・ブルーズ・フェスティバル>というフェスにも行きました。マイケル・イーヴィスという<グラストンベリー・フェス>をはじめた人も、客として参加していたそうです。フェスに感激して、自分でもやりたくなって、71年に<グラストンベリー>をスタートさせたんです。<グラストンベリー>は、規模、人気ともにヨーロッパを代表するフェスになっています。岡村さんは海外のフェスには行ったことがありますか。 |
岡村 |
ないですね。いつか行ってみたいと思っているんですが……。 |
ピーター |
ヨーロッパでもアメリカでも、夏になると、ジャズやフォークなど多様なフェスが毎週のようにどこかで開催されている。ものすごい田舎に、何千人、何万人と集まるものもあります。<フジロック>も家族連れが多くなっていますが、欧米のフェスはずいぶん前からファミリーが多いですね。 |
岡村 |
イベントとして楽しいし、成熟しているということですか。 |
ピーター |
フェスがひとつのコミュニティになっていると思います。<フジロック>に家族で行っているという人の話を聞きました。<フジロック>にキッズランドというエリアがあるんですが、そこで毎年、全国から来た同じくらいの年齢の子どもを持つ家族と会うそうなんです。 |
岡村 |
へえ、それは子どもたちにとってもうれしいでしょうね。 |
ピーター |
4〜5歳から、<フジロック>でともに遊び、成長していく。その付き合いって、もしかしたら一生続いていくかもしれない。 |
岡村 |
昔なら、グレイトフル・デッドを追いかけるデッドヘッズが、家族で生計をたてながら全米を巡る。それと似たようなコミュニティが、フェスにも存在している、と。 |
ピーター |
自分で作ったTシャツやアクセサリーを駐車場で売って。デッドの場合、フェスティバルではないのですけど、お客さんが満足することを常に考えて、それをライヴで実践している。たぶん長く続いているフェスも、お客さんの満足度を意識しているはずです。<フジロック>にはアーティスト選びや会場の雰囲気作りなど、さまざまな気遣いがあります。その気遣いのひとつに、ゴミを徹底して分別するということもあげられると思います。環境への配慮も素晴らしい。そしてそれがお客さんへの教育として繋がっている。 |
フェスティバルという文化
ピーターさんが考える、現在のフェスの魅力とはどういったものでしょうか。
ピーター |
自分が絶対見たいというアーティストもいるけれど、音が気になってそのまま留まって聞いちゃう。知らなかったアーティストの音楽を、ごく自然に聞くことができる場所なんですよね。 |
岡村 |
発見があるわけですね。そんなに期待していなかったけれど、行ってみたら「あ、よかった」みたいな。 |
ピーター |
そういう音楽との偶然の出会いという意味では、ちゃんと機能した時のラジオと似た体験だと思うんです。 |
岡村 |
「これ!」って決めてしまうと、自分の嗜好性を狭めてしまうことですものね。フェスに行ったら、できる限り、自分の心の扉をオープンにしておくことが大切なのかもしれませんね。新たな音楽との出会いもあるわけですし。 |
ピーター |
<フジロック>に、毎年必ず行くという人が多いのは、その偶然の音楽との出会いを求めているからだと思います。誰が出演しようが毎年行く。他のフェスに比べて、そういう人の割合が高いはずです。 |
岡村 |
ピーターさんは、<フジロック>へいつ頃から行きはじめたのですか。 |
ピーター |
「今年こそ行こう」と思っていつつも、歳もとっていて、キャンプはイヤだし、持ち越しになっていたんです。でも2010年に大好きなデレク・トラックスが<フジロック>に出るということで、ついに行くことを決めました。行ったら、躊躇していたことが吹っ切れたというか、行かない壁が無くなってしまったんです。 |
岡村 |
デレク・トラックスというのはデュアン・オールマンの後継者のようなアーティストですよね。 |
ピーター |
フィールド・オブ・ヘブンで、雨がしとしと降るなかで聞いていたんですが、素晴らしい体験でした。自分のバンドと並行して、去年までオールマン・ブラザーズのギタリストも務めていました。スライドギターなんて、「うまい」を通り越して天才です。 |
岡村 |
今度、聞いてみます。<フジロック>って、ラウドロックが多いという印象でした。だからピーターさんが<フジロック>に毎年のように行っていると聞いて、意外に思っていたんです。 |
ピーター |
フィールド・オブ・ヘブン、そしてその奥にあるオレンジ・コート。ヘブンには、それこそ去年はグレイトフル・デッドのベーシストのフィル・レッシュが来ましたし、ヒッピーっぽいアーティストやワールドミュージックのミュージシャンなどが出演する。東京のライヴハウスでもなかなか見ることのできないミュージシャンのライヴが体験できる。僕は、奥にいっぱなしのほうが多いかもしれない(笑)。 |
2015年の<フジロック>
今年の<フジロック>で、「これは見たい」と思うアーティストを教えてください。
ピーター |
トッドは2年〜3年前に<フジロック>に来ているんです。その都度、新しく出ているアルバムの関係で、多少やることが変わるかもしれません。最新作はテクノっぽいし。 |
ピーター |
お客さんが絶対聞きたいというヒット曲、定番の曲も多いですから、それをやらないわけにはいかないでしょう。僕はライアン・アダムスを見たい。 |
ピーター |
アメリカのシンガー・ソングライターで、彼も幅の広い人です。俗にいうアメリカーナという感じのミュージシャンですが、とてもいい曲を書くアーティストです。トッドもライアンも日曜なんですよね。日曜はラジオの生放送があるから……困った(笑)。 |
岡村 |
ラインナップを眺めると、ブラックミュージックが少ないですよね。 |
ピーター |
ギャラクティックとメイシー・グレイ、ちょっとおもしろい組み合わせですね。ファンキーなニューオーリンズのバンドが、どうメイシーとコラボレーションするのか。あと岡村靖幸も気になっています(笑)。 |
岡村 |
ありがとうございます。そう言っていただくと、いいパフォーマンスをしなくっちゃと思います。 |
Photo by Kyoshiro Yoda
Text by Takashi Kikuchi
Styling by Yoshiyuki Shimazu
Hair & Make-up by Harumi Masuda
撮影協力:Noz
協力:Festival Echo ’15(フェス・エコ)
★「Festival Echo ’15 フェス・エコ」は岩盤、全国HMV、 TOWER RECORDS、BEAMS、Columbia、Jeep販売店、LOGOS、OSHMAN’S、CHUMS などの各店舗で手に入ります。
※一部店舗を除く
Profile:岡村康幸
神戸出身のシンガー・ソングライター・ダンサー。1986年にデビュー。ブラックミュージック、ロックから歌謡曲まで、様々な音楽のエッセンスを吸収し発展させたナンバーで圧倒的な指示を獲得。ソロ名義では<フジロック>初参戦。
Profile:ピーター・バラカン
1974年に来日。以降、ブロードキャスターとして、音楽愛好家として、良質な音楽を日本に伝えてくれている。深く愛する古今東西の音楽を徹底的に紹介する「Barakan Beat」は、毎週日曜18時からInterFMでオンエア中。