■マイノリティであることの意味とその重要性

親が自分を失ってしまうことが何よりも怖いことならば、親にとって何が最も大切なのでしょうか。

自分を生きることよ。これは子どもたちにも同じで「自分の気持ちは大事にしなさい、自分の考えを簡単に捨てないこと」と言っています。世の中の常識や地域独自のならわしなんかのせいで、今、不自由に生きている人がいっぱいいると思うけど、それを嘆いて自分を放棄してもいけないし、人生は長いから潰されてはだめ。だって不自由は永遠じゃないから。

フジロックに来るような人の中には、音楽の趣味がマイノリティであるという理由で学生時分から「ちょっと変」と言われがちな、そういう自覚もある人が多いんじゃないかなと思うとき、日本にはその人たちを肯定するフジロックがあって良かったと思っています。

こんな私でも押しつぶされそうになったことがあるのよ。世間一般の保育を見た時と自分の存在を考えたとき、私の保育のやり方では子どもに申し訳ないんじゃないかとか、苦労かけるんじゃないかって。それで当時のりんごの木の親たちに相談したら「何を言っているんですか! 少数派がいるから社会のバランスが取れる。私たちは少数派を支持しているし、愛子さん、そんなことで辞めないで。子どもたちがここを巣立った後は私たちが守っていくから」って言われてね。その心強いお言葉があって続いてきたのよ。

そんなことがあったんですね。

私もまだ30代半ば、35年も前の話よ。ここ(横浜市)に来た時だってそう、世間の冷たい目もあったし、「山奥でやってこい」って言われたけど「山奥に子どもはいないんです」と返して(笑)。でもそう言われると、自分がやりたいことが明確になって意識レベルが上がっていったし、人は皆違うってことを知るのよね。

フジロックは1日平均3〜4万人がうごめく最大級の音楽フェスとしてアジア最大、世界的にもトップ10にランクインする規模を誇るフェスですが、日本の総人口の0.1%。マイノリティな群れなんですよね。

少数派は必ずいる。でも、少数派でも、その人数が多くなっていけば色眼鏡は取れやすくなっていく。知らないから警戒するし、知らないから防御する。だから私は知ってもらうために地域の人たちに話をしていって、今では支えてもらえるようになった。この地域にも少数派の受け皿は必要なのよね。だから、ここにおいでって言いたくなっちゃう。でも、そのたびにヤドカリのように場所を引っ越して来たり、増やして来たりしたんだけど、結構体力いるのよね。「もういっぱいなんで」と言いたくなっちゃうときもある。そこは「できないじゃなくて、やるんだよ!」って、自分に喝入れるの。

ロックですね、愛子さん(笑)。

りんごの木に寄ってくるのは自由人よ。その点はフジロックと同じかも知れないわね。今はもう「フジロックに行くなんて不良だ」なんていう人はいないだろうけど、もしそう思われた人がいたとしても、一所懸命子育てする姿を見てコミュニケーションしていくと「あんな音楽を好きだっていうけど、案外真面目に子育てしてるのね」という風に変わっていく。最初の色眼鏡は取れて、異質なものが交流し合うことができるようになるのよ。

5-1 【こどもフジロック】保育界の風雲児「柴田 愛子」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

フジロックも3世代で来て欲しいということで始まって今年で22年目。保育界のアナーキストの言葉は多くの迷える親の背中を優しく押すことになると思います。

みんな私の話を聞いて「ほっとした」って言うんだけど、それって子育てを立派にしなきゃって、構えすぎてるからじゃないかしら。「素の私じゃいけない、子育てできる私じゃないといけない」って思い込んでるからだと思うの。

思ってました。育児書に書いてある通りじゃないといけないって。

そうだよね。

親元も離れ、教えてくれる人もいない。子どもが生まれてから園に通い始めるまでは1対1の時間が長く、社会からもどんどん孤立していくような気もしていましたし。

太古の時代から、女は子どもを生んで育ててきた。子育てには免許も何もいらないし、本当はみんな楽して生きたい。楽しく生きたいのよ。でも、組織や秩序を重んじる日本の文化がいい加減にしなさいって思うほど、時代と逆行している。お勉強して、かしこまって努力しないと人間の評価が低いみたいな価値観や日本の文化は堅苦しいと思うし、どこかに基準に合わせたいっていうのがあるんだよね。でも、基準を持たないってことが大切なのよ。

「フジロックへ子連れで行く。それが私」というだけ。

そうよ。それに、子どもが育っていくのに何が足しになるか分からないからね。

6-1 【こどもフジロック】保育界の風雲児「柴田 愛子」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

愛子さんでもそうですか?

だってそれは子どもの問題だから。子どもが何を拾っていくかなんて、分からないじゃない? さっきのお稽古事の話とかと同じだけど、親はよかれと思って子どものためにってやっているのを子どもが拾う例はあんまりないよね。結局人間ね、そんなに多くのことは必要ないのよね。お稽古事をさせてくれた、お金を出してくれたとか、そんなことは愛情に見えないし、人間にとって大事なことは教えられたことではない。子どもに伝えなきゃいけないことはそう多くないのに、多くの人が建前で頑張り過ぎてるよね。

そうですね。愛子さんの「親が喜ぶ姿を見ることが子どもの幸せ」という言葉を聞いたとき、それでいいんだと思えて楽になりましたし、こんな風にフジロックを捉えている人が日本の保育界にいらっしゃるんだなって驚きました。

独身時代には来てたけど子連れだと無理だと思うって人がけっこういるけど、フジロックは子どもを抱えていくところもいいよね。でも託児はやっちゃダメだと思う。それは違うのよ。子どもも一緒に楽しまないと。だからさ、遠慮したり、後ろめたさを子どもに感じたりしないで、親もワクワクしてフジロックを楽しみにしていればいいんじゃないの?  親がワクワクしているのを嫌う子はいないわよ。

7-1 【こどもフジロック】保育界の風雲児「柴田 愛子」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

8-1 【こどもフジロック】保育界の風雲児「柴田 愛子」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

我が家は息子が一昨年前から、1歳、2歳と参加してきて、今年で3回目の子連れフジロックになりますが、本人はステージを観たくてどんどん前に行ってしまうんですよ。

あなたの血よ!

(笑)。そんな彼の姿を後方で見ていると、心配した大人が「大丈夫?」という風に、僅か数分の間に5〜6人の方々が声をかけてくれていて。

みんな優しいね。

はい。フジロックにいる人はとても優しいんです。

楽しんでいる大人はおおらかなのよ。だから子どもに優しいの。電車や街の中だったら顰蹙を買うような子どもの行動が、そこではそうじゃないってことは、そこにいる大人が精神的にゆとりを持っているからよね。

許され、受け入れてもらえているような気がします。

そうね。フジロックでは大人も解放されているから、怒りすぎている人もギスギスした人もいない。あんなに何万人も来て人口密度が高いのに、喧嘩を見ないものね。「今日は自分が楽しみにして来ている」という大人のゆとりからじゃないかしら。そういえば、キッズランドで1歳くらいの子の靴が反対だって言い合いしている夫婦がいたから「どっちでもいいんです。子どもの足は、まだそんなにできていないから、どっちでも不自由ではないんです。だからそんなにやいのやいの言わなくても」って話しかけたことがあった。

声をかけてもらえた側にとっては大きな気づきになったでしょうね。

社会一般にあるような、子どもを怒鳴ったりする光景はフジロックにはないけど、まだ日常に引きずられてしまって、どうでもいいことに頑張っている人もよく見るといるから、そういうときはちょっと声をかけるわね(笑)。

企画・取材・写真・文=早乙女‘dorami’ゆうこ
協力=りんごの木 子どもクラブ

9-1 【こどもフジロック】保育界の風雲児「柴田 愛子」に訊く、子どもをフジロックへ連れて行くのは○か×か

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■柴田 愛子
1948年東京生まれ。「子どもの心により添う保育」をモットーに設立36周年を迎えた「りんごの木 子どもクラブ」代表。クラブで行う「子ども達のミィーティング」が特色ある保育実践としてテレビ・映画で取り上げられ、子どもの力を最大限に引き出していると評判に。育児書の執筆、雑誌への寄稿、全国各地での講演会、NHK Eテレ「すくすく子育て」出演など、子どもに関わるトータルな仕事でアツい支持を受ける。保育経験に裏打ちされた強い信念とやさしい言葉は「第二の実家」として父母の育ちをも支えている。著書に日本絵本大賞を受賞した「けんかのきもち」や、「それって保育の常識ですか?」など多数。

□著作
絵本
「けんかのきもち」(日本絵本大賞受賞) 絵:伊藤秀男
「ありがとうのきもち」 絵:長野ヒデ子 他
著書
「マンガでわかる 今日からしつけをやめてみた」イラスト:あらい ぴろよ
「子どもの『おそい・できない』が気になるとき」
「それって保育の常識ですか?」
「こどものみかた」
「子育てに悩んでいるあなたへ : あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」他

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