毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは、2019年にファーストEPをリリースしてからソロ活動を本格的にスタートさせた君島大空。その年のROOKIE A GO-GO、2021年RED MARQUEEに続いて、<フジロック>に3回目の出演を果たす。
ギタリスト&サウンドプロデュースとして、数多くのアーティストの楽曲制作やライブに参加。バンドセットでの「合奏形態」の他、ソロでの「独奏」など、多様なスタイルでライブを続けている。今年1月にファーストアルバム『映帶する煙』をリリース。今年の<フジロック>にも、UAや中村佳穂のサポートメンバーでもある西田修大(g)、King Gnuの新井和輝(b)、millennium paradeをはじめ、くるりやKID FRESINOなど多くのサポートを続けている石若駿(drs)という人気も実力も兼ね備えた3人の若手ミュージシャンたちとの合奏形態でステージに立つ。
Interview:君島大空
──小さな頃、家ではどんな音楽が流れていたのですか。
母親がレコード屋で働いていたんですね。洋楽が好きで、AORがよくかかっていました。いっぽう父親の趣味はフォークで、加川良とか吉田拓郎とか大滝詠一とか。父親はギターを弾いていて、それで自分も自然と弾くようになったんです。
──それでは自分で曲を作るようになったのは?
17歳〜18歳の頃でした。詩の朗読をやりたいっていう友人がいて、僕はインプロビゼーションにすごく興味があって。最初に組んだバンドというかユニットが、ポエトリーリーディングとギターのインプロ。それをライブハウスでやったりしていました。
──インプロビゼーションでもいろいろあると思いますけど、どんなアーティストたちに惹かれていたのですか。
ギターを使ったインプロがすごい好きだったんです。ビル・フリゼール、マーク・リボーとか。フレッド・フリスも好きです。ジャズをバックボーンに持っている人が、ちょっと振り切った表現をしているものに憧れがありました。
──渋いアーティストたちですね。当時、音楽配信サービスはまだなかったのではないですか。
なかったですから、とにかくCDを買っていました。立川のディスクユニオンに、ノイズ/エクスペリメンタルっていう棚があって、その棚が充実していました。「ジョン・ゾーン関連作がめっちゃあんじゃん」って。そこでジャケ買いしたり。
──今のほうが探しやすいでしょうけど、出会ったときのインパクトはCDのほうが大きかったんでしょうね。
探し当てたときの手応えみたいなものは、今以上にあったような気がします。
──周りにはそういう音楽を聞いている人が少なかったのでは?
本当にいなかったですね。少なくとも学校には誰もいなかった(笑)。
──<フジロック>の存在は、いつ頃から意識していましたか。
そういうお祭りがあるっていうことは、高校の頃は認知していた気がします。ただ王道のロックシーンとかUKロックとかをまったく通ってきていないので、音楽をやり始めた10代後半から20代前半にかけては、フェスっていうものに対して興味を持っていませんでした。楽しめる自信がなかったというか。自分には合わないものだという食わず嫌い感がすごかったんです。2019年にファーストEPをリリースして、その年にルーキー・ア・ゴーゴーに出て。それで初めてフェスに行ったんですけど、行ったらメッチャ楽しくて。
──初めてが<フジロック>で良かったんでしょうね。いろんなアーティストがいるし、いろんな音楽があるし。
そう思います(笑)。ミュージシャンだけではなく多くの知り合いに会って。SNSだけで繋がっていた人とやっと会えたり。それも楽しかったんです。
──そして一昨年に再び<フジロック>に出演しました。
海外からのアーティストがいない特殊な年でした。まだコロナがピークアウトしていなかったし、正直、複雑な気持ちではありました。音楽フェスがすごいバッシングも受けていたし。出演するということに対して、うれしい気持ちはあったけど、どういう気持ちで立ち向かえばいいのかわからない。そんなことをメンバーとずっと話していました。開催に反対する人たちの気持ちも、出演をキャンセルした人たちの気持ちもわかる。楽しみにしている人たちもいる。どれも比べられない気持ちが、一点に集中してしまう面もあった時間だったように思います。
──そんな状況で、どういう気持ちでステージに立ったのですか。
楽しみにしてくれる人がいる。そこに振り切らないとできないなって思ったんです。今年はいろんな国からラインナップされています。コロナ禍での開催になった2年前があったからこそ今年もあると思うし、自分のライブだけではなく2年前の<フジロック>が経験できて今は良かったと思っています。
──今年、絶対に見たいと思っているアーティストは?
スロウダイヴが昔から好きなんです。スロウダイヴが見られたら、今年はもういいかなっていうぐらい(笑)。
──今年1月にファーストアルバムがリリースされました。
曲として溜まってきたものも多かった。それらの曲の賞味期限みたいなものを考えたときに、ギリギリ今しかないかなって思ったんですね。前からライブでやってきた曲を一回まとめておかないと、自分が清々しないだろうなと。
──ある種、ひとつのピリオドのようなもの?
この先続く自分の人生の、ひとつのポイントとしてのファーストアルバムです。いつ聞き返しても時代感のないものにしたいというコンセプトがまず基本にありました。数年後に振り返って、そう聞こえていたら、自分にはなまるをあげたいなと思います。
──ライブでは独奏と合奏というスタイルをとっています。
10代後半の頃は歌いたいという欲求がなかったんですね。それが周りにいた人たちに触発されて歌うようになった。ひとりでライブするときは、最近では歌にしか集中していないように感じています。歌うっていうことが好きになってきています。バンドはみんな友達だし、かつみんなが即興性、身体性の高い音楽家です。ひとりの時に比べると、ある種、歌にフォーカスされていない美しい瞬間があるのも楽しいし、当たり前ですけど、ひとつの事柄に3人のアイデアがあることはとても幸せです。
──そういえば、いつも雪駄を履いていますね。
父親が祭りの用品店をやっていた時期があって、もらって履いてみたら自分に合っていた。エフェクターの踏み心地が一番いいんですよ。踏み違いもないし、ライブでは雪駄が一番だと思っています。
──<フジロック>を歩くときには雪駄だけでは厳しいかも。
だから長くつと雪駄で行きました。雪駄は潰れてもいいように2足持って。山を雪駄で登るのも楽しいんですよ。
──最後に今年の<フジロック>ではどんなライブにしたいと思っていますか。
もう準備ははじめています。こんなことをするのか…って思ってもらえたらうれしいですね。<フジロック>というお祭りを、自分たちのライブでも体感してもらえたら。自分個人としては、3日間いたいと思っています。
Text&Interview by 菊地崇(Festival Echo/フェスおじさん)