毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回登場するのは<フジロック>のファウンダー・日高正博氏。インタビュアーは、『富士祭電子瓦版』の立ち上げ人であり、<フジロック>オフィシャルショップ岩盤/GAN-BANの代表・豊間根聡氏が務めます。
『瓦版』でのインタビューは2016年ぶり。コロナの制限がある中でのテーマや来場者へのメッセージ、<フジロック>開催に至るまでの苗場の方々との関係性、お気に入りの景色、今年のヘッドライナーについてなど、幅広くお話を伺いました。
Interview:FUJI ROCK FESTIVAL FOUNDER・日高正博氏
“ルールではない”フジロックの共通認識
豊間根 日高さんの言葉で大好きなのがあって(メモって来たんです)え〜と、「好きな音楽を通じて、ゴミは自分で片付ける。食事は自分で何とかする。譲り合え。喧嘩するな。終わったら後片付けをちゃんとして帰ろう」っていう言葉で。考えてみると結局、<フジロック>のルールってこれだけですよね?
日高 ルールじゃないよ。ルールってなると、俺は「ぶっ壊せ!」ってなっちゃうからさ(笑)
豊間根 確かに。上から押し付けるわけじゃなくて、長年かけてお客さんの共感を得る形で<フジロック>の共通認識を作ってきました。
日高 そうだね。(フジロックは)それがなかったら成り立たないんだよ。大自然の中でやるフェスティバルだし。
豊間根 今年の開催では 「コロナとの共生」というテーマが追加されています。日高さんとして、先ほどの言葉に加えなければいけないことはありますか ?
日高 特にないよ。「コロナとの共生」も、結局は他人に対する思いやりを忘れずに、自己管理して、各自注意して楽しんで欲しいってことだから。今年も「マスクをつけてください」とか感染防止対策で一定の協力を求めるけど、それさえ守ってくれれば、思いっきり楽しんで欲しいね。
豊間根 譲り合え、喧嘩するな、あとは自由に思いっきり楽しめ。ですね。
日高 主催者側とすれば今年も(感染防止対策を施しつつ)万全の救護体制を敷く。だからお客さんは安心して楽しんで、遊んで、清潔に過ごして欲しいね(笑)。
豊間根 オールナイトも(朝5時まで)やることになりましたね。
日高 去年はアルコールなしだったけど今年はありだし。
豊間根 開催ひと月前に日高さんからお客さんへのメッセージとして伝えますね。
日高 とにかく各自注意して他人には思いやりを忘れずに、原則は守っていこうねということだよね。
豊間根 分かりました。俺からはここまでで。
日高 今何時?5時半か。ちょっと早いけど一杯飲むか?
編集部 頂きます!
5年近くかけて築いた苗場の人々との関係性
編集部 やっぱり苗場の人たちとともに作ってきたフェスなんだなといつもお話を聞いていて思います。去年、私たちも民宿に泊まったんですけど、民宿の方々が「コロナ禍で東京から出てくる時に批判もあったと思うけど、来てくれてありがとう」って私たちに言ってくださって。苗場食堂の方々もよく来てくれたねと。それまでは東京から来る人たちのことを苗場の方々は嫌がってるかも?と思っていたので、そう言われて感動しちゃいました。苗場の人たちと<フジロック>の繋がりの強さを感じましたね。
日高 5年近くかかったよな。当初は「反対反対反対」で。フジロックを始めた当初は苗場に住んでるようなもんだったよ。地元の方達と酒を飲んで話をして、仲良くなっていく。昔の苗場のスキーシーズンでは、いろんな事故も起こったらしいんだよ。お客さんのマナーが悪かったんだろうね。フジロックのお客さんには、そういうことをして欲しくなかった。まずは会場の外、とにかく17号線に「ゴミを落とすな」と。そして地元の人たちに挨拶をして欲しいと。街の人たちが驚いてたよ。「フジロックの人たちは道を歩きながらゴミ拾ってる」って。
ドラゴンドラは「こんなに面白いものがあるのかと」
編集部 <フジロック>のお客さんの中には、ラインナップだけじゃなくて「毎年あの景色を見たくて」「この景色で写真を撮りたい」って方も多いと思います。<フジロック>の会場で好きな景色ってありますか?
日高 やっぱり一番面白いのはドラゴンドラだろうね。俺ね、向こうの人から誘われて一番最初にドラゴンドラに乗った時に、「またこんな馬鹿なもの作りやがって」って思ったんだけど……ああいう自然の中の機械ものって俺は大嫌いなんだけど、まあ乗るだけ乗るかと思って行ってみたら、もう面白いのなんのってないわけよ。
編集部 乗った時には衝撃でしたよ。谷底に行ったり上がったり。その先に行くと本当に天国のような、帰れなくなるような。本当にドラゴンドラに乗らないと見られない苗場の景色ですよね。
日高 行った先にはいろんなアトラクションがあって、そこでみんなで遊んで。水洗トイレもあるしさ。今年もドラゴンドラもあるし、上のステージもやるから楽しんで欲しいね。往復に時間がかかるからスタッフは全然行けないけどな(笑)
編集部 行って帰ってくるだけで1時間くらいかかる。でも行った先で帰りたくなくなっちゃうくらい楽しいですよね。
日高 片道25分かかる。試験運転の時は俺一人だったんだけど、ジョー・ストラマー(Joe Strummer)が家族で来てたんだよな。行くか? って聞いたら「うん」っていうから、奥さんと子どもと連れて乗っけて行ったんだよ。喜んでたよ、ジョー・ストラマーが。あと冬の間は、あそこの右と左に鉄塔があるじゃん。そこにお人形が飾ってあるんだよ。パンダとか虎とか特に意味はないんだけど(笑)。それはそれで楽しいんだよね。
編集部 あとFIELD OF HEAVEN(フィールド・オブ・ヘヴン)あるじゃないですか。お客さんには見えないけど、ステージの裏側に小さい滝というか泉がありますよね。それを教えてくれたのが豊間根さんで。
豊間根 俺にそれを教えてくれたのが日高さん。99年、苗場で初めてフジロックをやる前。
日高 俺に言わせれば、わかってもらえるかわからないけどアメリカの西部開拓地みたいなもんだよ。その場所に行くとその瞬間にテーマと名前が浮かぶ。あと、Cafe’ de Paris(カフェ・ド・パリ)ね。加藤登紀子さんはあそこが大好きなんだよ。で、「私、毎年レギュラーね」って。それで去年「加藤さん、今年はあそこはできないんですよ」って伝えたら、「じゃあ私は出られないの?」と言うので、違うところを用意してるっていうので案内したのが、反対側のPYRAMID GARDEN(ピラミッド・ガーデン)。そしたら加藤さんえらい喜んじゃってさ。フジロックは東から西まで楽しいと言ってたよ。
「絶対ウケると思った」ジャック・ホワイトとの出会い
豊間根 7月30日(土)のヘッドライナーとして出演する、Jack White(ジャック・ホワイト)の出会いから<フジロック>初出演について教えてください。
日高 (WHITE STRIPESを)初めて見たのはグラストンベリーで、絶対ウケると思った。ブルース大好きだからさ。音楽性は全然違うけど、出てきたばっかりの頃のオアシスを見つけた時と同じ感覚だったね。運だよね、色んなバンドと出会うのは。
豊間根 本当に最近はブルースをベースに持った若手のロックバンドを見ないですね。
日高 でも最近は結構若手が盛り上がってきてるらしいよ。サイクルがあるんだよな。それはブルースだけじゃなくて、カントリーミュージックでも全部そうだよ。
豊間根 ジャック・ホワイトが初めて<フジロック>に出演した際に、何か彼は言ってたんですか?
日高 別にそれは無かったな(笑)。ただアーティストも、楽しいとか面白いとかやってみたいとか出てみたいとか色々あるけど<フジロック>はとにかく「楽しい」って聞くよ。ジャックはすごくナイーブでダイレクトには話してないけど楽しかったと思うよ。
Interview by Satoshi Toyomane &富士祭電子瓦版 編集部
Text by 富士祭電子瓦版 編集部
Photo by 横山マサト