毎回様々なゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力/思い出/体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は最終日のグリーン・ステージに出演する3人組、Awesome City Clubの登場です。

2018年のレッド・マーキーへの初出演時には、瓦版での取材で、2014年の<フジロック>で、アーケイド・ファイア(Arcade Fire)のライブを観たことが楽曲「GOLD」の制作に繋がったことを話してくれたAwesome City Clubの面々。約3年ぶりの出演となる今回は、映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソング「勿忘」のヒットなどを経て、いよいよメイン・ステージへの出演が決定しています。atagiさん、PORINさん、モリシーさんの3人に、<フジロック>に感じる魅力や、この3年間での変化を聞きました。

Interview:Awesome City Club

モリシー「アーケイド・ファイアのライブを観て、その経験から『GOLD』ができたのはいい思い出です。

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──みなさんが<フジロック>に初出演したのは、2018年のレッド・マーキーでのことでした。まずは初出演のライブについて、当日のことを思い出してもらえますか?

モリシー 初出演だったので、まずは「やった!」という気持ちでしたし、あの年はアンダーソン・パーク(Anderson .Paak)やボブ・ディランなど好きなアーティストがたくさん出ていたので、とにかくとてもワクワクしていたのを覚えていますね。

atagi そもそも、僕らは結成当初はフジロックのルーキー・ア・ゴーゴーに出ることを目標にしていて、何度か挑戦したものの、結局それは実現しませんでした。ですから、2018年に初めて呼んでもらえたときは、「純粋に嬉しい」という気持ちと、「ようやく出られるんだな……!」という気持ちの2つの感情があって、すごく感慨深い一日だったのを覚えています。僕はそれまで<フジロック>に行ったことがなかったので、色んなことが初体験でした。

──なるほど。atagiさんは、2014年の<フジロック>にも行っていなかったんですね。

atagi そうなんです。2018年はおっかなビックリな<フジロック>でした(笑)。

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──では、もともと<フジロック>にはどんなイメージを持っていたんでしょう?

atagi やっぱり、「音楽好きが集まるところ」というイメージですよね。行かない僕でも、毎年<フジロック>の季節になると色んな情報が入ってくるし、周りにも毎年のように会場に行く人達がいて、そういう人たちが<フジロック>から帰ってきたときに話を聞いていました。バンドを始めてからは、夏場は曲づくりで追い込まれていることが多くて、「行くタイミングがないなぁ」「来年行けたらいいなぁ」と思いながら、ずっと機会がつくれていませんでした。

PORIN 私はもともとレッド・マーキーが好きなので、2018年のときは出演できて楽しかったです。当日はお客さんがたくさん来てくれたし、お友達も来てくれていてすごく嬉しかったのを覚えています。

──ライブ自体もかなり盛り上がっていましたよね。レッド・マーキーがまるでダンスフロアのようになっていました。

PORIN 当時はライブ中に振りつけをしたり、ダンサブルに見せるパフォーマンスをしたりしていたので、あの日は実際に「レッド・マーキーをダンスフロアにしよう!」というテーマでライブをしていたんですよ。盛り上がってもらえて本当によかったです。

──その年は、他のアーティストのライブも観られたんですか?

atagi 実は、全然観られなかったんです。

PORIN スケジュールが詰まってしまっていて、すぐに帰らなければいけなかったんです。

atagi 僕は唯一行った<フジロック>がそんな形だったので、会場で観客としてライブを観たことがないんですよ……!

PORIN モリシーはライブを観られたんだよね?

モリシー ホワイト・ステージでやっていたMISIAさんのライブを、Suchmosのギター・TAIKINGと一緒に観に行きました。まるで海外アーティストのようなライブで、すごく印象的でした。

──その他に、過去の<フジロック>での印象的な思い出があれば教えてください。

モリシー やっぱり、2014年にPORINたちと一緒に行ったときに、2日目のグリーン・ステージでアーケイド・ファイアのライブを観て、その経験から「GOLD」ができたのはいい思い出です。あと、その直前にデーモン・アルバーン(Damon Albarn)が出演していたんでお酒片手に向かったら、混んでいたのに運良く前の方まで行けて。最前列でデーモン・アルバーンのライブを観ました。ブラー(Blur)の曲もやってくれて、友人と一緒にブチ上がったのを覚えています。

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PORIN 私が思い出に残っているライブは、2017年のエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)ですね。あのときは地獄みたいにどしゃ降りで。でも、それすらも演出みたいなステージになっていて最高でした。あとは、2017年のCorneliusのライブも印象的だったし、2014年にレッド・マーキーで観たセイント・ヴィンセント(St.Vincent)もかっこよかったです。

モリシー ああ、階段を登って、そこでギターを弾いたりしていたライブだよね。

PORIN そうそう! そのライブを観て私は「いつかレッド・マーキーに出たい!」と思ったので、2018年に実際に出られたときは嬉しかったです。

──会場でのお気に入りの過ごし方はありますか?

PORIN オアシス(・エリア)に行くと必ず友達がいて、みんなに会える。それが最高に楽しいですね。いつもあそこに行くと、大阪のレコードショップ「FLAKE RECORDS」の店長・DAWAさんとかがいて。

モリシー そうそう。DAWAさんが酔っぱらいながらオアシスに鎮座しているんですよ。そこで飲みながら話しているうちに、結構時間が過ぎてしまったりして……(笑)。

PORIN そうやって休憩しつつ、アーティストのライブがはじまったら観に行くのがすごく好きです。<フジロック>はアウトドアを楽しむ感覚もあるので、交流も深まりますよね。

──お気に入りのフードについても教えてください。

PORIN 私は鮎の塩焼き。絶対に買っちゃう!

モリシー 分かる!結構お腹いっぱいの状態でも、何か食べちゃうよね(笑)。ああいう串系のものはよく食べるかもしれないです。お酒を飲みながら。

──atagiさんは、ゆっくり過ごせるとしたらどんなふうに過ごしてみたいですか?

atagi やっぱり、自然を散策してみたいです。キャンプを楽しみつつ、ときどきアーティストのライブを観るような感じで行けたら楽しいのかなと。

──<フジロック>は、「ずっとライブを観なきゃいけない」という雰囲気ではないですよね。

PORIN そうですね。むしろ、あの空間自体を楽しみにして人が集まっているというか。そういうところが素敵だと思います。

PORIN「本当にミュージシャンのことを考えてくれているフェスだなと思います。」

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──改めて、みなさんが<フジロック>に感じる魅力を教えてください。

PORIN 今年は国内アーティストのみでの開催ですが、やっぱりそうそうたる海外のアーティストたちが立ってきたステージに立てることが、一つの大きな魅力ですね。これはミュージシャンにとって憧れの出来事だと思います。その他にも、新人に優しいステージ(ルーキー・ア・ゴーゴー)があるなど、本当にミュージシャンのことを考えてくれているフェスだなと思います。

──国内外のミュージシャンも音楽リスナーも一緒に混ざり合って音楽を楽しんでいるような雰囲気も、<フジロック>ならではかもしれません。

モリシー そうですね。会場にアーティストが出てきてお客さんと触れ合っていたりもしますよね。普通のライブ会場だとなかなかできないのに、あそこでは何故かアーティストとお客さんの距離が縮まるというか。アーティストもお客さんも、音楽好きとして同じ目線で音楽を楽しんでいるような雰囲気ですよね。

atagi あとは、出演する前から思っていたことですが、<フジロック>には特有の目線があって、ラインナップも「こういう人たちがいるから観てほしい」という提案があるように感じます。毎年、熱意を感じるラインナップなので、そこから得る新しい情報がたくさんあって。その中の一枠に、自分たちを選んでもらえるのも光栄です。僕も全体を通しての音楽の空気感のようなものを、今年はぜひ体感したいし、感じられたら面白いなと思っています。今年は国内のアーティストだけですが、ラインナップを見ると、何故か<フジロック>らしさを感じますよね。

──みなさんは今年、3年ぶりに最終日のグリーン・ステージへの出演が決定しています。出演決定を聞いたときの率直な感想を教えてもらえますか?

PORIN まずはグリーン・ステージに出られることに驚きました。「本当ですか!?」って。

atagi 最初、信じなかったんですよね。「いやいや、まだ早いですよ……!」って(笑)。

──グリーンは「GOLD」が生まれるきっかけになったアーケイド・ファイアを始め、みなさんが話してくれた多くのアーティストのライブが行なわれたステージですね。

atagi グリーン・ステージで演奏できることは、ミュージシャンとして誉れ高いことだと思います。それに、グリーンでライブをするとなると、3年前のレッド・マーキーでのライブと比べても、できることが広がります。だからこそ、どういう見せ方をして、自分たちらしいライブができるか、「真価を問われるところだな」と身が引き締まる思いです。

atagi「ガワで取り繕うような作品をつくりたいとは思わなくなった」

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──みなさんはこの3年の間に、メンバーの脱退やレーベル移籍、最近ではバンド自体も劇中に登場した映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソング「勿忘」のヒットなど、様々な変化を経験してきたと思います。特に印象的だったのはどんなことですか?

atagi 環境やマインドは日々変わっているんですけど、中でも今は、バンドの見え方やガワの部分に、あまりこだわらないようになってきたのかなと思います。前は「バンドとしてこういうふうに見られたい」「こういうところに出ているようなアーティストに見られたい」という気持ちが、僕らの中に結構あったんですよ。“インディペンデント魂”のようなものというか。そういったことを、今は気にしないようになってきていると思います。

──その変化は音楽性にも反映されていると思いますか? 最近のAwesome City Clubの楽曲は、普遍的なテーマでつくられているものが増えている気もするのですが。

atagi そうですね。前は「そのときどきのトレンドを自分たちなりに表現したい」という欲があったんですけど、今は「自分たちが歌いたいものを、自分たちらしく歌いたい」という、シンプルな気持ちに変化しました。「勿忘」をつくっているときにも、たくさんの人が聴いてくれることを考えたときに、どういう聴こえ方であるべきか、どういう言葉を使うべきかを意識したんですけど、そういう変化が各々にあったのかなと。

PORIN そもそも、Awesome City Clubは柔軟に活動してきたこともあって、過去の楽曲を振り返ると、そのときどきの雰囲気が分かるようになっていると思うんです。なので、最近普遍的なテーマで楽曲をつくっているのも、コロナ禍で、みんなも表層的なものよりも普遍性のあるものを信じるようになったから、という部分があるのかなと思います。それに、自分たちも年齢的に20代中盤から30代になってきて、一社会人として感じるものが増えてきて、それが曲にも反映されていると思います。

atagi 最近は曲をつくるときに、トレンドを考えないようになっているんですよ。マジで1ミリも考えなくなりました(笑)。もちろん、無意識のうちに出ているものもあるとは思いますけど、「ガワで取り繕うような作品をつくりたいとは思わなくなった」なと。そういうスタンスで曲づくりをして、聴いてくれる人が増えていることは、とても嬉しいです。

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──逆に、変わっていないことはありますか?

モリシー あるかなぁ……(笑)。

atagi 僕らの場合、変わっていないことを探すのは難しい気がしているんですけど、ひとつ言えるのは“楽曲至上主義”みたいなスタンスかなと思います。至上主義というとちょっと大げさですけど、「音楽愛を大事にしたい」ということはずっと変わっていないので。やり方は昔と変わっていますけど、そのスピリッツの部分は変わっていないと思います。

PORIN あと、楽しいことが好きなのは変わっていないよね。私たち、とにかく「楽しい!」と思える方向に行くバンドなので(笑)。

モリシー それはあるかもね。そもそもバンドを組んだのも、「楽しそうだから」というのが一つのきっかけでしたし。それはやっぱり、今でも変わらないことだと思います。

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──今年の<フジロック>は、新型コロナウイルス感染症の影響で、予防対策を重視したうえでの開催となります。ラインナップも<フジロック>史上初めて、国内アーティストに絞る形になりました。今年の開催ついて、みなさんはどんな気持ちでいますか?

atagi 曲づくりもそうですけど、何かイレギュラーなことが起きたときって、いい曲が書けたり、いいドラマが生まれたりすることがあるんです。例えば、第一回目の<フジロック>もイレギュラーだったからこそ伝説として語り継がれている部分もありますよね。そして今年の<フジロック>は、そのイレギュラーが開催前から決まっている異例の年です。でも、こういうときって、出る側は並々ならぬ思いを持って臨むでしょうし、なかなか味わえないような結束感が生まれるんじゃないかとも思います。当然、感染症対策を徹底して、可能な範囲で楽しむことが前提ですけれど、いつもと違う状況だからこそのワクワク感やドキドキ感のようなものを持って集まれば、きっとすごい景色が見られるんじゃないかと思っています。

モリシー 久しぶりにライブを観に来るお客さんは、それ自体に強い気持ちがあるでしょうし、僕らアーティストもお客さんの前で演奏ができることって、本当に嬉しいことなので。安全に配慮しながら盛り上がりたいですね。

PORIN 今年のような状況でも<フジロック>に来てくれる人は相当な音楽好きだと思うので、当日どんなふうになるのか楽しみですし、選び抜かれた国内アーティストたちが出演するので、日本ならではの文化を盛り上げていけたらいいなと思っています。

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──みなさんがライブを楽しみにしているアーティストがいれば教えてください。

PORIN まずは電気グルーヴが<フジロック>に戻ってくるのが楽しみです(「富士山」のライブパフォーマンスを真似しながら)。私はよく、映像を観ながら色んなアーティストのパフォーマンスを勉強しているんですけど、「富士山」の映像は結構観ているんです(笑)。本当に最高ですよね。

モリシー あと、忌野清志郎さんの「忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER with ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA」も観たいです。実はまだ一度も観たことがないんですけど、今年はSuchmosのYONCEくんも出るし、ギタリストの大先輩方も出演されるので楽しみです。

atagi 僕は、ミュージシャンとしてすごく影響を受けた平沢進さん(「平沢進+会人(EJIN)」として出演)のライブですね。最近、周りの色んな人が「平沢進さんが好き」と言っているのを聞くことが多くて、僕もそうですけど「隠れキリシタンがこんなにいたんだ」という感覚です(笑)。僕自身とても楽しみですし、待っている人がたくさんいると思います。

PORIN あとは、2日目に出演するAJICOも観てみたいですし、自分たちと同じ最終日なら、ceroも楽しみです。グリーン・ステージがすごく合いそうですよね!3日目は他にも、グリーン・ステージの秦基博さんやレッド・マーキーの羊文学、CHAIも楽しみです。フィールド・オブ・ヘブンのBEGINも気になる。

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モリシー 砂原良徳さんでも踊りたい!

atagi 上原ひろみさんも観たいなぁ……!

モリシー 同期のYOGEE NEW WAVESは1日目ですね。昔はよく一緒にいて、対バンしていたこともいい思い出です。

atagi こうしてラインナップを観ていても、<フジロック>はやっぱり一味違うというか、スパイスの効いたラインナップだなぁ、と思います。

──みなさんのライブについても、お客さんに楽しみにしていてほしいことを教えてください。

PORIN 結構ロングセットになるので、Awesome City Clubの色んな面が出せたらいいな、と思います。Awesome City Clubらしい多幸感というか、ハッピーな気持ちを受け取ってほしいですね。

モリシー グリーン・ステージは景色も開けていますし、僕らも気持ちを開いていきたいなと思います。

atagi 「勿忘」だけ知ってるよ、という状態で僕らのことを観に来てくれる人もいると思うので、そういう人たちを他の曲で踊らせたいなと思っています。そのうえで最終的には「歌を大事にしているバンドだよ」ということも、しっかり伝えたいですね。ちょっと欲張りに聞こえるかもしれないですけど(笑)。今の自分たちの集大成になるものを表現できるんじゃないかな、と思っています。

──バンドを結成した頃、グリーン・ステージに出る日が来ることを想像していましたか?

PORIN 全然想像していなかったです(笑)。でも、あの頃想像もしていなかったような色々なことが、今現実に起きていて、<フジロック>のグリーン・ステージもそのひとつだと思っています。あくまで「自分たちらしさ」を大切にして臨めたらいいな、と思っています。

atagi 音楽をやっていると、以前は「遠い目標かもしれないな」と思っていたことが、少しずつ近づいてくる感覚があって、僕らとしてはグリーン・ステージへの出演も、そういう感覚です。「こんなことあるんだ!?」という驚きの出来事なのではなくて、キャリアを積んできた今出演できるからこそ、純粋に嬉しいと思いながらも、「今ならこういうことができるな」と冷静に考えられるような状態でもあって。舞い上がるのではなくて、来てくれるお客さんに音楽が楽しいと思ってもらえるように全力で取り組みますし、そう思えるちょうどいいタイミングで呼んでいただけたのかなと、嬉しく思っています。

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2018年のインタビューはこちら

text&interview by 杉山仁
photo by Kazuma Kobayashi