毎回さまざまなゲストに登場してもらい、<フジロック・フェスティバル(以下、フジロック)>の魅力・思い出・体験談について語ってもらう「TALKING ABOUT FUJI ROCK」。今回は、国内外のリスナーおよびライブシーンから今最も注目を浴びる若手ロック・バンド、betcover!!を率いる柳瀬二郎が登場。

昨年は10月に5thアルバム『馬』をリリースし、初の全国ワンマンツアーを開催。今年もビルボードライブ大阪・横浜でのライブを成功させるなどbetcover!!の勢いは止まる所を知らず、<フジロック>にも初出演が決定。

念願だったという<フジロック>でbetcover!!はどのようなステージを見せるのだろうか。柳瀬二郎の抱えた美学に迫るべく話を訊いた。

Interview:betcover!!

0424_fuji_betcover_0054_re1 音楽がやりたいだけ。憧れのフジロックで、変わらないbetcover!!の美学を。 #fujirock

オルタナティブが主役になるお祭り

──<フジロック>に初出演することが決まりましたね。

めちゃくちゃ嬉しかったです。ずっと憧れていましたね。もう8年くらい活動していますけど、いつか<フジロック>のステージに立ちたいと思っていました。でも実は行ったことがなくて、お客さんとしても今回が初めてなんです。ジャック・ホワイト(Jack White)が本当に好きで、(ジャック・ホワイトの出演した)2022年は行きたいと思ったんです。けど、僕めちゃくちゃインドアなんで、ちょっと行けなくて(笑)。YouTubeの配信で観てましたね。

──<フジロック>に対してはどのような印象を持っていますか?

国内だと日本の文化、特にJ-POPなどから派生したフェスが多いと思うんですけど、<フジロック>は毛色が違うというか。オルタナティブなロックとか、そういったものが主役になるお祭りだと思っています。

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──初の全国ワンマンライブツアー<馬>で回った会場をはじめ、昨年からキャパシティの大きな会場でライブすることも増えてきたと思います。心境に変化はありますか?

最近はライブに対する考えが変わってきましたね。前は小さいライブハウスでやることが多かったんですけど、若干規模が大きくなってきて、以前より音楽的になってきています。小さい箱だとアンサンブルのごまかしが効いてしまうというか、その場の勢いで乗り切れる部分があったと思うんです。けど、<フジロック>もそうだとは思うんですけど、会場が広いと音の聴こえ方がかなりシビアになる。なので、それに向けて今は基礎練習をしています。

──もう少し具体的に言うと、どのような部分を意識しているのでしょうか?

ミスタッチは全然OKなんです。それよりもグルーヴやノリの部分、アンサンブルの空気感、全体の音の強弱、それとムードですね。もともと僕は吹奏楽部でフルートをやっていたので、いわゆるバンドらしくない、強弱を持った演奏をしたいんです。今はそこを調整しているところです。小さい箱も大好きなんで、その熱量をそのまま持っていきつつ、デカいところで通用する演奏ができるようにしています。

──弾き語りから7人編成でのライブまで様々な経験があるとは思いますが、編成ごとに柳瀬さんの役割に変化はありますか?

あまり変わらないですね。一応、バンドだと演奏中の指揮を執ってはいるんですけど、それを一人でやるか大人数かという違いだったり、まとめる人が多いか少ないかくらいの違いで、意識は変わっていないです。

ウチのバンドは「絶対ここを演奏してください」というところだけ決めていて、それ以外は毎回みんな好きに演奏しているんです。毎回違うことをメンバーみんなやろうとしているので、常に変化はありますね。

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もっとテキトーに、やりたいことをやる

──過去のインタビューではよく映画について言及しています。音源は耳で聴くだけの作品ですが、ライブはもっと視覚的な要素などを持ち込める分、より映画に近いと言えるかもしれません。柳瀬さんの中でライブをどのように位置付けていますか?

音源は映画やサウンドトラック的な、一つの物語のような形になればいいと思って作っているんですけど、ライブはお客さんが盛り上がればそれでいいという感じです。カッコよくて、音がデカくて、お客さんが楽しめればいい……いや、お客さんが楽しめればいいというのは嘘ですね(笑)。自分が楽しめればいいです。お客さんのことは考えてない。ライブまでそういうことを考えてしまうと、やれることが減っちゃう気がするんです。もっとテキトーに、やりたいことをやる。だから毎ライブ、尺の違う即興のパートを設けたりもしています。

──セットリストも毎回変えているんですか?

そうですね、曲のアレンジが毎回違うので、セットリストも全然違います。あとはこれはやっておいた方がいいだろうという曲を入れてますね(笑)。自分が観に行って一番知っている曲を聴けなかったら残念ですもんね。そこはリスナーとしての感覚です。

──<フジロック>でもそういった考え方は変えずにステージに上がる予定ですか?

なんとなく考えてはいるんですけど、あまり変わらないです。普段通り。今までやってきたことをやるのが良いのかなと思ってます。編成はまだ決まっていなくて、どうしようか考えてます。

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──先日行われたビルボードライブは7人編成でしたよね。

そうでしたね。7人……7人編成で自分もギター弾くと本当に何もわからなくなっちゃうんで、どうしようかなと思ってるんです。僕もギター弾きたくて、そこが迷いどころですね。

──2022年のアルバム『卵』は一発録りで制作された作品でした。ライブと音源制作をシームレスにしたいという意図もあったんですか?

実は一番新しいアルバムの『馬』も一発録りなんです。ただ、その理由はクリックを聴いて演奏するのが嫌だからで。普通にライブをするのと同じようにやっているんですけど、心持ちや演奏の空気感は全然違っています。制作では「ロックンロール!」というよりも情景描写ができるような演奏を心がけていて、アレンジも最低限。メンバーでイメージを共有して作りましたね。

柳瀬二郎が<フジロック>で観たいアクト

──<フジロック>はこれまで行ったことがないとのことでしたが、これまで観て特に印象に残っているライブはありますか?

僕、自分からチケットを買ってライブハウスに行ったことがあんまりなくて。知り合いに誘われたら行くんですけどね。もっとライブを観に行った方が良いと思うんですけど、インドア過ぎて、ライブハウスにお客さんで行くのはしんどい。実は一昨日、初めて行ったくらいなんです。江の島 OPPA-LAに行って、オーシーズ(OSEES)を観ました。めちゃくちゃ好きなんです、すごいカッコよかったですね。

アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)も行きたかったけど、チケットが取れなくて。あと5年前くらいに、ノックド・ルーズ(Knocked Loose)というアメリカのバンドを観に新宿・ANTIKNOCKと渋谷・clubasiaに行きましたね。モッシュして蹴られて(笑)。僕ハードコアがすごい好きで、Tシャツも買いました。最高でしたね。その2回が、たぶん自分でチケットを買って行ったライブですかね。

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──<フジロック>で観たいアクトはありますか?

ターンスタイル(TURNSTILE)が観たいです。ちょうどハードコアにハマっていたときに、めっちゃイケてるバンドが出てきたと思って。ハードコアでなおかつ洒落てる。そういうバンドって全然いないから、ちょっと抜けている感じがしますね。さっき話したノックド・ルーズはゴリゴリというか、メタル・ハードコア寄りなので全然違うんですけど、どっちも好きです。

あとキム・ゴードン(Kim Gordon)も観たい。それと、3日目に出演するALIはインドネシアのサイケデリック・バンドなんですよね……気になります。フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)も、すごくカッコいいですよね。

──頻繁にライブに行く方ではないとのことですが、これまでの人生でよく観ていたライブ映像はありますか?

ジャック・ホワイトの<グラストンベリー・フェスティバル>でのライブですね。それは中学の頃から今までずっと、2ヶ月に一度は絶対観ます。めちゃくちゃ影響を受けていると思います。ジャック・ホワイトのメンバーもスーツだった時期があって。ザ・ホワイト・ストライプス(The White Stripes)がスーツで、ジャック・ホワイトになってから最初の方だけスーツを着ていたと思うんですけど。

──ステージ衣装をスーツで揃えているのはその影響なんですね。

僕の好きなバンドはスーツの人が多いですね。マーズ・ヴォルタ(The Mars Volta)もニック・ケイヴ(Nick Cave)も、あとはスカパラも。ロックでカチッと決めるのが好きなんです。

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ダサくないように、カッコよくなきゃ。

──過去のインタビューで“和エロ”について話をしていたのが印象に残っているのですが、“和エロ”を感じるステージングというのはあるんですか?

石川さゆりさんや越路吹雪さんのテイストのようなものが大好きですね。あとオランダのシャンソン歌手のジャック・ブレル(Jacques Brel)。あの人のステージングはかっこいいですね。スーツで汗をダラダラかきながら、エロいと思います。日本人では町蔵バンドのときの町田康さん。すごく尊敬しています。町蔵さんもスーツを着てやっていましたよね。4、5年前に対談させてもらったんですけど、60歳を超えた今もめちゃくちゃカッコいいです。

──スーツは重要な要素なんですね。それと、若い人の名前がないですね。

古いものが好きというより、普通にカッコいいからです。最近の音楽も聴きますよ。ウチのドラム(Yudai Takasago)がメインでやっているCARTHIEFSCHOOLというバンドが日本で今一番カッコいいと思ってます。ずっと本人にも「一番かっこいいと思う!」って言い続けていて(笑)。それでウチのバンドに誘ったんです。

あと、古いものも別に古いものとして捉えていないというか、YouTubeで流れてきて今聴いたら全部新曲じゃないですか。今のいっぱい音が重ねられてギュッとしているものはよくわかんなくなっちゃうから、僕は。古いものは音数も少ないし。ただ、アイドルの曲でも展開が意味わかんないものもあって、そういうものもカッコいいと思いますね。そういえば昨日聴いたハロプロのBEYOOOOONDSの“ハムカツ黙示録”っていう曲がカッコよかったです。

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──betcover!!はSEに金井克子さんの“他人の関係”を使っていますよね。あの曲からも和エロ”を感じます。

めっちゃ好きだし、わかりやすいですよね、昭和風で。あれでずっとやっているから、聴くとライブするぞという気持ちになります。

──観客としても「betcover!!のライブが始まるぞ!」というマインドセットにしてくれる曲です。ちなみに<フジロック>ではbetcover!!を初めて観るお客さんも多いと思います。そういった環境の違いは意識しますか?

気にしないですね。「かますぜ!」って感じです。あとそもそも誰がファンかわからないっていう(笑)。盛り上がらないんですよ、betcover!!のライブは(笑)。ワンマンなら拍手もあるけど、基本的に音にノッたりしないというか、みんなジーッと観て、たまに拍手がある感じで(笑)。

──お客さんと接している感覚はあまりないんですね。

ないですね。一方的に演奏する。映画や舞台と同じです。“ショウ”という感じにできたらいいなと思ってます。だからアンコールも僕らはやらないんです。終わりに向けてガーッとやって一回終わって、緩い気持ちで1曲やるのがすごく嫌で。終わりを明確にしたいんです。あまりコミュニケーションが得意な方じゃないですし、しゃべれないんであんまりMCもしない。普通にプレイしたいだけなんです。すごく純粋な思いです。お客さんとコミュニケーションとかではなく、音楽がやりたいだけっていう。

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──ただ、先日の<SYNCHRONICITY’24>のライブではお客さんと「ロックンロール!」と叫び合うシーンもありましたよね。

そんなときもたまにあったりします。「ロックンロール!」と言ったらお客さんが「ロックンロール」って言ったんで、それに「ロックンロール!」って返して。たしかにその人とはコミュニケーションを取りましたね。でも、あれをMCで終わらせたくなかった。そういう偶発的なこともインプロの中に組み込んじゃおう、“ショウ”の一部にしちゃおうと思って、「早くやろう!」ってメンバーに言って演奏になだれ込んだんです。あれをMCのときだったり、演奏以外のときにやりたくない。リスナー目線では、それは一回覚めてしまう。

──リスナーとしての自分がライブ中も頭の中にいるんですね。

います。これは音楽をやり始めたときからずっとですね。どんどん大きくなっています。「ダサくないようにしなきゃ」、「カッコよくなきゃ」と。

──そういった意識がbetcover!!のライブの魅力を支えているわけですね。では最後に、これまで音源制作にもライブにもかなり精力的に取り組んできたbetcover!!の今年の活動の軸について教えてください。

これまで5年連続くらいでアルバムを出してきたので、ちょっとゆったり作ってみようかなと思っていて。だから今年はライブに集中する年になるかもしれません。<フジロック>の前の月に中国と韓国でライブがあって、<フジロック>のあとにもライブがありますし、秋頃にはツアーに出ようかと思っていたりしています。

Photo by 寺内暁
text&interview by 高久大輝