■７月２７日（金）
○朝
起きてすぐに晴天を確認。しかし天気予報によれば、続く土日は台風１２号の影響で暴風雨の予報が出ていた。ここで悩んだのは『ドラゴンドラか、アンフェアグラウンドか』だった。
今年はフジロックが湯沢苗場で開催されるようになってから２０回目。それを記念して地元の湯沢町とフジロックが協力し、英国最大の野外フェスティバル＜グラストンベリー・フェスティバル＞からその一部エリアである“アンフェアグラウンド”を日本へ初上陸させるというのが今年の目玉だった。
こんなことは今後きっとないのでその空気を吸いたいし、ドラゴンにも吸わせたいという母の想いとは裏腹に、ドラゴンは「アレにのりたいってば！」と言い続けていたのがフジロックでもお馴染みのアトラクション「ドラゴンドラ」。
乗り物大好きな君の気持ちはよくわかる。母も乗せてあげたい。だってドラゴンドラから観る景色は最高だから。でもやっぱり本場グラストへはまだ連れては行けないし、ドラゴンドラはたとえ台風のせいで今年乗れなくてもきっと来年乗れるはず。それに、まだ子連れでは未開の土地である奥のオレンジカフェ、カフェ・ド・パリエリアまで今年は足を伸ばして別のアトラクションも経験させたい…。
そう考えた母は朝ご飯を食べ終えたドラゴンに「今日はイギリスへ行こう！」と伝えた。「はぁ？」顔なドラゴンをよそに、ファルコンにもドラゴンドラではなくアンフェアグラウンドを選択することを告げる。すると「知らないわよ。この子は絶対にドラゴンドラに乗りたいって言い続けるわよ」と渋い顔をされながらも、非常食、着替え、遊びアイテムを最終チェックしていざ出発！
ゴンちゃんや“苗場”と描かれた旗がはためく青空の下、ゲートをくぐり、ゴミ箱アートの格好良さに目を奪われながらひとまずグリーン・ステージへ向かった。
○昼
MONGOL８００の完璧なまでのパーティ仕様のセットリストに母は反応するも、ドラゴンドラに今日は乗らないと告げられたドラゴンは「まぶしい！」を連呼してブスっとステージを見つめていた。
あまりの暑さから逃げるようにして移動した木陰は、ドラゴンが昨年トンボを追いかけ回していたエリアだった。すると突然「トンボはナツからくる！」と言い放ち、母とファルコンを驚かせた。楽しかったことは記憶に残っているようだ。そこでは「小さな恋のうた」からの「Don’t worry be happy」という美しい流れを堪能し、移動開始。
ドラゴンの今年の足下アイテムは、先輩こどもフジロッカーからお下がりで譲り受けたKEENのトレッキングブーツ。１歳の時は履いてくれなかったけれど今回はまったく嫌がらずに好んで履いていた。
歩いて５分程度でKIDS LANDに到着。昨年よりも一層カラフルでポップなペイントが施された巨大遊具に目がとまる。
ほどなくKIDS LANDの森のステージにエリックが登場し、森の音楽会が始まった。Eテレ「えいごであそぼ」のヘヴィ・ビューアーだったドラゴンは、踊りまくる小学生に圧倒されていた。今でも録画した番組のエリックに合わせてギターをかき鳴らしているだけあって表情は真剣そのもの。
子どもも大人も英語と歌で遊んだ後は、昼ご飯を求めてオレンジカフェを目指して出発！ ところ天国を抜け、橋に来たところでドラゴンが「とまって！」と声をあげた。
川下を観察していたので「川で遊ぶ？」と聞くと「ウウン。オネツでちゃうから、きょうはやめる。でもぉ…、こんどはいる」と首を横に振った。明日からは台風なんだよなあ〜と思いつつ、バギーを押してボードウォークへと進んだ。
ホワイトステージからはMy Hair is Badのサウンドが溢れてくる気持ちのよい道が続く。フジロックのために靴を新調したファルコンも歩きやすそうだ。ドラゴンはマッドバニーを見つけるのに忙しく、遂にはバギーから脱走して森に溶け込んでいた。それにしてもいい笑顔を見せてくれるのでこちらも嬉しくなる。
そうこうしているうちに、アンフェアグラウンドへ辿り着いた！
「イギリスに着いたよ！」と言う母に「いぎりす…？ ここ？」と疑わしい顔を向け、そこかしこに点在する奇抜なオブジェにも引き気味なドラゴン。
夜が本番であるアンフェアグラウンド。そのため、テント内を観察しても昼間は何もないので「ママ−、ここ、なーにー？」と不思議そう。「暗くなったらイエイイエイが始まるんだよ」と言うと「えーっ！」と驚いてみせたけど、きっとわかってない。
そのまま奥へと進んで行くと「ドンドンドン」という太鼓の音が聴こえてきた。ストーンド・サークルだ！
音の鳴る方へ寄っていくとテントに入りきれない人たちが外でも楽しそうに何かを叩いたり、シェイカーを振ったりして音を出していた。中に入れないドラゴンはシェイカーを手に取って振りはじめたが、あまり楽しそうではない。
「どうしたの？」と声をかけると「アソコにはいりたい」とドンドンする方を指さして、シェイカーも置いてきてしまった。結局入れないまま終了したのだけれど、ドラゴン同様に入れなかった人たちがすぐになだれ込んで空いた椅子を占拠。そんなオーディエンスのために少しだけパフォーマンスをやってくれたのでドラゴンも参加できた。
バチを手にした彼は、水を得た魚のように全身を使い、飛び跳ねながら勇ましく叩き始めた。その姿を見て母は「何でもかんでも教える必要はないんだな」と悟った。
太鼓も叩けて満足した後は、同じエリアにあったボルダリングに挑戦。過去、ボルダリングに遭遇した際、年齢制限に引っかかってやらせてもらえず大泣きしたことがあったけれど、ここでは「勝手にどうぞ」といった具合で大人も子どもも参加できた。やる気満々のドラゴンだったがやはり３歳には難しく、できないのに何度もトライするので担当していたお兄さんが途中でアシストを放棄する始末。母は手を貸すことはしないけれど、奮闘後は「かっこよかったよ！」と伝えたところ、「おおきーくなったら（手振り付き）、できるようになる！」と言い、自分の悔しい気持ちを一所懸命収めていた。
ちなみに、この「おおきくなったら、できるようになる」というのは昨年の朝霧ジャムで自ら学んだドラゴン愛用のマジカルフレーズである。
３歳児の２連続チャレンジが終わり、暑さでクラクラし始めた頃、ファルコンが１時間以上も並んで買ってきてくれたかき氷を手にやってきた。これも「こどもフジごはん」で紹介した四代目徳治郎のメニューだ。３人でバクバク食べて束の間の涼しさを味わった。
その後、イギリス色の強いユーモア満点の“脳みそを打ち抜くゲーム”で遊んでから、熊の剥製にも乗せてもらった。
このときは、まさかこの可愛いアート・エリアが翌日の台風で吹き飛ばされることになろうとは思いもしなかった。
その後、フィールド・オブ・ヘヴンを通過し、ジプシー・アヴァロンへ。
ここでドラゴンは昼寝タイムに。
そのまま新しく出来たアヴァロン裏手の林道へ進むと、そこにはピースフルで森林浴ができる静かな憩いの場が広がっていた。３歳児が寝ている間、豊かな自然の中でうっすら音楽が聴こえ、深呼吸してのんびりと休憩できたのはとても贅沢な時間だった。
○夕方
昼寝から目覚めたドラゴンは、すぐに「アレにのる！」と言ってKIDS LANDにあるメリーゴーラウンドに乗り込んだ。
このドイツ生まれのメリーゴーラウンドは苗場でこどもフジロッカーズを乗せて楽しませて１９年、遙々ドイツから海を渡って来日してから３０年以上が経過しているそうだ。通常のトラック荷台ではサイズが合わないため、このメリーゴーランドのために改良した専用トラックで毎年運ばれてくる。
お次は一家で楽しみにしていた駄菓子屋へ。
ドラゴンはこの日のために一所懸命お金を覚えてきた。母も「初めてのお使い」ならぬ「初めてのお買い物」はフジロックでさせたいと考えていたので、それなりの練習を積んでこの日を迎えた。ドラゴンの第１スポンサーであるファルコンと母が見守る中、お遣いを手にドラゴンが「コレクダサイ！」と言って購入したのはチュッパチャプス１本だった。
大事そうにその包みをあけるドラゴンに「買えたねえ！」と声をかける。ふと視線をずらすと大量のバギーがKIDSの森前に駐車されていた。
日も暮れ始め、エレファントカシマシとサカナクション目当てのオーディエンスの大移動が起きる前に、ひとしきり遊んだドラゴンとファルコンを先に見送る。後で聞いた話だが、宿に戻るまでの道中ずっと「ママがいなくなっちゃったー！ ママがダイスキ−！ ママがいい−！ ウエエエエエエーン」と絶叫、号泣をしながら真っ赤な顔をして怒っていたそうだ。
そうとは知らぬ母は、ファルコンに甘えて夜のフジロックを堪能させてもらっていた。エレカシでは夕焼けに染まる茜色の空とバンドの熱さとが重なって、非常に美しい光景だった。心に響くステージを少しでも観られたことは幸せなことだ。
その後、KIDS LANDへ立ち寄ってからサカナクションを少し観て、待ち合わせのためオアシスへ移動。
するとウルフルズの「ガッツだぜ!!」が聴こえてきたので苗場食堂へ移動し、トータス松本に続き奥田民生の歌を聴いてから編集者と落ち合って夕飯を食べ、子連れ写真を撮りつつN.E.R.Dへ。初めて観たファレル・ウイリアムス率いるN.E.R.Dは予想以上に好みのライブを展開してくれ、初日に満足して終了。
